第27話
「……」
薄暗い部屋で姫奈は目を覚まし、ここが晶の部屋であると思い出した。
雨音は聞こえなかった。
携帯電話を見ると、時刻は六時を過ぎた頃だった。
シャッターを開けるのは眩しいと思い、枕元のリモコンで部屋の明かりを点けた。
すぐ隣で、晶が寝ていた。明るくなっても起きる気配は無かった。
実に穏やかな寝顔であり、静かな寝息も聞こえた。
姫奈はそっとベッドから降りると、学生服に着替え、洗面と化粧に取り掛かった。
ヘアアイロンを使いたかったが、どこにあるのか分からなかった。季節的にも酷い癖毛を、今日はポニーテールに結んだ。
支度が済んで部屋を出ようとしても、晶は一向に起きなかった。
あまりにもぐっすり眠っているので、無理に起こすのは可愛そうだと思った。代わりに『学校にいってきます』と手書きの書置きを残した。
寝ている晶の頬を何度か突いた後、子供のような寝顔を携帯電話のカメラで撮った。
シャッター音にも何の反応も示さなかった。
外は、昨日までの嵐が嘘のように晴れていた。
七月の強い日差しに、姫奈は折り畳みの日傘をさして登校した。
途中、コンビニでメロンパンとアイスコーヒーを買い、いつもより早く着いた教室で朝食を済ませた。
メッセージアプリに晶からのメッセージが届いたのは、昼休みだった。
『今起きた。ありえんぐらい、ぐっすり眠れた』
購買部で買ったサンドイッチを、姫奈は吹き出しそうになった。
昨晩仕込んだ水出しアイスコーヒーが使えなくなったと、真っ先に悲しんだ。
そして、睡眠薬に頼らなくても晶がこれだけ眠れたことが嬉しかった――やりすぎだとも思ったが。
『わたしのおかげですね!』
姫奈はそう入力するが、なんだか恥ずかしくて削除した。
『ヒマワリの水やり、忘れないでくださいよ』
代わりにそう入力し、送信した。すぐに既読マークがついた。
『わかった』
一言だけの無愛想なメッセージに、姫奈は『よろしくお願いします』の可愛らしいスタンプを送った。
そして、携帯電話に保存された写真を開いた。
今朝撮った晶の寝顔を改めて見て、そっと微笑んだ。
次回 第12章『揺れる水影』
姫奈は八雲と水着を買いに行く。そして、ふたりでナイトプールへ遊びに行く。




