19:隠された真相
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レーネが最後に書いた日記を読むエリー。すると、彼女は嫌な汗をかき始めたのだった。
胸騒ぎがして、落ち着かなかった。鼓動が速くなり、呼吸も荒くなった。
これは一体どういうことなのか。
最後のページだけ、それまでの日記とはまるで雰囲気が違うのだ。
以下はレーネが一昨日に記した日記の全文である。
『これから私は試練を迎える。おそらくこの日記もこれが最後になるだ
ろう。どうかエリーには元気に生きてほしい。私にとってあの子はま
さに、妹のような存在だった。とても前向きでいつもあの子に励まさ
れてばかりだった。辛いことが多い日々だったけれど、今日まで頑張
ることができたのは、あの子のおかげだ。二人で掴む幸せな日々。そ
こにたどり着くことはできないかもしれない。だけど、エリーならば、
わたしの分も懸命に生きて、幸せになってくれると思う。私は忘れな
い。あの子と過ごした日々を。』
レーネの最後の日記は、とても奇妙なものであった。まるで遺書のような内容が書かれているのだった。
まさか、そんなはずは……と、エリーは思った。これが彼女の遺言だと認めたくなかった。
まだレーネは生きている。これは遺書などではない。そう信じたかった。
だが、彼女の身に何かがあったのは確かだ。しかも良くないことが起こったと思われる。まるで自らの最期を予感しているような文言が綴られているのだ。その事実だけはどうしても無視することができなかった。
この文章は内容以外にも気になるところがある。それは、不自然な形で改行されているということだった。
他の日の日記はページの端から端まで文字が埋め尽くされているが、最後の日だけは違った。文字を書くことができるスペースがまだ十分残っているにも関わらず、文章の途中で突然改行がされているのだ。
これには何か意図があるのではないかと思われる。レーネはこの日記を読む人に伝えたいことがあったのではないだろうか。
文字の幅も均等だった。びっしりと敷き詰めるような形で文字が並んでいる。縦にも横にも綺麗に揃っているのだ。
「縦……?」
エリーはあることに気づいた。
この日記は横書きとなっているが、縦に読むこともできるではないか。
そして、彼女は見つけてしまった。
レーネが本当に伝えたかったメッセージを……。
各行の先頭の文字を縦読みすると、次のような文字列が完成する。
『ころされるこわい』
そう、レーネは何者かに命を狙われていることを悟っていたのだ。
だから彼女は死を覚悟して、不可解な日記の文章を残した。その日記を読んだ人間が違和感を感じるように、敢えて不自然な形で文字を書いたのである。隠された真相に気づいてもらう必要があったから……。
エリーは焦燥感に駆られた。いや、今さら慌てても遅いかもしれない。レーネが既にこの世からいなくなっている可能性が大いにあるからだ。
嘘だ。こんなの嘘だ。
彼女はきっと無事だ。どこかで生きている。死んでなんかいない。もしかすると、この日記はちょっとしたドッキリで、自分を揶揄っているだけなのではないか。
現実逃避を始めるエリー。都合のいい解釈ばかりが思い浮かんでくる。最悪の事態は想像もしたくなかった。もう、このまま真実が明らかにならなければいいのに。そんなことを思うようになっていた。
「違う……。違う、違う……!」
涙が溢れ出す。
本当はわかっているのだ。もう手遅れであるかもしれないということを。
誰かがレーネを殺したというのなら、その犯人はローラントだろう。
仮にローラント本人が直接手を下したわけではなかったとしても、彼がレーネの殺害に関与していることは間違いなかった。
なぜなら、彼は嘘をついているからである。
レーネをクビにした、と彼は言った。彼女が酒を断ったから、という「いい加減な理由」を付け足して。
あの男は隠しているのだ。レーネの身に起きたことを。やましいことがあるから、おかしな嘘をついた。そう考えるのが妥当といえるだろう。
問い詰めてやる。あの男の罪を暴く。
エリーはローラントのもとへ向かうことになった。
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