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革命のクレア ~魔人と契約したワガママお嬢様は異世界で無双する~  作者: 平井淳
第一章:ガチクズお嬢様の異世界転生

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09:銀髪のメイド

感想をお待ちしております。

 全身真っ白の怪物が、クレアを見つめている。

 とびきりのごちそうを目の前にして、張り切っているようだった。


 「むふふふ! とても、美味そう、なんだなー」


 この化け物にとって、クレアはメインディッシュであった。

 

 「な、なぜなのだ……」


 クレアは呟く。


 「んんー?」

 「どうして貴様は、人間を喰らうのだ? シカやイノシシの肉ではダメなのか?」


 クレアはガウスの言葉を思い出していた。


 魔族が人間を襲うことは稀であり、人間の肉を食うのはよっぽど腹を空かせている時である、と彼は言っていたのだ。


 茂みでは骨がいくつも見つかったので、この森には動物がたくさんいると思われる。よって、魔族たちの餌が不足しているとは考えにくい。


 それなのに、この魔族は執拗に人間を襲う。どうしてそこまでして、人の肉を求めているのか。


 すると、魔族はこう答えた。


 「おいらは、人間の肉が、大好きなんだなー。人間は、他の動物よりも、塩気があって、美味いんだなー」


 魔族にも色んな個体がいるのだった。味の好みもそれぞれ異なるのである。

 シカ肉を好む魔族もいれば、クマの肉を好む魔族もいる。


 クレアたちは不運だった。よりにもよって、人間の肉を好んで食べる魔族に遭遇してしまったのだから。


 よっぽどの不運が重ならなければ……という話だったが、クレアは今、その「よっぽど」の状況に直面しているのだ。

 

 これも神のイタズラなのだろうか。


 どうしてこうも、ついてないことばかり立て続けに起こるのだろうか。なぜ自分は何度も理不尽な目に遭ってしまうのか。


 「おいら、女の子、好きなんだなー」


 もうダメなのか? また死んでしまうのか?

 何もできないまま、二度目の人生が終わってしまうのか?


 諦めかけたその時だった。


 ―――中には物分かりのいい魔族もいるから、上手く交渉すれば見逃してくれることもある。


 クレアの脳裏にまたしても、ガウスの言葉が蘇るのだった。


 ……そうだ。交渉だ。


 魔族は言葉が話せる。人間の言葉を理解することができる。

 現に今もこうしてヤツと会話をしているではないか。


 最後の望みを懸ける。この化け物を説得するしかない。


 「それじゃ、最後の一人、食べちゃうんだなー」


 化け物はクレアに向って手を伸ばす。


 「待て! 待ってくれ! 取引だ! 取引をしよう!」


 すると、ソイツは手をピタリと止めた。


 「トリ、ヒキ……?」

 「そうだ。取引だ」


 キョトンとする魔族。

 何かを思いとどまっているように見える。


 これは上手くいけるのでは……?


 かすかな希望の光がクレアに差し込むかと思われた……。


 ……しかし。


 「トリヒキ? 何それ美味しいの?」


 万事休す。


 この化け物は話の通じない化け物だったのだ。


 「おいらは、人間が、一番、好き、なんだなー」

 「や、やめろ……!」


 魔族の右手がクレアの体を掴む。

 ガッシリと、全身をホールドしている。


 ダメだ。今度こそダメだ。


 抵抗するクレア。だが、ヤツの力はとてつもなく強い。


 「人間より、美味いものは、ないんだなー」


 魔族はクレアを力強く握りしめた。


 「うっ! うああああああああっ!」


 叫び声をあげるクレア。全身が握り潰されてしまいそうだった。


 魔族の握力で、クレアが身に着けていた勾玉にヒビが入る。そして、ついには粉々に砕け散ってしまった。

 

 これは……そう。この世界へ来る前に、女神からもらった謎の勾玉である。


 いざという時に役立つかもしれない、という話だったが、結局何も起こらなかったではないか。


 破片と化した勾玉はパラパラと地面に落ちていった。


 役に立たないガラクタを選ぶことしかできなかった自分が憎い。もし自分に力があれば……。もし腕力があれば、最強の剣を選んでいたはずなのに。あの剣があれば、こんな化け物など、今頃とっくに殺すことができていたのに……。


 「あーーーーーーーん」


 食欲旺盛な化け物は、大きく口を開けた。

 びっしりと生えた歯がクレアを迎えようとしている。


 食われる。また食われる。


 前世でもクレアは食い殺されている。あの時は腹部を食われた。今度は全身丸ごと食われてしまうようだ。


 (私は骨すら残らずに消えてしまうのか……)


 何が異世界でリベンジだ。何がクズの王だ。


 結局何もできないまま、二度目の世界でもあっけなく死んでしまうのか。


 情けない。悔しい。腹立たしい。


 どうして自分は、こんなにも無力なのだ……!


 クレアは歯を食いしばり、涙を流した。


 そして、そのまま化け物の口の中へ……。


 龍ヶ崎クレアの二度目の人生が終わる。

 そう思われた時だった。


 ―――カッ!


 「ぬおおおお?!」


 突然、眩しい光が魔族に襲い掛かったのである。


 驚いた魔族はクレアを手放してしまった。

 地面に落とされるクレア。ドスン、という音がした。


 「目がぁー! 目がぁー! なんだなー」


 両目を抑える怪物。どうやら光が目に入ってしまったようだ。


 何が起こったのか、クレアにもわからなかった。


 赤い光が天に向かって真っすぐ伸びている。地面から赤い柱が生えているのだ。


 よく見てみると、その光は砕け散った勾玉から放たれていることがわかった。


 まさか、本当にこれはただの石ではなかったというのか?


 赤い魔法陣が地面に浮かび上がる。そして、魔法陣から伸びていた光の柱が徐々に消えてゆく。


 その光の柱の中に……。

 「彼女」はいた。


 「彼女」はまるで眠っているような表情で、魔法陣の上に立っている。そして、ゆっくりと目を開いた。


 目が合う。その瞳はクレアの姿をしっかりと捕えていた。


 現れたのは、一人のメイドだった。


 (メイド……? なぜこんなところに?)


 何が何だかさっぱりだ。

 クレアは状況を把握できていなかった。


 勾玉が割れて、謎の発光が起こり、光の中からメイドが出てきた。


 誰がそんな話を信じるだろう。

 摩訶不思議な出来事が、今、目の前で起こっているのである。


 変な夢でも見ているのだろうか……?


 だが、これは夢などではない。現実だ。


 そのメイドはクレアを見るなり、こう言うのだった。


 「お呼びですか? マスター」


 クレアは口を開いたまま、メイドの顔を茫然と眺めていることしかできなかった。


 (え? マスター? それって、私のことなのか……?)


 銀髪のロングヘアをしたメイド服姿の女。

 その顔立ちには現実離れした美しさがあった。


 「さぁ、ご命令を……」


 この奇妙な出会いが後にクレアの運命を大きく変えることになる。

 

 

お読みいただきありがとうございます。

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