30 快適な牢獄空間を提供することにより、リピーターの方にも大変喜ばれております。
サブタイトルは、いつものことながら特に意味はありません。
「あんのランプの精の野郎~~~今にみてろよ~~~~ただではすまさんぞおおおお~~~~~~。」
牢獄のベッドの上で丸まって落ち込む私の傍らで、ポムピンがデバランに対する恨みを爆発させていた。
「こちとら呪いの魔女の系譜ぞ~~~~呪いのプロフェッショナルぞ~~~~呪ってやると思えば思うほど魔力が高まる~~~~~。」
なんかやばい雰囲気をかもし出し始めたので様子をうかがってみると、目をらんらんと輝かせて、今までで一番楽しそうな顔をしていた。
「だあれが役立たずだってえ~~~~~?おまえこそ役立たずにしてやろうか!男として!」
今にもいーっひっひっひっひっひとか言い出しそうだ。
人のことをいつもやばいやばい、と言ってくるが、ポムピンも十分やばいと思う。
「レモーネさん!落ち込まなくてもいいんですよ!私があの嫌味な魔法使いをこらしめて、辺境伯にかかった魔法を解いてあげますからね!」
まさか彼女からこのような心強い言葉が聞ける日が来ようとは。
涙がちょちょぎれるじゃないの!
女の友情も素晴らしいわね!
「それで、どうやってこらしめるというの?」
私はベッドから起き上がって聞いた。
「チクってやるんですよ~~~~~~。」
「……魔法を使うんじゃないの?しかもチクるって。セコイわね。」
チクるって、何を?
誰に?
やっぱり不安になってきた。
半目でポムピンを見ると、彼女は眼鏡を中指でくいっと上げると、人差し指を立ててちっちっち、と言った。
なんかむかつく。
そしてポムピンは、人差し指をおでこにあてて渋い声で言った。
「え~、あいつは大変な間違いを犯してしまいました。はい。」
何かの物まねだろうか。
「そういうのはいいから、さっさと説明してちょうだい!」
「いやー、一回これやってみたくて、つい。あいつが辺境伯をあのおっぱい女にメロメロにさせた魔法ですが、あれ、完全にアウトです。以前にも言いましたよね。人の心に直接作用するような魔法は使ったらいけないって。とても厳しい処罰が下されるんです。あいつ、知らなかったんですかね?それとも知ってて使ったんでしょうか。どっちにしても、完全に全魔連をなめてますよね。」
「ぜんまれん?」
「全世界魔法使い監査連合会です。ここの会員にならないと魔法使いとして活動ができないんですけど、同時に魔法使いが違法な魔法を使っていない見張っている機関でもあるんです。ここに、あいつをチクリます。」
「それで、今回のことは解決できるっていうの?」
「はい!!人よりも強い力を持って偉そうにしてたやつが、より強い力によってねじ伏せられる!これぞカタルシス!ぞっくぞくしますよおおおお~~~~。」
また牢獄に入れられたというのに、それでさっきからやけにテンションが高かったのか。
「でも仮にそれがうまくいったとしても、私がジン・フロストと結婚できるかどうかわからないじゃない?あの人が魔法にかかる前に正体がばれてしまって牢獄に入れられたし、足のこともすごく怒ってたし。」
「レモーネさんが弱気になってる……。槍でも振ってくるかも。」
あんまりな言いように、ぎっとにらんでやった。
「あはははは。まあまあ、そうにらまないでくださいよ。でもたしかにそこは問題ですよね~。レモーネさんが死刑囚だからって牢獄にすぐ入れるって、いままでの辺境伯の対応からはちょっと考えられなかったですし。レモーネさんって、一般人か死刑囚かとか、そういう次元の問題の人間じゃないですからね。ってゆーか、調べてなかったんですね、レモーネさんの正体。すでに調べさせてると思ってたんですけど……。」
「ナハシュまで謹慎だなんて、おかしくないかしら?魔法にかかった後ならまだしも……。」
「そうですね。なにか急に心変わりしたことでもあったんでしょうか……。そーいえば、なんかすっごい怒ってましたねー辺境伯は。レモーネさんが足を切った原因を知った時でしたっけ?」
「ええ。また怒られたわよ。ここ来てすぐのころも貧血で倒れたときすごく怒ってたけど、その時よりも怒ってたわね。」
なんで私が彼から怒られないといけないのか、誰にも迷惑はかけていないはずだというのに。
「そうでしたね。あの時はレモーネさんの体のことを心配してたんじゃないかと私は思うんですけど……。今回も心配してたんでしょうか?うーん。でもそんな感じでもなかったですよねー。」
