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水色桔梗ノ末裔   作者: げきお
本能寺への道
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12話 予兆

思ったより、時間を浪費してしまった……

堺を後にした俺だったが、大雨による増水で、巨椋池で足止めを食ってしまったのだ。

この時代の地形は、俺のいた21世紀とは違う。

南山城には湖のような巨大な水源があったのだ。

俺は、父光秀の戻りを待って、土佐から帰還した旨報告した。

相変わらず、父光秀は忙しく動いている。

今は、朝廷や公家衆との間をせわしく行き来している。


「父上、只今戻りましてございます」


「おぉーーっ 十五郎、大儀であったな。大事はなかったようだの?」

久方ぶりの親子の語らいに、心を弾ませているらしい。


「はい、予想通り手切れとなってしまいましたが、決定的な対立は避けられそうな気が致しまする」


「うむうむ……重畳じゃ。元より、こちらの思惑通りに運ぶなどとは期待しておらぬ」

父は疲れているのであろうが、俺の顔を見て、少し元気になったのであろうか?

俺は、本当に愛されているんだな……そう感じていた。


「で、元親殿はどんな御仁であった?」


「はい。土佐の出来人はさすがにございました。「一領具足」と呼ばれる家臣団の結束は固そうです。それに、城下に住まう人々も活気に溢れておりました。すべてが行き届いておるように思います。源七でさえ、目ぼしい情報が掴めなかったようで。それに……」


「なんじゃ?申してみよ」


「某が土佐に赴いたこと……筒抜けにござりました」


「なるほどのぉ……元親殿はじめ、この時世において、家を大きくする武将は、情報の重要性を理解していて然るべきよな。

源七や源三らの甲賀者や、伊賀者はじめ、各地にはそれぞれ、影働きを生業とする集団がおるし、皆、その者らを抱えておるからのぉ。かの信玄公然り。上杉謙信公もそうであった」


「はい。某が「神童」などど噂されておることまで知っておりました。

少し驚きましたが……」


「それに、堺で今井宗久殿にもお会いしましたが、かの御仁も某のことを何やらお調べのご様子……いささか疲れました」


「はっはっは……そうかそうか、今井殿が……

かの御仁は、上様とも昵懇の間柄。

上様より、そのような話を聞いて、興味でも持ったのかのぉ。

さすがに商魂逞しいではないか」


「はい、さように思いまする。

それと……元親殿の嫡子、信親殿と奇妙な縁で親しくなりました。

元親殿にも、何かとお口添え頂いたように思いまする」


「そうかそうか……確か、信親殿は、そなたとも年も近いの?

縁は大事にすることじゃ。たとえ敵国であっても、いつ何時、時勢が変わるやもしれぬ。

今後にも活かせるであろうて……」


「はい、心にしかと刻んでおきまする」


「それはそうと、昨今色々、上様と内裏との間がのう……」


「何かござりましたか?」


「うむ。今は平静を保っておるがの。

上様のあのご気性……取次のワシにはつくづく荷が重いわ。詮無い事ではあるが」


俺は、父の居室から退出すると、また色々と思案に耽った。

自分の知る「歴史的事象」の整理に取りかかったのだ……






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