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25 (頭が)お花畑(が何をやらかすかわからないの)でつかまえて

目的のために手段を選ばないのはいいけど、それでいいのか辺境伯、という話です。

「ルゥゥゥウエェェェェンンモオオオオオォォォォンヌエエエエエエエエエーーーーーーー!!!!!!!!」

 俺は街角でまた女を口説いている男レモーネを発見したので、即座に捕獲するために名前を叫びながら走っていき頭をむんずっと掴んだ。

「ぎゃああああああーーーーっっっ!!痛い痛い!頭がつぶれるこのバカ(ぢから)ああああああ!!!!」

 クグロフの領民、特に女の安全を守るために結成されたのが、この男レモーネ捕獲隊だ。

 今のところ隊員は俺、ジン・フロストただ一人なのだが。

 なんだかんだとこいつの世話を押し付けられ、とはいえ特に害はないのでほったらかしていたのが、よく考えればもとはあの黄色いドラゴンだ。

 何をしでかすかわからない。

 思いつめて10代未満に声かけをする危険性も無きにしも非ず。

 それに子供になってしまった時の熊おびき寄せの前例がある。

 ということでなるべく目を離さないようにしていたのだが、隙をついてすぐ街へ脱走するので、そのたびにこうして一人捕獲隊を結成し城下町へ自ら捕獲しに行っている。

 これはもう何度となく繰り返されており、最近は日常の習慣になりつつある。

 初めは面倒なことだと思っていたが、これがなかなかデスクワークの合間の息抜きになっていい。

 緊急事態に即座に対応する訓練にもなるし、瞬発力を鍛えられるし、なかなか時間が取れないので最近は行っていなかった乗馬の鍛錬をすることができる。

 そしてなにより。

「ちくしょおおおおおっ!!あんたはなんなんだよ!いっつもいっつもオレの邪魔をして!!あんたオレになんか恨みでもあるのかよっ!!」

 こいつのこの悔しがる顔を見れるというのがとてもストレス解消になるのだ。

 今まではいつも俺ばかりハゲる思いをさせられていたので、仕返しをすることができてとてもすがすがしい気持ちになる。

 まるで新緑の季節に森で思いっきり深呼吸をしたかのような癒し効果があるのだ。

 こいつの黄色い頭をつかんだままずるずると引っ張っていく俺を、遠巻きに領民たちが見ている。

「領主様だ!」

「領主様がお出ましだ!」

「またあの青年を連れ帰っているぞ!」

「あの噂は本当だったんだ!」

 そしてざわざわと騒ぎだした。

 俺は男レモーネを馬のところまで連れてくると、くるりとこちらを向かせて身だしなみを整えてやった。

「まったく、こんなだらしのない恰好をするんじゃない。」

「えー、オレ堅苦しいの嫌いなんだよ。」

「つべこべ言うな。城に帰ったら昼飯を作ってあるから食え。レバーの甘辛炒めを希望通り大盛りで用意している。」

「あんた、料理だけはうまいんだよなー。」

 馬に乗れない男レモーネを、ひょいと馬にまたがらせてから、俺もその後ろにこいつを抱きかかえるようにして乗った。

「え?ちょっと待てよ、なんで俺が前なわけ?いや、後ろも嫌だけど。」

 その様子を見た領民たちがおおおっと歓声をあげた。

「領主様がまるでオカンだ!」

 誰かがそう言った。

「違うぞい、あのぎこちなくも初々しい雰囲気を漂わせるあの感じは……新婚さんじゃあ!」

「新婚さん!?」

 一気に視線が生温かいものへと変わる。

「うげええええええっ!!なんかとんでもない勘違いをされてんだけど!嫌だ!嫌すぎる!!あんたは早く否定しろよ!誤解を解け!!」

「なんのことだ?」

 もちろん何を言われているか聞こえているが、しらばっくれる。

 こいつの嫌がるさまは実にいい。

「あんたとオレがアレな仲だと思われてるだろうが!嫌だ!ハゲる!」

 お前もハゲ山にしてやろうか!

