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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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57話 甲斐武田の命脈

三人の男が相対している……

微妙な沈黙が流れていたが、信幸は意を決して語り始めた。


「父上、これから話すこと、主家武田家に対して酷な内容かもしれませぬ。

ですが、日ノ本の未来のため故、お話しいたします」

そう言って、信幸が前置きした……


「実は、某は転生者であると申しましたが、実は他に五人いるのです。

未来で某の友人であった者たちなのです。それが、この戦国の世に同じように転生しているのです。当然、某と同じように未来の歴史を知る者達なのです。

そして、ある者は未来の技術も色々知っているのです。

実は、その者達と何度か会い、歴史改変をするために、力を合わせることになっておるのです。ですから、例え意に添わぬ場合でも、受け入れて頂きたいのです。誰かが勝手に動くと、計画そのものが瓦解し、狂いが生じるやも知れぬのです……」

そして、信幸は続けた。


「結論を申しますと、歴史通りに武田家は滅びた……と見せかけまする。

今後の戦いにおいて、武田家が無暗に抵抗すれば、徒に犠牲者が増えるのです。例え戦ったとしても、滅亡が遅くなるだけで結果は変わりませぬ。ですから、「一度滅びた」……と見せかけるのです。

そして、信長が倒れた後、勝頼公にお立ち頂き、武田家を再興するのです。

私が知る歴史において、信長が死んだ後、甲斐・上州・信濃は軍事的に空白地帯となりまする。そして、この地域は徳川・北条・上杉の三者での争いがあり、武田旧臣もその時に別れ、戦いを繰り広げまする。そこで、勝頼公がもし生きておれば、大きな勢力として対抗できるかもしれませぬ。

地政学的に、大国に囲まれますが、その頃には上方で明智殿が一時的に天下を治めておられます。我らは明智家と同盟を結び対抗致します」


「いや待て、何故に明智なのじゃ?謀反によって信長公を討てば、外聞も悪かろう?上方で天下を治める事……まことに可能なのか?」

昌幸が疑問を呈した……


「ご懸念には及びませぬ……必ずそうなります。

なぜなら、明智の嫡男、十五郎殿が転生者であるからです。そして、そのために他の転生者も協力するのです。

他の転生者というのが、私の他には、その「明智十五郎殿」……

父上もご存じの「望月千代殿」そして、以前武田家にいた「大蔵長安殿」

他には、雑賀衆の頭領、雑賀孫市殿の嫡子、鈴木孫三郎殿。

そして、四国の覇者、長宗我部元親殿の嫡子、長宗我部弥三郎殿です。

信長が倒れた後、彼らが協力し、畿内を制圧するのです」


そして、信幸が続ける……


「最終目標は、明智殿に天下を統べて貰うのです。

我が真田家、そして武田家は有力な同盟者として、明智の天下取りに協力し、存続いたします。そして、明智が幕府を開いた後、日ノ本を発展させ、世界の強国にするのです」


「しかし、それで本当に歴史が変わるのか?」

昌幸が、またしても疑問を投げかけた。


「はい。必ず変わります……なぜなら、日ノ本はその後世界に進出するのです。

革新的技術の進歩によって、世界を席巻致します。日ノ本の東の海の果てに、「アメリカ大陸」という処がございます。そこは日ノ本よりはるかに大きく、豊かな国なのです。今はまだ未開の土地で、少数の原住民が棲むのみです。そこに「移民国家」を建設致します。

この時点で、世界の国々の力関係が大きく変わります。

なぜなら、450年後の世界で、その「アメリカ」という移民国家が世界一の超大国だったからです。世界最強の軍事力を持った国だったのです」


「そうか……しかし、そのような計画、果たせるのか?」

伴天連や、諸外国が黙ってはおるまい……」


「確かにそうかもしれませぬ。ですが、我々には未来の知識があるのです。

転生者六名の技術的知識だけでも、この時代では考えられぬものばかりです。

そこで、天下に平和が訪れた後、日ノ本の民の教育に力を入れます。

全員が読み書きは無論、我らの知識を学ばせるのです。

そうすれば、可能であると信じます」


「わかった。俄かには信じがたい話だが、武田家を救うには選択肢は無かろう?

まずは勝頼公・信勝様が生きておれば、滅びはせぬ。もし本当に、信長公が斃れる事があれば、お前の言う事、信じようではないか?

そのために、わしは全力で武田の家を守ろうぞ。

して、その方策だが、何か腹案があるのではないか?」

昌幸が具体策を問いかけた。


「ござります。史実では、父上が勝頼公の落ち延びる先として、岩櫃城を提案するのです。しかし、結局は勝頼公は、小山田殿の岩殿城に向けて落ち延びまする。

そして、小山田殿の寝返りにより、岩殿城に落ちることも叶わず、天目山に向かわれるのです。その途上で織田の軍勢に囲まれ、自害なされます。

ここで名門、甲斐武田が滅びるのです」

更に信幸が続ける。


「某の考えは、勝頼公の一行が自害なさる直前に、忍び衆を使い、お助けいたします。ですが、勝頼公がご自害なされたという「事実」が必要になります。そこは、その時に考えるより他はございませぬ。

その時の随行には、土屋殿、大熊殿、小宮山殿らが居られたはず。

無念ですが、彼らの力も借りねばなりますまい‥‥‥」


「わかった。ではわしは、勝頼公を匿い、今後の方策を練るとしよう。

それとな‥‥‥哀れではあるが、随行されておる方々には死んでもらわねばならぬ。ここでは勝頼公・信勝様の死が絶対条件じゃ。そして、その裏側を知るものは生かしてはおけぬ。

左近と忍び衆を動員して、必ず成し遂げよ‥‥‥よいな?」

昌幸は、冷酷な策を伝えた。


「は‥‥‥い‥‥‥致し方ありませぬ。

某が、源次郎と共に同行し、土屋殿らをまずは説得いたします。

土屋殿らは、滅びゆく主家に最後まで忠義を尽くさんとしておられます。

よろしゅうござりますか?」


「わかった。だが、説得能わぬ時は容赦なく葬るのだぞ。

でなければ、意味がない。何としても成し遂げよ‥‥‥よいな?」


「承知いたしました‥‥‥」

信幸は、唇を嚙みしめた。源次郎も涙を堪えている。

自分たちの策が、忠義の者の犠牲の上にしか成立しないことが、歯痒かった。


それから間もなく、新たな知らせが入った。

勝頼が、木曾の人質を処刑し、討伐軍を派遣したというのだ。

そして、満を持して、織田軍団が侵攻を開始したのであった‥‥‥



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