15:希望の未来へ
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主人からの虐待に耐えながら、屋敷で召使いとして働き続けるエリーだったが、この生活から抜け出すために行動を起こすことを決めた。それはすなわち、転職に向けたスキルアップである。
ハウスメイドを募集している屋敷は他にもあるはずだ。給料は安くても構わない。ここの主人とは違い、理不尽に怒鳴ったりパワハラをしてこない人に仕えることができるなら、それだけでいい。
家事のスキルを磨いて、実力を認めてもらうことができれば、今よりもっと待遇の良い屋敷で働くことができるはずだ。だから今は辛いけれども、一生懸命に仕事をしよう。腕を上げて優秀なメイドになれば、きっと誰かが手を差し出してくれると思う。
エリーはひたすら前向きだった。苦しい状況であっても、弱音を吐くことはなかった。
どんなことがあっても、絶対あの男に屈したりはしない。彼女はそう決心するのであった。
「よかったわ。元気そうで」
よく晴れた日の朝。屋敷の庭掃除を行っている時のことだった。
レーネがエリーの顔を見てそう言ってきた。
「いきなりどうしたんですか?」
唐突なレーネの一言に意表を突かれるエリー。箒で掃き掃除を行う彼女の手がピタリと止まった。
「だって、昨日はあんな酷いことがあったから……。もう立ち直れないんじゃないかと思って心配していたのよ。でも、今日は何だか生き生きとしているわね」
昨日の晩餐の時間、主人から大きな苦痛を伴う命令を受けたエリー。あと少しのところで衣服を全部脱がされるところであった。未遂に終わったものの、十六歳の乙女にとっては耐え難い苦しみであったに違いない。それでも、彼女は今日も凛とした表情で仕事をこなしている。
むしろ今までより顔つきが良くなっている。目力も少し強くなった。
一夜明けて、彼女の身に何が起こったのだろうか、とレーネは不思議に思っているのだった。
「私、決めたんです。是が非でもここを抜け出してやるって。もっといいところで働きたい。そのために今はとにかく頑張ろうと思います。だからクヨクヨしないことにしました」
そう言って、エリーは微笑んだ。その表情は明るかった。
「そう。本当に凄いわ……。あなた、とても強いのね。私も見習わなくちゃ」
「いや、そんな……。大したことじゃありませんよ。ちっとも強くありませんし。ただ、私は弱い自分のままでいるのが嫌なんです。自分を変えたいんです」
エリーの瞳は未来を見据えていた。絶望ではなく、希望に満ちた未来を。
「尊敬するわ、エリー。そうよね。いつまでも弱いままじゃいけないものね。私も強くなるわ。あなたに負けないくらい、強くて立派な人間になってみせる」
レーネは落ち込んでいるであろうエリーを励ますつもりでいたが、逆に自分が勇気づけられてしまったのだった。
可愛い後輩であり、同じ道を歩む仲間でもある。そして、共通の敵に立ち向かう戦友だ。
辛い日々を送っているが、お互いに励まし合いながら、今日までやってきた。もちろん、これからも……。
「レーネさん」
エリーはレーネの方を向いて言った。
彼女は真剣な面持ちだった。
「幸せになりましょう。私と、一緒に」
二人で自由を掴み取る。二人揃って幸福を手に入れる。そういうつもりで言ったのだが……。
「あら、それってプロポーズなのかしら?」
「えっ? ええっ?! ち、違いますよ! 別にそういう意味で言ったわけじゃ……」
「ふふふ」
予想外の反応をされ、戸惑うエリー。思わず顔を赤くしてしまう。
「ありがとう。あなたのおかげで、私も希望が持てそうだわ。ええ、そうね。二人で一緒に幸せな未来を手に入れましょう」
レーネはエリーの両手を握る。
二人は互いに見つめ合い、微笑んだ。
彼女たちの絆はより深まった。これから何が起ころうとも、二人でならば乗り越えることができる。そんな気がしたのだった。
どれだけ残酷な運命が待っていようとも、挫けるつもりはない。
エリーはやはり、強い少女だった。
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