11:革命の始まり
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ノーラが倒した魔族の死体から魔石を回収するクレア。昼にガウスが池で発見した青い魔石と似た色をしているが、サイズはこちらの方が圧倒的に大きい。これは高く売れるのではないか。
森の中で魔族に食われるところだったが、ノーラが現れたことで最悪の事態は免れた。それどころか、魔石まで手に入れることができた。
不運が続いていたクレアに、ようやく幸運が舞い降りたのだった。
事態は好転しつつある。魔人の力があれば、この世界の敵どもを圧倒することができるはずだ。
ここからは私のターンだ。逆襲を始めよう。戦に必要なピースは揃った。
態勢を整え、進軍する。私の行く手を阻む者は問答無用で蹴散らしてやる。
ノーラに魔族を狩らせて、魔石を集める。集めた魔石を売りさばき、それで得た金を軍資金とする。また、家を買い、武器を揃え、時には金で人を動かす。
クレアが最も重要視しているのは、財力であった。金の力で物事を優位に進めていくというのが、彼女の作戦なのだった。
このように、クレアは早くもこの先の展望を思い描いていた。
まずは今日獲得した魔石を早速換金しよう。一文無しでは何も始まらない。とりあえず食事と宿泊に必要な金を用意するべきだ。
「森を出たい。だが、どちらに進めばいいのかわからない。出口はわかるか?」
「あらあら。もしかして、迷子だったのですか?」
「う、うるさい……! いいから早く案内しろと言っているのだ!」
クレアは顔を赤らめた。いい年して迷子になってしまったという事実をノーラに指摘され、カッとなった。
この場合は迷子というより遭難と表現した方が妥当かもしれない。
ノーラは「仕方ないですね」と言って、クレアをこの森から連れ出すことにした。
「はい」
手を差し出すノーラ。
「……何だその手は?」
「私の手をしっかりと握っていてください。はぐれてしまうと大変ですから」
そう言って、ノーラはウインクをした。
「馬鹿にしているのか! 私は子供じゃないぞ!」
クレアは十六歳だ。十六歳という年齢は、この世界の基準では成人に該当する。
迷子にならないように誰かと手をつなぐなんて、彼女のプライドが許さなかった。
「クレア様が子供であるか否かは関係ありません。私はただ、クレア様の手を握りたいのです」
「くだらぬことを……」
「もっと言えば、私はクレア様の全身を触りたいのです! あんなところや、こんなところまで、じっくりと……!」
「気持ち悪いな……」
ノーラは興奮した様子で、自らの想いを熱く語った。
とんでもないヤツを引き当ててしまった、とクレアは困惑した。
どうして、この魔人はこんなにも変態なのだろう。さっきもノーラはクレアを押し倒し、色んなところを弄っていた。あれはスキンシップを超えている。愛情表現どころか、ただの痴漢行為ではないか。
まさか異世界で魔人にセクハラされるなんて、クレアは全く思いもしなかっただろう。
「お前は私を何だと思っているのだ?」
「可愛い女の子だと思っています」
「んなっ……!」
何だこの感覚は? なぜ心が落ち着かないのだろう。
他人に「可愛い」と言われることは今まで何度もあった。だが、それは一種の社交辞令のようなものだと思っていた。
でも、このメイドは……ノーラは屈託のない笑顔でクレアを「可愛い」と形容した。
お世辞でも美辞麗句でもない。心の底からそう思っているような……。
「ふん! 馬鹿げている。私はそんな言葉で惑わされるほど甘くはないぞ」
「そうなのですか」
「まぁ、でも……」
「でも?」
「手ぐらいなら、つないでやっても……いい……」
「クレア様……!」
そっぽを向いたまま、照れ臭そうに手を差し出すクレア。
ノーラはパァッと笑顔になりながら、飛びつくようにしてクレアの手を握るのだった。
「では行きましょうか」
ノーラに手を引かれながら、森を抜け出すクレア。
無念の死を遂げた若きハンターたちを弔うこともできないまま、彼女は次の行動に移るのだった。
この世界は弱肉強食だ。弱い者から死んでゆく。
あのハンターたちは力がなかった。抗う術を持っていなかった。だから死んだのである。
それはクレアも同じだった。彼女もまた無力で弱い存在だった。
だが、それはノーラに出会う前までの話である。
今の彼女は違う。断じて無力などではない。
魔人という強力な武器を手に入れた彼女は、「最強」の名を手にするのだから。
魔人との契約により、この世界でのクレアの立ち位置は大きく変化してゆく。
貧民からの出発し、平民そして富豪へと成り上がる。
それはやがて、革命へとつながるのだった。
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