ポムピンはアゴに手をあてて考え込んでいる。
もしまた彼に会えたとしても、以前のように接する自信がない。
これ以上嫌われるのが怖い。
ポムピンはじっと私の顔を見て、
「まさか……嫉妬で?」
とつぶやいた。
「いやいやいや、まさかね!辺境伯にかぎってそんなこと考えるわけないよね!ってゆーかそれならどんだけレモーネさんのこと気に入ってんだって話なんだけど、そんなことありえないしね!あははははっ!」
一人でわけがわからないことを言っては盛り上がっている。
「もう~レモーネさん!そんなに暗い顔をしなくても大丈夫ですよ!あの憎いあんちくしょうをやっつけたらまた辺境伯に結婚してもらえるように頑張ればいいじゃないですか!レモーネさんにも色々と女の魅力はあるんですから!」
「たとえば?」
私が聞くとポムピンは一瞬固まった。
「えーっと、髪が長い!腰まである!フゥ~!」
ポムピンは両手を上げ下げしてはやしたてた。
「他には?」
「他には!?他には、えーっと、うん、その~。ねっ!まあ、言葉では言い表せない魅力がありますよ!」
またフゥ~!と言っている。
それでごまかしてるだけだろう。
私はため息をついた。
「今はなんだかジン・フロストに会いたくないわ。」
「ですよね~怖いですもんね~私も早くここから帰りたい……ってええええーーーーーっ何言ってんですかレモーネさん!それじゃあ死刑まっしぐらですよ!」
「だってあんなに怒ってた後にどんな顔すればいいのか……。」
ラウラとキスをしていた光景が頭に浮かんだ。
なんというか、お似合いだった。しっくりきていた。
「あ~レモーネさん……。」
ポムピンは咳払いをしてから話しかけて来た。
「レモーネさん、私の魔法がかかって子供になったり男になったりした時のことですけど。」
「なによ突然。」
「元に戻るとき、私、辺境伯とキスしてくださいって言いましたよね。」
「ええ。男の時は結果的には酔っぱらってそれっぽいことはしたから元に戻ったけど。」
「なんで辺境伯とって限定されてるか、疑問に思いませんでしたか?」
「そういえば、そうね。」
口づけで元に戻るということならば、誰でもいい可能性もあったのだ。
考える余裕がなかったから、そこまで思いが至らなかった。
「実は私、わざと言わなかったことがあるんです。もしかしたらそうなのかな~と思ってたことを証明したくて。もしそうじゃなかったらレモーネさんは元に戻らなかったんですけど、見事に元に戻りましたよね~しかも二回も。」
「なんで言わなかったことがあるのよ!」
「いや~、言っちゃったらレモーネさん意地を張って元に戻ろうとしなかっただろうし。」
「別にそんなことはないわよ。私は頑固者ではないわよ。」
「魔法を解く方法が、本当に好きな人とのキスでもですか?」
「……はあああああああ?」
「私が使ってた魔法書に載ってた魔法って、その解除方法が全部心から愛する者との口づけだったんです。一つずつの魔法の解除方法にそれぞれ難しい魔法鍵がかけられていて、それを開けるのが大変だったんですけど、まさかの全部一緒っていう。」
「なによそれなによそれなによそれええええーーーーーー!!!!!!」
恥ずかしい!
こんな恥ずかしいことってある?
私は火を噴きそうなほど熱い顔を両手でおおった。
「人の心って、自分でもわからないことが多いじゃないですか。あれ?私、本当にこの人のこと好きなんだっけ?それともこの人のお金が好きなんだっけ?とか。すぱっとわかっていいですよね~この魔法。」
「待って待って、ということは私は……。」
「愛しちゃったんですねえ~辺境伯のこと。しかもけっこう早い段階で。」
「それを言う?このタイミングでそれを言う?!」
「むしろ今しかないかな~と思ったんで。」
「最悪のタイミングじゃないのよおおおーーーー!!!」
「いや、こーゆーことは自分で気づいた方がいいと思ってたんですけど、なかなかレモーネさんが自覚しないもんだから、こっちもしびれを切らしたってゆーか。どんだけ鈍感なんですか。」
「ますます会いにくくなったじゃない!」
「辺境伯もなんか鈍感そうだし、鈍感同志お似合いですよ。だから大丈夫じゃないですか?」
他人に指摘され、しかもそれが自分では気づいていない事実なのにバレバレだったという恥ずかしさに、私はベッドにもぐりこんでまたうずくまってしまった。
「あーでも、魔法を解く方法って、多いですよね。キス。なんでなんだろ。」
「知らないわよ!」
お読みいただき、ありがとうございます。




