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32 ぽにぽにがあだとなりけり 

 私が古城を出ると、屋敷のほうも城壁のほうも、つまりあたり一帯がしん、と静まりかえっていた。

 ポムピンを探すと中庭のほうに赤い髪がちらりと見えた。

「ポムピン!」

 名前を呼びながらそばに駆け寄ると、ポムピンがこちらを見てにこりと微笑んだ。

「レモーネさん、古城以外の場所の人たちも皆眠らせたところです。これで外に安心して出られますよ。」

「あなたのその魔法の道具はすごいわね。犯罪者が絶対に手にしてはいけないやつよ。」

 私たちは話しながら城門に向かって歩き出した。

「私はとにかく、これからすぐ王都に戻ってお師匠様を通してあいつを全魔連にチクりに行きます。」

「またあの悪趣味な空飛ぶ馬車を呼ぶわけ?」

「いいえ、まずい事態になった時に一人だけすぐに逃げられるように用意していたものがあるんです。ホワイト・スネーク、カモーン!」

 ポムピンがそう叫ぶと、空から真っ白で大人三人分くらいの巨大な白蛇がぼとりと落ちて来た。

 さすがにこれには私も驚いてしまって声が出ない。

 ポムピンは慣れた手つきで白蛇の口をがぱっと開けた。

「これ、実は私の部屋とつながってるんです。この蛇のお腹を通っていけば、王都に逃げられるんですよ。レモーネさんも使いますか?」

 こともなげに言うが、そんな気持ちの悪いことはできればしたくない。

 それに、私はちょっとこのクグロフでやりたいことがあるのだ。

「いいえ、それよりも私にまた魔法をかけてほしいんだけど、いいかしら?」

 私のお願いにポムピンは目を見開いて驚いてみせた。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆



「キューキュッキュッキュッキュッキュッキュ!」

 みたか!これがレモーネ流敵の陣地にもぐりこむの術だ!

 私は誰もいない部屋の一室で高笑いをした。

 さあーて、ブラック・ランプ商会のやばい秘密をあばいてやりましょうかね!

 今私がいるのは、城下町からは少し離れたさびれた飲み屋街にあるブラック・ランプ商会の建物の社長室だった。

 反撃はするけれど、ただポムピンが言っていた全魔連とやらの処分をただ待っているのではつまらないし、万が一にでもその前にジン・フロストとラウラという女性が結婚してしまったときのために、このブラック・ランプ商会を潰せるような悪行の証拠を押さえ、私をお払い箱にしに来たアンバー姫に渡したいのだ。

 転んでもただでは起きない。

 死なばもろとも。

 私が死刑になるのならば、このブラック・ランプ商会を地獄に道連れにしちゃおう!という算段だ。

 このブラック・ランプ商会、絶対にまずい商売をしているはずなのだ。

 最初にジン・フロストに会いに来ていた時、密売品の東方の半月刀を持ってきていた。

 あれを密売品とわかる権力者はそうはいないから珍しい贈り物で取り入るのがいつもの手口なんだろうけど、私にはあれがまずいものだとわかった。

 今までの経験上、密売品に手を出している輩は十中八九人身売買にも手を出している。

 その証拠をつかみたい。

 そのために、私はポムピンに自分の姿を一匹のぷりちーなネズミに変えてもらった。

 元の姿では目立ちすぎるし、城下町では黄色い髪の緑の瞳は今や良く知られた存在なのだ。

 誰がこのネズミがレモーネさんだとわかるだろうか?

 さて、それでは家探し開始!

 机によじ登っていき、書類をめくってみる。

 まあこんなところにそんなに重要な書類を置いてるとは思えないけど、一応見ておこうと思ったのだ。

 それにしても、体が小さくなったので、紙をめくるのも一苦労。

 これはちょっと失敗したかも。

「キュウ。」

 疲れた私はため息をついた。

「バウッ。」

「キュッ?」

 犬の鳴き声がしたので振り向くと、いつの間にか大きな茶色い狩猟犬が机に両足をのせてこちらを狙っていた。

「バウバウ!」

「キュウーーー!!」

 慌てて逃げ回るけれど、犬の牙は何度も私のそばをかすっていく。

 このバカ犬――――――――!!!!!

 私は机の上のティーセットに逃げ込むのにちょうどよさそうな砂糖入れのポットがあったので、その中に飛び込んで身をひそめた。

 手出しができなくなった犬は、ふんふん言いながら机の周りをうろうろと回っているようだった。

 早くあきらめてどっかいってちょうだい!

 息をひそめて暗いポットの中で隠れたままでいると、部屋の中に数人入ってきたようだった。

「おい、お前こんなところでなにしてるんだ。エサが欲しいなら下にいるやつらにもらってこい。」

 若い男の声がした。

 どうやら犬を部屋から追いやってくれたようだ。

 とりあえず一安心だけれど、まだポットの中からは出るわけにはいかない。

 見つかってネズミ駆除されるかもしれない!