「くだらん噂など放っておけ。」

「いやいやいや!これは放っておいちゃいけないヤツ!つーかこれあんたにも結構被害が出てんだけどいいのかよ!」

「構わん。どんなことを言われようと俺が辺境伯であるという事実は変わらん。」

 これくらいの噂があるからと言って、こいつの嫌がる顔を拝むという最近の楽しみがなくなるのは困る。

 まあ、男色家なのではと思われるのは嫌だが、致し方ない。

「肉を切らせて骨を断つ、だ。」

「いや言ってる意味がわかんねーんだけど。」

「俺もわからん。」

「あんた馬鹿だろ!あんたこんなやつだったっけ?なんか妙に楽しそうなのが腹立つんだけど!!」

「はははははっ、もっと困るがいい!!さあ、帰るぞ!」

 俺は馬の腹を蹴って城に向かって走らせた。

「領主様があんなに楽しそうにしておられる!」

「春だ!領主様に春が来たんだ!」

「あの冷酷な領主様の心の氷が解けたのよ!」

「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

 領民たちが背後で万歳三唱をしながら見送ってくれた。




 男レモーネはその日は昼食をあっという間に平らげると、すっかり拗ねてしまってふて寝してしまった。

 今はもう日付も変わろうかとしているというのにまだソファにだらしなく寝転がって惰眠をむさぼっている。

 こいつは本当に、寝る、食べる、女を口説く、という根本的な人間の欲望に基づいた行動しかしていない。

「うーん……シエラ……お兄ちゃんだよ~。へへへへへ。」

 気持ちの悪い寝言まで言っている。

 こいつには妹がいたのか。

 それにしても、シエラ、か。

 最近どこかで聞いた覚えがある。

 なんだっただろうか……。

 書類から目を離して思い出そうとしていると、どすん、と鈍い音がした。

 男レモーネが頭から落ちていた。

「い、いてぇ……。せっかくいい夢見てたのに……。」

 寝ぼけながら頭をさすっている。

「おい、寝るなら隣の部屋の簡易ベッドで寝ろ。」

 最近は俺が仮眠用に使っているベッドをこいつに使わせている。

 男レモーネは何か信じられないものでも見るような目で俺を見てきた。

「なんだ?」

「あんた……何やってんだ……。」

「何って……仕事だが?」

 男レモーネは、ひいっと声を上げて立ち上がった。

「仕事だが?じゃねえよ!もう外は真っ暗だぜ?夜だぞ?いつまで仕事してんだよ!」

「あと二時間はしようと思っている。」

「ん?もう街の明かりもついてない!真夜中じゃねえか!」

 ぎゃあぎゃあとうるさいので片手でしっしっと奴を追い払ったが、逆に机のそばまでやって来た。

「こんな時間まで仕事してんのはマジで尊敬するけどよ、あんたいつ女の子と遊んでんだよ!死ぬよ!」

 またその話題か。

「見てのとおり俺は忙しいんでな、女とどうこうする暇はない。ってこれ前にも言わなかったか?」

 睡眠時間が欲しい。女より。

「何言ってんだよ!仕事よりも大事だろーが女の子!そんなもんほっぽりだして一緒にナンパしに行こうぜ!」

 男レモーネはそう心配気に言ってきた。

「辺境伯たる俺が仕事投げ出してナンパになんか行けるか。」

「そんなのおかしい!なんであんたがそんなつらい目に合わないといけねぇんだ!こんな世の中間違ってる!」

 本当にこいつの思考回路はどうなってんだろうか。

 呆れてものも言えない。

「あんたはなんでそんなにかたくなに……って、はっ!そうか!……すまねぇ!オレは馬鹿だ!あんたは、隠しておきたかったはずなのに、オレがこんなにも騒ぎ立ててしまったからばれちまった。あの人妻になった昔の恋人のことを今でも想っているなんて嘘までついて隠し通そうとしていたのに!」

「はあ?何言ってんだお前。」

「あんた、枯れてるんだろ?」

「……あ?」

「男として、枯れてるんだろ?それを仕事が忙しいからってことにしてごまかしてんだろ?」

 ものすごく同情した顔をして、優しくぽん、と肩に手を置いて来た。

 何言ってんだ、こいつ?

「行こう。お医者さんに、行こう。オレもついて行ってやるからさ。大丈夫、何も気に病むことなんかないさ。男なら、まあ、たまにあることだ。な?」

「おい、もう黙れ。」

 話すのがばかばかしくなってきた。

「人に打ち明けるのが恥ずかしいのは、わかる。でももう自分を偽る必要はないんだ。オレはあんたの味方だ!取り戻そうぜ、あの頃のあんたを!」

「うるせぇ!寝ろ!」

「いやだ!こんな悲しみを抱えたあんたを放っておけるかよ!」

「誰が男として枯れてるんだよ!俺は普通だ!」

「マジで!嘘ついてない?」

「こんなことで嘘をついてどうする。」

「じゃあなんで、なんでこんな夜中まで仕事してるんだよ!」

「そこに仕事があるからだ。」

 はっきりと言ってやると、男レモーネは雷にでも打たれたようにショックを受け、よろよろと後ずさりをして床にしりもちをついた。

「純粋に仕事をしてるっていうのか……?信じらんねぇ。人間じゃねぇ!」

 呆然としながらそうつぶやいている。

 こいつの嫌がる姿を見るのが面白くてほったらかしていたが、そろそろマトモになるように鍛えてやる必要があるのかもしれない。


お読みいただきありがとうございます。

もう少し男だらけの画面にお付き合いください。すみません。

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