25:集団転生
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クズたちを異世界へ送り出す前に、女神は下準備を行っていた。
彼女は転生者のためにスキルを授けることにしたのである。
「自分の身は自分で守る。それが鉄則です。ですが、そのためには能力が必要となります。よって、皆さんにはそれぞれ一つずつ、スキルをお受け取りいただきます」
そう言って、女神は肩から下げた赤いポーチから、透明なガラス玉を取り出し、テーブル上にそっと置いた。
転がらないようにガラス玉の下にはクッションが敷かれている。
「では、こちらの水晶玉に手をかざしてください。お一人ずつ順番にどうぞ」
女神はニコニコしながら水晶玉の前で待機している。
順番にそうぞ、と言われたが、一番目を名乗り出る者はいなかった。
彼らは不安だった。得体の知れぬ水晶玉に不気味さを覚えずにはいられなかった。それに触れた瞬間、何が起こるかはわからない。まずは誰かが実験台になってほしい、と皆が思っていた。
「大丈夫ですよ。別に怖くありませんから。この水晶玉は皆さんにスキルを授ける魔法の道具なのです。これに触れると、こちらのモニターにあなたが取得したスキルが表示されます。とても面白そうでしょう? ワクワクしてきたでしょう? さぁさぁ、早くやりましょう!」
女神がはっぱをかける。水晶玉を使えば、くじ引き感覚でスキルを引き当てることができるのだ。誰がどんな能力を手にするのか、彼女はとても気になっていた。
まだ誰も手を上げない。クズたちは怪しむような目で水晶玉を観察している。
「お? なんや、誰もやらへんのかい。もしかして、ビビってるんか?」
そう言いながら、関西弁を話す小太りの男が我先にと前に出てきた。
「ほな、ワシから行かせてもらうで。これに手をかざせばええんやな?」
「そうです。簡単に終わりますよ」
男はためらうことなく、右の手のひらを水晶玉に近づけた。
すると、水晶玉は青い光を放ち始めるのだった。
「うおおっ? 玉が光っとる!」
モニターには「スキル:火力魔法」と表示された。
「……何やこれ? 火力魔法やと? ワシは魔法使いにでもなったんか?」
「おめでとうございます。どうやらあなたには、魔法の適正があったようですね」
「はえー! ようわからんけど、ワシって天才やったんやなぁ」
男は上機嫌になった。隠された才能に気づかされ、興奮している。
それを見ていた他の者たちは「おぉ……」と驚きの声を上げ、次第に関心を示し始めた。
「じゃあ、次ウチやるねー」
二番目に出てきたのはギャル風の女子高生だった。日焼けサロンで焼いた小麦色の肌と濃いメイク、ロール状の金髪が特徴的だ。
彼女が水晶玉に手をかざすと、再びそれは青い光を放った。
モニターには「スキル:瞬間移動」と表示される。
「待って、ナニコレ。超ウケる。瞬間移動とかマジ最強じゃね? ヤベー人に絡まれても、ソッコーで逃げられるっしょ!」
「出ました、瞬間移動! これは今一番人気のスキルですね」
「えー、マジー? ウチ超キテるわー」
便利そうな能力が次々と出てくる。乗り気ではなかった者たちも「これは面白そうだ」と感じ始めた。
やがて、「次は俺だ」「俺がやる」「私よ」と言い出す者が現れ、順番争いになった。
手をかざす度にスキルが判明する。
防御魔法、怪力、ステルス能力。電撃魔法に透視能力。さらには、召喚魔法というものもあった。
全員がそれぞれのスキルを手に入れたところで、女神が再び転生先の世界について説明を始めた。
「その世界で使われている言語は主に日本語です。たまに英語も使われますが……。そして、通貨の単位も日本と同じ『円』で設定しておきました。その方が、皆さんにとっては都合がいいでしょうからね。どうです? こう見えて私、結構気が利く女神なんですよ?」
創造神である彼女が、世界を構成する要素をすべて設定している。
言語の問題を取り除き、金銭感覚も転生前と差が出ないようにするなど、転生者に対して配慮を行う形となった。
彼らを存分に暴れさせるため、障害になり得るものは極力排除しておきたいと考えていた。
フィールドはすでに整っている。クズどもはどんなことをやってのけるのか、非常に楽しみである。
「では、ゲートを開きます。クズによるクズのための世界が待っています。皆さん、遠慮はいりませんよ。今まで通り、いえ、今まで以上にご自身のクズっぷりを発揮してくださいね」
新たなクズが投入される。
彼らは女神が厳選した筋金入りのクズだった。
前世で悪徳を重ねてきた者たちは、二度目の人生をどう生きるのだろうか。
「では、いってらっしゃいませ!」
世界はさらなる混沌と闇に包まれる……。
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