 そのままでいると、男たちの話し声が聞こえてきた。

「あー、やっぱり社長もデバランさんもいねえ。あの人たち、まさか本当にご領主様んところにいったんじゃあねえだろうな。」

「まちがいねえ。社長はご領主を味方につけて事業を広げるって息巻いてたからな。これ以上大きくしても逆にやばいような気がするんだが。」

「社長も大変だな。前社長が死んでまだ一年だからな。まだ事業の全部を受け継いでないうちに、社長にならなきゃならなかったんだってな。焦ってるんだろ。」

「オレはもう少し気長にやってもいいと思うんだがなあ。それよりも、ご領主様とつながりをつくるっつっても、そんなことほんとに出来んのか?あのご領主様だぞ?おっかねえ。」

「それはいつものデバランさんの魔法でも使うんだろ。」

「でもおれはご領主とは関わりたくねえよ。所長もデバランさんも怖いもの知らずだな。」

「元盗賊のお前でも怖いんだな、ご領主様は。」

「あったりめえだ!」

 なるほどあのラウラと言う女性もなにかと大変なものを抱え込んでいるようだ。

 知ったこっちゃないけどね!

 敵に同情は必要なし!

 それにしてもこんなところでも怖がられてるジン・フロスト。

 怖い顔はしてるもんね。

「あ~、でもご領主様って、隠し子疑惑とか、男の恋人がいるとか最近いろんな噂が飛び交ってるけど、ご領主に思い人がいるなら社長の計画も案外うまくいかねえかもな。」

「小さい女の子が好きな、手の付けられない男好きで夜な夜な全裸で馬に乗って城下を走り回ってんだっけ?恐ろしいお人だ。」

「そう言えば、今ネズミ一匹逃がすなってお触れが出て、城壁の守りが厳しくなってるらしいぞ。なんでも罪人が逃げたとかで。」

 すごい噂が飛び交ってるな。

 私のせいかな?

 ……でも深くは考えない!

 そこに別の男が急いで入ってきたようだった。

「おい、お前ら!ちょっと下まで来い。やばいことになりそうだ。」

 そして男たちはバタバタと部屋から出て行ってしまった。

 下でなにやらがやがやと騒がしい声がしているが、今がチャンスかもしれない。

 私はそっとポットから頭を出した。

 誰もいない。

 今のうちにポットから出て皆が寝静まるまでどこか安全な場所で身をひそめておこう。

 それっとポットから飛び出そうとした。

「キュウッ。」

 なんということでしょう!

 お腹が引っかかって、出られないではありませんか!

 愛らしい三頭身のしもぶくれぽっちゃり体形になってしまっているおかげで、ポットの口に引っかかって上にも下にも動かない。

 私はどうやって入ったんだろう、これに。

 ぷにっとお腹をつまんでみた。

 何とも言えない柔らかい感触がした。

 いうなれば赤ん坊のほっぺたのような。

 ぽにぽにぽにぽに。

 あーーーーーっ最近は体形維持のためにダイエットもしてなかったから程よい肉付きになっていたためにネズミになっても肉付きが良い感じになっちゃてるじゃないのよおおおおおおーーーーーー!!!!

 だっておいしかったんだものジン・フロストの手料理があああああああーーーーーー!!!

 私は両手でお腹のお肉をもみながら一人反省会を開いていた。

 そこにバアンっと扉が勢いよく開かれて、大きな男が入ってきた。

 目が合った。

 ジン・フロストだった。

「キュウーーーーーーー!!!!!!」

 なんでここに?

 え?なんで?

 お城であの女性といちゃいちゃしてたんじゃないの?

 いや、城内をポムピンのあれで眠らせてまだ丸一日ぐらいしかたってないから、目が覚めてすぐにここに来たってこと?

 何をしに?

 思いがけない早い再開に、私はパニックになった。

 魔法にかかったままの彼に見つかるのは非常にまずい。

 また牢獄行きか最悪ネズミ駆除になってしまう。

 落ち着け、私は今ただのむっちりとしたネズミ。

 レモーネとは気付くまい。

 私は初めて会ったかのように、ネズミらしく

「キュッ!」

 と一鳴きしてみた。

 すると彼は今まで見たことがない満面の笑みで私のもとへやってくると、

「まさかとは思っていたが、こんなところにいたのか。」

 と言って、頭をやさしくなでてきた。

 ジン・フロストはネズミでも飼ってるんだろうか。

 逃げたネズミに似てたとか?

 自室ですごく可愛がっていたのかもしれない。

 なわけないか。

 よくわからない展開に頭が破裂しそうなのに、ジンフロストは私の体中を撫でてきた。

 はあっ!いけません!いけませんよそこは!

 乙女の柔肌になんたることを!

「キュウウウウーーーーッ!」

 もだえているとジンフロストはその手を止めた。

「どうした。もしかして、出られなくなったのか?何をやってるんだお前は。」

 ジンフロストはポットを持ち上げた。

 もしかして、私を引っ張りだそうとでもいうんだろうか?

 痛そうだからやめてーーーーー!!

「ふんっ!」

 がしゃん。

 ジンフロストの一掴みで、ポットが割れた。

 これ、鉄製だよ?

 ジンフロストは私の体についた鉄くずをそっと払うと、私の下半身をじろじろと見て来た。

 おやめなさい!

「やはり、間違いないな。」

 彼は私の右足をつんつんとつついてきた。

 そこは!そこはだめですよ!

 くすぐったいです!

 そして私は彼の上着の左胸ポケットに押し込まれてしまった。

「ちょっとそこに入ってろ。」

 両腕を回して脱出しようとするけれど、おなかが引っかかって出られない。

「さあて、お土産をいただいて帰るとするか。」

 ジンフロストは地獄の審判のように冷たくにやりと微笑むと、私が探そうと思っていた机の中の引き出しを開けて、なにやら探し出した。

 ときどき私を撫でながら。


お読みいただき、ありがとうございます。


このお話はクライマックスカウントダウン状態となりました!

あと3回で完結予定です。

よろしくお願いいたします。

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