工具生産
蒸気機関について説明を求めるペタちゃんに、大昔に見た蒸気機関の教育番組を見せて説明を丸投げすることにする。
俺が自分自身で頑張って説明するよりも理解しやすいだろう、手抜きではないぞ。
「うわ~、博士、複雑な機械ね~これは一体どうなっているの?」「これはな、クランク機構と言って、蒸気によって生まれたピストン運動を回転運動に変換する装置なんじゃ」
みたいな、子供向け番組のキャラクターたちの掛け合いの様相がなんだか懐かしい。
ペタちゃんが、何なのよこいつら? と当然の疑問を投げかけてくるが、映像からキャラを取り外して説明部分だけ取り出すなんて器用な真似は出来ない。
しょうがないだろ、見たことある番組をそのまま出すしかないんだよ。
映像ではSL機関車が、煙を吹いて走り、何百人もの乗客や大量の貨物を乗せて走る映像が流れている。
「うわぁ……すっごいエネルギー……蒸気でこんなことができるなんて……。
え? これを作るの? あいつらこれをダンジョンに作っちゃうの?」
それを見たペタちゃんが、目を見開いて鼻息を荒くして興奮していた。
もっとも蒸気機関や、SLのかっこよさに興奮しているわけではなく、ここから取り出せるダンジョンポイントの量に興奮しているわけだが。
「何10年……いや100年は先の話かもしれないけど、いつかは作っちゃうだろうね」
「たったそのくらいで!?」
……そうだったね、ペタちゃんの実年齢は140歳超えてるんだったね。
100年は十分に待てる範囲だな。
というか、200年もすれば原子力発電所をダンジョンに作って、核廃棄物処分もダンジョンで気軽に解決しそうだ。
でも、どうにもアウフちゃん達のダンジョンのエネルギー理論の説明を聞いてると、少し疑問が残るな?
「あのさ、ペタちゃん?
あいつらの言う通り、ダンジョンが求めているものが、外部からの質量や運動エネルギーって言うんだったらさ。
最初から、海の中にダンジョンの入り口作って、海水を無限に吸収したり、火山からマグマ取り込んで熱エネルギー取り込んだりするだけでもいいんじゃない?」
「ああ、それはダメね。まずダンジョンの入口は自由な場所に作れないから狙って作る事はできないわ。
あと、生物そのものだったり、地上の生物の意思を感じる秩序だったエネルギーじゃないとダンジョンのポイントにはなりにくいの。
たとえばさ、何トンっていう地上の石ころや水と、人間が作った服一着を比べたら、人間の服を取り込んだ方がダンジョンポイントとしては優秀なのよ。
昔、ずーっと地上の水が大量に流れ込み続けてたダンジョンがあったんだけど、物質の吸収にかかるポイントより、取り込めるポイントの方が安くなっちゃって崩壊したみたいだから」
うーん、つまり大量の水やマグマを入口から流し込むだけのダンジョンを作っても。それは栄養の薄いこんにゃくを無限に食べ放題みたいな状況に過ぎず。
ダンジョンは普通に飢え死にしちゃうみたいな話なのかもしれない。
まあ、戦いで得られるエネルギーや、死んだ人間の血肉、あるいは脳に蓄えられた情報が大きなポイントになるといってたからな。
生物の意志に管理されているエネルギーじゃないと、大した栄養素にはならないのかな。
これらの理論を繋いで考えてみると。
人間の意志で加工された巨大エネルギーである蒸気機関をダンジョンで生み出すとどうなるの?
今現在の理論ではエネルギーに生物の意思が介在するにつれ得られるポイント量は増加するので
加熱により噴出された蒸気が、目的を持った動力となった瞬間に、栄養素の薄い熱エネルギー → 加工された栄養たっぷりの意思エネルギーとなる為
ゲームバランス崩壊を起こす想像を絶するダンジョンポイントが発生する
それが数十年であらゆる階層に広がり、ベルトコンベアなどが四六時中稼働し始めるのでダンジョンがヤバイ。
お前の蒸気機関でダンジョンがヤバい。
ということになるわけだ。
「……まあ、こんなの何十年も先の話だろうから、今は深く考えなくてもいいか……」
というか、こんなもの深く考えた所でこちらがどうこうできる範疇を超えている。
最初の発明から、その発明が利益になると確信し、国家が全力で後押しを始めたあとの発展速度は異常としか言いようがないのだ。
なるようになーれである。
「情報収集の罠湯で読める情報から、何がどうなってこういう事になったのか、地道に調べて行くしかないか」
アウフちゃんは5階層の情報収集の罠の湯に入ってきていないので、情報が読み取れない。
取り巻きの科学者風の連中も男が多く、どいつも温泉ダンジョンの奥には入ったことがないみたいで情報が読めない。
それに一般人には理解しがたい専門的な話をするので、こいつらの会話をずっと聞いていても何を言っているのかよくわからない事が多い。
「まあ、読むならヴィヒタさんからしかないよな。今どこにいるかな」
ヴィヒタさんを探してみると、武器防具の修復湯の所にいた。
最近ずっとこのあたりの階層で謎の部品を作らされていたみたいだけど、あれってもしかすると蒸気機関の部品だったのかな?
