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女神は真価を問う  作者: あやさと六花


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15/15

15話

 貴族社会で重要視されている社交シーズンは、王城で開かれるデビュタントを祝う舞踏会から始まる。適齢期を迎えた子息令嬢のみならず、国中の多くの貴族が参加する。


 レオナルドと共に舞踏会場を訪れたシャーロットは、目の前に広がるきらびやかな世界と華やかな人々に、自然と息を吐いた。


「大丈夫だ、何があっても俺が守るから」


 頼もしい言葉をかけてくれる騎士に、シャーロットは微笑んだ。


「ありがとうございます。……緊張もしているのですけれど、こうしてあなたと一緒にここに立てるなんて夢みたいだと思いまして……」


 デビュタントを示す白いドレスを身に着けたシャーロットの首元には、鮮やかな緑の宝石がついたペンダントが飾られている。レオナルドの衣装と揃えたものだ。


 こうして隣に立てばふたりが婚約関係であることは一目瞭然。周囲の視線が気にならないと言えば嘘になるが、シャーロットは迎えることができた幸福な結末に胸を震わせていた。


「そうだな。……今日は存分に楽しもう」

「ええ」


 国王夫妻への挨拶から始まり、レオナルドの友人や知人、オルコット伯爵夫人たちへの挨拶回りを済ませた。途中、シャーロットの家柄やレオナルドとの婚約に不服を唱える令嬢もいたが、シャーロットは毅然と対応した。レオナルドも彼女たちを牽制し、シャーロットを侮辱されないよう守った。




「レオナルド様に渡したいものがあるんです」


 ダンスに興じた後、少し涼もうとテラスで休憩している時に、ふと思い出したかのようにシャーロットは口を開いた。首を傾げるレオナルドに、それを手渡す。


「これは……!」

「一時的に預かっていたペンダントです。呪いが解けたので、お返ししたくて」


 レオナルドは鍵型のペンダントを大事そうに手で包んだ。その目は宝物を取り戻した子どものように輝いている。


「それほど気に入ってくださったのですね」

「君がくれたものだからな。……俺の無事を祈って用意してくれたものなら、なおさら身につけておきたいんだ」

「……でも、それはあなたをお守りするどころか、呪いをかけて苦しめました」


 悔恨に満ちた言葉が口からこぼれ落ち、シャーロットははっとした。祝の場でこんな暗いことを話すつもりはなかったのにと、唇を噛みしめる。


 だが、一度口に出してしまった言葉は取り消せず、一部とはいえ不穏な胸の内をさらしてしまった以上、レオナルドも聞かなかったことにはしてくれないだろう。


 シャーロットは誤魔化すのを諦めて、素直に心境を語ることにした。


「本当はそれをお返ししようか迷ったんです。呪いの引き金になったものですし、……もし、まだ効力があったらと思うと……」


 残酷な拒絶を思い出し、シャーロットは手を握りしめた。一年間耐えてきたのに、レオナルドの態度が冷たいままでも一生傍にいると決意したのに、彼の愛を取り戻した今のシャーロットには恐ろしくてしかたなかった。


 情けなく震えるシャーロットの手を、レオナルドは優しく包んだ。


「君に伝えておきたいことがある。まず、あの呪いは敬虔な信徒に与えられる女神ラーラの試練のようなものらしい。だから、結果は関係なく試練が終われば効力はなくなる。……あの日記の男も恋人と別れた途端、呪いが消えただろう?」

「確かに、そうですね……。あの男性の恋人も熱心なラーラ教徒と書いてありましたし」

「実際にお聞きしたんだが、呪いがかけられた時の状態も呪いが解けた時の状態も、俺と似たような状況だったらしい」


 なるほどと納得しかけて、シャーロットは引っかかりを覚えた。実際に聞いたとはどういうことなのだろうかと。


「大神官様にお聞きしたんだ。あの日記を書いたのはあの方だからな」

「え……そうなのですか?」

「ああ。女神ラーラの力を身を持って知ったことで、敬虔な信徒になられたそうだ」


 意外な事実にシャーロットは驚きながらも、腑に落ちた気持ちにもなった。呪いのことを調べている時の大神官はすべてを見透かしているようだったから。


「このペンダントはもう呪いとは無関係の、君からもらった大事な贈り物だ。そして次に……もし、呪いの効力があったとしても、俺はまた解呪するために奔走するだろう。万一呪いが解けなくても、俺は君の傍に居続ける」

「レオナルド様……」

「君に苦痛を強いてしまうことは申し訳ないが……でも、君もその覚悟で俺にこれを返してくれたんだろう?」


 シャーロットの胸の内を理解しているレオナルドに、彼女は微笑んだ。


 おそらく、女神ラーラは母と同じ道を辿るのではないかと不安だったシャーロットを導いてくれたのだろう。そのおかげで、シャーロットは今こうして何の愁いもなく、レオナルドの隣に立てるのだ。


 愛する人に嫌われることがあろうとも、愛し続けると自信が持てたから。あの日、嫌悪の眼差しを向けられても、シャーロットの心は彼への愛を叫んでいたから。


「次の曲が始まったようだな。……ワルツか。踊りにいかないか?」


 差し出されたレオナルドの手をシャーロットは笑顔で重ねた。

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