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革命のクレア ~魔人と契約したワガママお嬢様は異世界で無双する~  作者: 平井淳
第二章:生贄少女の希望

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14/55

13:クラーク邸にて

感想をお待ちしております。

 朝食後、クレアはノーラとともに家を出た。これからウィリアム・クラークの屋敷へ向かう。


 会談は午前九時からの予定である。近頃の帝都では何かと物騒な事件が起こっているため、その対応に追われるウィリアムは多忙を極めていた。したがって、クレアと面会できる時間は限られている。


 クラーク邸はクレアの家から歩いて二十分ほどの距離にある。馬車ならば十分足らずで着くのだが、交通費を節約する必要があるため、クレアはできるだけ徒歩で移動することを心掛けている。


 道を歩いていると、後ろからやって来た馬車が彼女たちを抜き去っていった。やはり、歩くよりもずっと早い。


 クレアは思った。生活にゆとりが出てきたら、自分専用の馬車を買おう。

 彼女の「欲しいものリスト」に馬車が新たに追加されたのだった。


 この世界には汽車が存在しているが、自動車が走っているところを見たことはない。おそらく、まだそこまで技術が進歩していないようだ。


 だが、いずれこの世界にも、自動車あるいはそれに似た乗り物が登場するのではないかと思われる。もしそうなれば、クレアはマイカーも手に入れたいと考えた。父が生きていた頃のように専属ドライバーを雇うのも悪くないかもしれない。


 「クレア様、今日のお洋服もとてもお似合いですよ」

 「そうか? ま、これはお前が作った服だからな。私に似合わないものを着せるはずがないだろう」


 実はと言うと、クレアはこの服をかなり気に入っていた。濃い緑を基調としたロング丈のワンピースだった。シンプルなデザインだが、裾と襟にフリルが付いていて、とても可愛らしい。


 ノーラは料理や家事だけでなく裁縫も得意だった。クレアの洋服はノーラが作ったものがほとんどで、ノーラはクレアに来てほしい服を自分で決めて作っているのだった。


 クレアはノーラが服を作る前に何か注文を付けることはなかった。デザインなどはすべてお任せしているのだった。それほどクレアはノーラのセンスに信頼を寄せているのである。


 「また何かいい服を思いついたら、作ってくれても構わんぞ」

 「かしこまりました。では、今度はもっと露出度が高いお召し物をお作りしますね! チャイナドレスはどうでしょう?」

 「却下だ」


 服なら何でもいいというわけではない。露出が少なく、落ち着きがあるものにしてほしい、とクレアは思った。


 二人は約束の時刻の十分前にクラーク邸に到着した。

 ドア横のベルを鳴らすと、眼鏡をかけた和風美人のメイドが中から現れた。


「ようこそ。お待ちしておりました」


 彼女の名はハナ。物静かであまり多くを語らない人物だが、その働きぶりは優秀だった。


 クレアが前世で暮らしていた屋敷には、とてもおっちょこちょいなドジっ子メイドがいた。歳はクレアよりも一つ下で、妹分のような存在として可愛がっていたが、とにかくダメなメイドだった。砂糖と間違えて紅茶に塩を入れたり、盛大に転んで皿を割ったり、アイロンでクレアのお気に入りの洋服を焦がしてしまったりなど、散々なものであった。いつもあたふたしており、見ていてとても危なっかしい娘だった。


 それに比べて、このハナという女はとても落ち着いている。ノーラのような愛嬌は無いが、メイドとしてのスキルは劣らないと思われる。


 以前、クレアが別の用件でクラーク邸を訪れた時、まだ仕事に追われる前だったウィリアムはティータイムを楽しむ余裕があった。クレアは彼の勧めで一緒にお茶をすることになったのだが、その際にハナが紅茶と一緒に用意したチーズケーキの味は、今まで食べた中で一番だった。

 

 彼女はケーキやプリンなどのお菓子作りが趣味であるらしく、この屋敷で働く前からずっとお菓子を作り続けてきたのだという。


 機会があれば、ノーラにハナとデザート作り対決をさせてみたい、とクレアは考えていた。

 両者はなかなか良い勝負をするのではないだろうか。


 しかし、このハナという女はどこか不気味だ。何を考えているのか全然わからない。喜怒哀楽というものが欠如している。あと、クレアを見る目がやけに冷ややかなのである。はっきりと態度に表すことはないが、ハナはクレアを嫌っているように見える。二人の間には、何も因縁などないはずなのだが……。


 応接室に通されたクレアとノーラ。イスに腰掛けてウィリアムの登場を待つことにした。


 まもなくして、ウィリアムが応接室に現れた。彼はスーツを着ており、この後も他の仕事がたくさん控えているようだ。


 「やぁ、クレア殿。来てくれてどうもありがとう。朝早くに申し訳ない」

 「なぁに、問題ない。そちらも色々と忙しいのだろう?」


 ウィリアムは昼間はずっと屋敷の外を飛び回っているため、会談は午前中にしかできないのだった。今日も午後から出張があるらしい。


 「では、早速だが本題に入らせていただこう。今回クレア殿をお呼びした理由は他でもない。あの連続行方不明事件についてだ」


 ウィリアムが話を切り出した。帝都で起こっているあの怪事件のことだった。クレアは目の色を変える。


 「あれから私の方で色々と調べたのだが、どうやら行方不明者たちには、共通点があるようなんだ」

 「共通点?」

 「そうだ。行方不明者と親しかった人間への聞き込みで判明したことなんだがね。まさかと思ったが、これはどうも偶然ではないと確信したのだよ。で、その共通点というのが……」


 彼は詳細について語り始める。

 

 結論から言おう。クレアはこの後、ウィリアムから事件解決に向けて正式に協力を要請された。そして、それを引き受けることに決めたのだった。


 彼女はこの事件には大きな陰謀が潜んでいることを感じ取ったのである。

お読みいただきありがとうございます。

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