そんなヴィヒタさん達は温泉に浸かりながら、真っ赤な剣で何かを削り出していた。
「はあ……赤の剣をこんな加工に使うなんてどうかしていますよ。トウジ隊長に怒られたりしないんですか?」
「アウフお嬢様のご命令ですし……国益にはかなっている使い方ですので、トウジ隊長もお認めになりますよ……嫌そうな顔はするでしょうけど」
「それで~、これはいつまで作ればいいんですか~、副隊長~?」
「鉄ダンジョンのめちゃくちゃ硬い金属を加工できる工具を数百本生産すれば……その道具を使って職人さんが同じ道具を大量に作り出せますので。
そこから先は鍛冶職人の方々に丸投げできるハズです……」
ヴィヒタさんたちは武具ダンジョンの赤の剣を使い、俺が鉄ダンジョンに渡した硬い金属を、彫刻刀のような加工用の道具へと削り出しているようだった。
装備強化の湯に漬け込んだそれらの道具を使えば、地上では加工できないほど硬い金属も加工できてしまう。
こうやって、本来の技術の段階をいくつかすっ飛ばしたような手順で、蒸気機関も力技で完成させてしまったのだろう。
まあこれは、俺達の進めているダンジョン同士の連携が実を結んでいるということでもある。
「もし、強化湯に漬け込んだ、この硬い金属で作り上げられた工具を使って。
虹の鉱石を矛先に加工することができれば、深い階層でも通用する槍を大量に作れるのではないかとお嬢様が言っておられましたので。
それが叶えば、トウジ隊長も心の底から大喜びするのではないでしょうか」
「そして、私達は矛先を加工するための道具を作るために毎日ここに通う事に……?」
「それは第1部隊の候補生に丸投げできるハズですっ!」
「なんで今すぐ丸投げできないんですか!?」
「赤の剣みたいな、持ち出し厳禁の機密品を、ほとんど騎士の教育も受けていない候補生においそれと貸し出せるわけがないでしょう」
「でも、この生活ならそこまで嫌じゃありませんよ、温泉に入り放題で、氷でキンキンに冷やした果物やジュースを飲んでくつろげるんだもの」
「早く、早く明日の休暇日になってほしい、ウイスキー飲みたい、ビール飲みたいっ! ああっ温泉と冷えたビール……それがあれば耐えられる」
「お酒も支給されるようになったもんね」
「それってここ最近の扱いに対するガス抜きでしょ! うう……ある程度それで許せてしまう自分が悲しい……」
「噂では、王都や飯困らずダンジョンまで温泉水を運ぶための道路やトンネルを作る計画もあるってさ」
「まじで? いつもの山を越えなくても運搬できるようになるなら大歓迎よ!」
「誰がそのトンネルを掘るのよ?」
「ちょ……、道路作りやトンネル工事なんて絶対に嫌よ!? ダンジョンの中だから、こうやって温泉に入って冷たい飲み物飲んでいられるんだから!」
「そちらはゲンセン将軍やセパンス正規軍が動いてくれますので、丸投げできるはずです」
「ほ、本当ですか、本当ですね? ヴィヒタ副隊長?」
「ええ、温泉ダンジョンの深くでこうやって作業できる、女騎士、は貴重ですからね。地上の工事に私達が回される心配はありません」
ああ、はい。といった顔に女騎士達がなる。
地上の工事に回される心配はなくとも、温泉ダンジョン地下での作業は延々と続くのだ。
そして、地上の発展に合わせて続くこの作業に終わりなど見えはしない。
「私達は飼われている……」
「ニコのその言葉、久しぶりに聞いたな。まあ、同感だけど」
「ああ、王宮や陛下の警護をするだけの過去が、今となっては懐かしい思い出だわ……」
彼女たちは温泉ダンジョンでの作業が、今のところ一番マシな待遇だと理解したのか、その後は黙々と作業を続けた。
大変そうだね。
なお、情報収集の罠で蒸気機関について調べても。
気がついたらお嬢様が公爵邸の壁を蒸気機関で破壊しているのを見て初めて知った。くらいの情報しか読めなかった。
本当に何をどう解釈して、アウフって娘の頭の中では、俺が蒸気機関を作れと導いたことになっているんだろうか……?






