29:第二の爆破
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会談を終えたクレアとウィリアムが応接室から出てきた。二人はかれこれ二時間くらい話し込んでいたのだった。
話題に上がったのは爆破の件だけではない。連続誘拐事件で逮捕されたローラント・ザックスが莫大な賄賂を支払って釈放されたこと。帝都での犯罪件数が増加していること。そして、圧政を行っている女王について……。
「女王の悪政に関しては、今度詳しく聞かせてもらおう。なんて愚かな独裁者なのだ。許しておけぬ」
「クレア殿、くれぐれも公の場で女王の悪口を言ってはならんよ。誰かに聞かれたら密告されかねないからね。実際、女王を批判して処刑された者もいる」
ウィリアムは警告した。女王がいかに恐ろしい存在であるか、クレアに理解させておきたいと思っていた。
これに対し、クレアはますます女王への怒りを募らせるのであった。
いずれ女王を倒さねばならない、と彼女は感じていた。
「今日も忙しいのか?」
「そうだね。夜まで予定がギッシリだ」
ウィリアムはこの後も仕事があるため、そろそろクレアの屋敷を離れなければならなかった。
彼は住居を爆破された直後だが、それでも休む暇はない。
「お話の途中ですが、私たちはここで……」
ハナが立ち上がった。それに続いてカトリンも慌ててティーカップを置き、席を立つのだった。
彼女たちはウィリアムについていく必要がある。よって、ここで女子会はお開きとなった。
「では、失礼するよ」
「うむ」
クレアとノーラ、エリーの三人はウィリアムたちを玄関まで見送ることにした。
「お邪魔いたしました。美味しい紅茶とお菓子までいただき、どうもありがとうございます」
丁寧な作法でペコリとお辞儀をするハナ。彼女はいつも綺麗な姿勢を保っている。
上品な振る舞いと礼儀正しさが相手に好印象を与える。ハナはそのことを理解しているようだった。
「あのクッキー、凄く美味しかったです! また食べたいです!」
カトリンがノーラの手を握りながら言う。彼女はすっかり、ノーラの手作りクッキーの虜になっていた。
「かしこまりました。次いらっしゃる時はもっとたくさんお作りしますね」
ノーラは微笑んだ。
「またお話しましょう」
エリーが言った。
盛り上がっていたところで会話が途切れてしまったので、いつかこの続きを話したいと思っている。
「はい。また今度!」
カトリンが笑顔で応える。
彼女もエリーと同じ気持であった。今日はとても楽しい時間を過ごすことができたと思っている。
エリーはメイド仲間として彼女らと良い関係を築くことができたと感じていた。
特に優秀なハナからは、メイドとして学ぶべきところがたくさんあるといえる。普段はノーラという立派なお手本がそばにいるのだが、他の屋敷のメイドと接することで、いつもとは違う刺激を得ることができた。
「先ほどの件、よろしく頼むよ。クレア殿」
「わかっている。任せておけ」
別れの言葉を交わす。そして、ウィリアムたちが屋敷の前に停めてあった馬車に乗り込もうとしたその時だった。
―――ドォォォォォォォォン!
突然、爆発音が鳴り響いたのである。
北の方角だった。遠方から煙が上がっているのが見える。
「い、今のは何……?」
戸惑うエリー。爆発が起こったのはここから離れた場所だった。しかし、恐怖を感じずにはいられなかった。
クレアとウィリアムはお互いに顔を見合わせた。
二人とも考えていることは同じだ。
(これも昨日と同じ爆破テロなのではないか……)
この事件は奥が深いと思われる。
犯人の目的は一体何なのか?
「美術館が爆破されたようです。旦那様、どうされますか?」
ハナはこの状況でも冷静だった。どんなことがあっても慌てずに、落ち着いて対処できるところが、彼女の長所である。
「今からそこへ向かう。まずは被害状況の確認だ。負傷者がいるかもしれない」
ウィリアムは帝都の安全を守る者としての使命を感じていた。
何の対策もできないまま、第二の爆破が起きてしまった。何たる失態。もうこれ以上は被害を出すわけにはいかない。犯人をすぐに捕まえなくては……。
「私も行こう」
クレアは危険を承知でウィリアムについていくと言い出した。
まだ犯人が近くにいるかもしれない。だとすれば、今こそ確保のチャンスだ。
「わかった。慎重に行動するように」
クレアたちは爆発が起こった場所へ向かうことになった。
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