第10話 彼女と一つの戦いの決着
「二人共、準備は良いか?」
「万全です」
「アタシもバッチリっす」
遂にこの時が来た。
俺がアンジュさん、ジュリとパーティーを組み、塔内を登り続け、たどり着いた、塔の最上階。
塔は1000階で終わりだった。そこには巨大な扉が有った。あまりにもお約束だ…。
だからといって、ホイホイ入る気は無い。中に何が待ち構えているか分からない。俺達は一旦、自宅へ帰り、次の日に扉の内部へ挑む事にした。
「こういう場合のお約束では、扉の向こうにいるのは、塔の支配者、ボスだろうな」
「私もそう思います。扉の向こうより、強大な力を感じましたから」
「本当にお約束っすね~、でも必ず勝つっす!」
「あぁ、そうだな。必ず勝って、三人共無事に帰ろう」
相手が何者で有ろうが、俺達に仇なす存在ならば、倒す!。
そして、必ず三人共無事に帰る!。
俺は固く、そう心に誓う。
さぁ、行くぞ最上階!。
そして、再び来た最上階。巨大な扉を開ける。
その先は大広間になっており、大きな玉座が有り、誰かが座っていた。強大な力を持つ、誰かが。しかも、俺はそいつの顔を誰よりも良く知っていた…。
アンジュさん、ジュリも言葉が出ず、呆然としていた。
何故なら、そいつは俺と同じ顔をしていたからだ…。
そいつは、俺と全く同じ姿をしていた。顔から髪型、体型、服装に至るまで全て。まさに俺そのものだった。
「お前は誰だ?」
俺がそいつに訊ねる。
「私はこの塔の管理システムにより創造された存在だ、カオル」
俺の名前はご存知なわけだ。まぁ、こいつが塔の管理システムに創造された存在なら、別におかしくない。アンジュさんやジュリが俺の名前を呼んでいたからな。盗聴ぐらい、朝飯前か。
「そうか。では何故、俺の姿をしている?」
大体、見当つくけどな…。
「これまで、この塔内に侵入した者達の中で、君が飛び抜けて優秀だからだ。絶大なる魔力を持ち、その他の能力も非常に優秀。常に冷静沈着な行動をし、無事最上階までたどり着いた。今まで此処までたどり着いた者はいなかった。故にこれまでに得られた君のデータを元に、管理システムが私を創造した」
やはり、そうか。有りがちな展開だ…。
「で、管理システムとやらは、お前を創造して何をする気だ?」
「理想世界を造り上げる。一切の穢れ無き、清らかなる世界を」
本当に有りがちな奴だ。その手の台詞は、俺は聞き飽きたぞ…。少しは捻れよ…。
ちなみに、アンジュさん、ジュリ共に、既にいつでも戦える体勢を整えている。
いつまでも、喋っている状況ではないな。どうせ向こうも、話が目的では無いだろうし。
「お前に訊ねるが、最上階までたどり着いた、俺達に茶の一つも出して貰えないのか?俺達は別にお前と話をする為に、此処まで来た訳ではない。何も得る物が無いなら、サッサと帰りたいのだが?」
皮肉たっぷりに言ってやる俺。どうせ、この後の展開も読めてるしな。
「君達を帰す気は無い。君達を吸収し、私は更なる成長を遂げる!」
やれやれ、本当にお約束過ぎる展開だ。だが、むざむざやられる気は無い!、俺達はお前を倒し、三人共無事に帰る!!。
「ハァァァァァッ!!」
アンジュさんが、超スピードで、『偽カオル』(俺命名)を大鎌で切り刻む!
「食らえっ、ビーム最大出力っす!!」
ジュリが、特大のビームを立て続けに発射する!
俺も広げた、魔扇『闇姫』を手に、全魔力を解放。魔法、そして俺の最強の攻撃手段、レアスキル『闇を統べし者』を発動させる!
俺自身やアンジュさん、ジュリに強化魔法や防御魔法を使い、『偽カオル』に、攻撃魔法、レアスキルの闇を叩き込み、更に、広げた『闇姫』で斬りつける!
