24:第三の世界
感想をお待ちしております。
死んだ人間の魂は、生前の行いによって行き先が決まる。善いことをしていた者は天国へ行き、悪いことをしていた者は地獄へ落ちる。
天国か地獄か。本来、それを決めるのは閻魔大王である。しかし、閻魔様に代わって死者の処遇を決定する権限を持つ存在がいた。
それが、女神と呼ばれているこちらの少女。
赤いロングヘアが特徴的で、見た目は十代後半くらい。
右手には彼女の身長を超える木製の杖が握られている。
彼女は日本人の魂を死後の世界へ案内する神様だ。そのため、日本語が非常に堪能だった。
女神は閻魔大王よりも偉い。どんな悪人であっても、彼女が天国行きを決めたならば、その者は閻魔大王のジャッジを受けることなく、地獄行きを免れることができる。反対に、善行を重ねてきた人間が女神の気分次第で地獄に落とされる可能性もある。
つまり、日本人の死者の運命は、この女神にすべて委ねられているということだ。
何でも自由に決められる。やりたい放題の存在。それが女神だった。
しかし、当の女神は退屈していた。魂の行き先が、天国と地獄の二択だけでは面白くないと思っていた。
ならば、他の選択肢を用意してはどうか。そう思い立った彼女は、自らの好みに合わせて、天国でも地獄でもない<第三の世界>を創造してしまったのである。そして、死者をその世界に転生させ、彼らが奮闘する姿を見て楽しもうと考えたのだった。
こうして、女神は退屈しのぎのために、死者を使って遊ぶことになった。
だが、普通の人間を眺めているだけでは物足りなかった。彼女はいつもカオスを求めている。平凡な日常ドラマはいらない。スリルや興奮といった、いわゆるエンターテイメントの要素が欲しい。場を盛り上げるためには、ド派手なアクションシーンも重要だ。また、人間の心の闇を垣間見る瞬間も外せない。そのため、凡人には成し得ない「悪行」をやってのける人材が必要だった。
よって、女神が創った<第三の世界>には、「外道」や「鬼畜」と呼ぶに相応しいクズの人間が送り込まれることになったのである。
そして、今日もまた、クズたちが女神の前に集められていた。
今回はかなり人数が多い。いつもは多くても二、三人ほどであるが、今この場にはざっと数えて二十人はいる。まるで、クズのバーゲンセールだ。一体なぜ、これほどたくさんのクズが一度に揃ってしまったのか。
「クズの皆さま、お待たせいたしました。これより、オリエンテーリングを開始します」
女神はいつも以上に張り切っている。大量のクズが集まったことで興奮しているようだ。
ここは「審判の場」と呼ばれる女神の特設スタジオだ。彼女はいつもここで、死者に対して死後の世界の案内を行っている。
「クズ……? 我々が、ですか?」
眼鏡をかけた燕尾服姿の男が反応した。スラリとした体形で、顔立ちも整っている。見た目はかなりの紳士だった。
「はい。あなた方は正真正銘のクズです。生前の行いをよーく思い返してみてください。色々と悪事をはたらいてきたでしょう? まさにゲスの極み人間でしたよねぇ?」
女神は煽るような口調で話す。すると、目の前にいる者たちはムッとした表情を見せた。クズ呼ばわりされることに不快感を覚えているようだ。
一方、中には自分がクズだと素直に認めている者もいた。
「ああ、そうや。姉ちゃんの言う通りや。ワシはクズな男やった。えらいたくさんの人に迷惑かけてもうたわ。でもな、今はホンマに反省しとる。せやから、地獄行きだけは勘弁してくれへんやろか?」
関西弁で話す小太りの中年男性。彼は自らの過ちを認め、反省していることをアピールするのだった。
「それはご心配なく。皆さんはこれから地獄へ行くわけではありません。新しい世界で新しい人生を送っていただくことになります」
女神は微笑みながら説明する。
それを聞いたクズたちはざわつき始めるのだった。
「新しい人生……? もしかして、あたしらをもう一度生き返らせてくれるってこと?」
「ホンマかいな! そりゃええわ。今度こそ、ワシはしっかり真面目に生きたるで。酒もタバコも、もちろんやめる。仕事もちゃんと続ける。新しいワシに生まれ変わるんや!」
「はわわわ……。何がどうなっているのか、さっぱりわからないのですぅ……」
彼らは転生することになるが、ここで女神は注意事項を付け足した。
「ただし、その世界はとても荒れています。殺人や強盗、誘拐などは日常茶飯事です。皆さんの命も危険に晒されることがあるでしょう」
「な、なんやて?! そんなん困るわ!」
「ふぇぇぇぇ……」
動揺するクズたち。思っていたよりも厳しい環境で生きていかねばならないことを知らされた。
「ふざけんな! どうしてわざわざそんな危ないところで暮らさなきゃいけねぇんだよ。もっと安全な世界へ行かせてくれ」
「そうよそうよ。あたし、殺されるとか絶対ヤダ」
不満が続出した。転生を拒む者たちが大半を占めている。このままでは収拾がつかない。
しかし、これも女神にとっては想定内であった。
彼らが納得して転生できるようにするには、不安を取り除いてやる必要がある。
そこで、女神は彼らのためにアドバンテージを用意していることを伝えるのだった。
「もちろん、このまま転生するのは不安でしょう。ですので、皆さんには特殊能力を授けたいと思います」
「特殊能力? 何だそりゃ?」
ピンとこない彼らに女神は説明を行う。
話の本題はここからであった。
お読みいただきありがとうございます。
感想をお待ちしております。