「あいつ、シャレにならないほど、強いっす…」
「私の『大いなる慈悲』で斬られたのに、まるで効果が無いとは…」
「俺が言うのも何だが、流石は俺の偽物だけはある…」
『偽カオル』の強さは、こちらの読みを超えていた。
俺のデータをベースにアンジュさん、ジュリのデータも入っているらしく、俺達三人全ての技や能力を使ってくる。俺の魔法、アンジュさんの戦闘力、ジュリの兵器、それらを完全に自分の物にし、俺達以上の実力を持っている。間違い無く今までで、最強の敵だ。
「どうした?もう終わりか?」
余裕綽々の態度で話し掛けてくる『偽カオル』。
「来ないなら、こちらから行くぞ」
『偽カオル』が一瞬で間合いを詰めてくる。強烈な蹴りが、俺の腹に決まり吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられる。アンジュさんが雷撃を食らって倒れ、ジュリも爆発を食らい、吹き飛ぶ。
不味い、このままでは三人共、殺られる。こうなれば最後の手段。
「もう、諦めてはどうかな?これ以上の抵抗は無駄だ」
勝ち誇る、『偽カオル』。俺の偽者のクセに調子に乗るな。
「俺の偽者なんぞに負けてたまるか、俺達は必ず三人共無事に帰る」
「ほぅ、この状況をどう覆すのかな?」
こうするんだよ!。
「アンジュさん、ジュリ、この戦いに勝ったら、三人で温泉に行こう。そして裸の付き合いをしよう。『闇姫』も一緒だぞ!」
その瞬間、アンジュさん、ジュリ、『闇姫』の気配が変わった!。
俺は更に続ける。
「夜も三人一緒に寝よう!」
「「「この戦い、絶対に勝つ!!!」」」
アンジュさん、ジュリ、『闇姫』の声がこれ以上無い程、見事にハモった。
それは凄まじい戦いぶりだった…。
アンジュさんの大鎌が、これまでを遥かに超越する速さで『偽カオル』を滅多斬りにする!
ジュリは空中に無数の砲台を出現させ、怒涛の勢いでビームを放つ!。
「カオルと温泉!!」
「裸の付き合いっす!!」
戦闘に似つかわしくない台詞を大声で叫びつつ、攻撃を仕掛ける二人は、はっきり言って怖い…。
目が血走っているし、凄い気迫だし…。
流石に言い過ぎたかな…。
だが、悠長な事はしていられない。二人の猛攻は長くはもたない。早く、決着を着けねば…。
俺は『闇姫』に話し掛ける。
「『闇姫』、俺の最後の切り札を使う。協力してくれ」
『任せよ!それよりカオル、先ほどの温泉の話は誠であろうな?』
「本当だ。この戦いに勝って、皆で行こう」
『うむ、そうじゃな。楽しみじゃ!』
「では、やるぞ!!」
『うむ!!』
「真・魔力全解放!来たれ全ての始まりにして、全ての終わりよ!!」
俺は大声で叫ぶ。
通常の魔力全解放は本当の意味では全解放ではない。ある程度の余裕が残っている。本当に全魔力を解放したら、危険だからだ。負担も大きく最悪、死ぬ事も有る。
それに対して、真・魔力全解放は文字通り、本当に全魔力を解放する。まさに命懸けだ。だが、俺の最後の切り札の為には必要だ。
しかも、この術は『闇姫』も、真・魔力全解放を行う必要が有る。
この状態の俺と『闇姫』二人で協力して初めて使える『禁呪』…。
『終末の闇』
いかなる闇よりも暗き、闇が、広げた状態の『闇姫』を包み込む。二人がかりでやっと制御できる、恐るべき闇だ。
『カオル、この闇は長くは制御出来ぬ!急ぐのじゃ!』
「わかっている!すぐに終わらせる!」
出来れば使いたくなかったのだがな…。かつて戦った、邪教集団からの戦利品の魔導書に記されていた禁呪。
奴らも流石にこれには手を出さなかった様だ。そもそも、発動させられない。俺ですら、一人では無理なのだから。
だが、今その禁呪が役に立つ!。
俺は『偽カオル』に向かって、一気に走る!。
強化魔法によって、極限まで引き上げられた身体能力が凄まじい加速を生む。アンジュさん達には及ばないが、今の状況なら十分だった。
アンジュさん、ジュリの猛攻を受け、弱っている『偽カオル』にトドメを刺すには…。
俺は闇を纏った『闇姫』を横一文字に一閃!。
『偽カオル』を両断した…。そして決着は付いた。
『偽カオル』はあっさり消滅した。恐るべきは禁呪の力。だが、それで終わりでは無かった。
「終わりましたね…」
「こんなキツい戦いは、初めてっす…」
『見事じゃ、カオル』
戦いが終わり安堵する皆だったがその時、塔に異変が起きた。
塔が消え始めた。塔の主が倒された事により、全てを消滅させる気らしい。
アンジュさん、ジュリが俺に寄り添う。
二人共、『偽カオル』と限界を超えた戦いをしたせいで、余力が無い。
俺も、『闇姫』も同じだ。このままでは全員、塔と共に消える。
「カオル、貴女と共に死ねるなら、本望です」
「アタシもカオルさんと一緒なら悔いは無いっす」
二人は覚悟を決めた顔で、俺にそう言う。だが、諦めるにはまだ早い。
俺は懐から取り出した一枚のカードを手にする。すると魔力が俺の中に流れ込んでくる。
よし、いける。
「大丈夫、俺に任せろ。さぁ、帰ろう!」
俺は、空間転移を使い、全員塔から脱出するのだった。
バトル描写が下手ですみません。と言うか、全体的に下手ですが。とりあえず、塔編は終わりです。




