84話 新たな手紙
治療をしてもらったメル。
しかし、その傷は思ったよりもずっと深く……彼女達は街に足止めされることとなる。
数日後、メルは今回の事でシルフに頼んでいた事を彼女に問う。
だが、良い返答は貰えず……困っていた処に新たな問題が舞い込んだようだった。
「ええっと、何で皆私の名前を?」
次々に現れる仲間達に対し、苦笑いを浮かべたメル。
すると――。
「メル!!」
カルロスまでが彼女の名を呼び部屋へと入って来る。
「シュレムちゃんとエスイルちゃんは分かるとして、大人気ね?」
「あ、あの……リアス達の顔を見るとそんな悠長な事じゃないんじゃ?」
ニコニコとするライノとは違い険しい顔の三人。
そして、たった今もシュレムにリラーグが危ないと言われたばかりだったのだ。
メルは不安を感じつつリアス達へと視線を向けた。
「それで、三人共どうしたの?」
「それが……こんな紙が俺達の前に飛んで来てな」
「オイラもだ!」
そう言って取り出した紙は見覚えがある物で先程シュレムが見せてきた物と同じものだった。
「ああ、それならオレも持ってる、どうやら手の込んだ悪戯だったみたいだな……」
他の者達もそれを手にしている事を知ったシュレムは溜息をつき、腕を組むとひじの当たりを人差し指でトントンと叩き始める。
ただの悪戯……だが、ライノとメルはその表情を険しい物へと変えた。
「皆に紙を?」
「書いてる内容も全く同じね?」
「何だよ皆、ただの悪戯だろ? そんな変な顔をしなくても良いじゃないか」
「そうだよね、でもなんで僕たちの所に?」
エスイルは紙を眺めるが、それは何の変哲もないただの紙。
描かれている事は全く同じであり、それは悪戯の様にしか見えないが、同じものをわざわざ仲間全員に配るだろうか? メルは疑問に思いつつ頬に手を当て尻尾を大きく揺らしつつ考える。
「でも、わざわざお兄ちゃん達皆に配る必要は……ない」
「うん、そうだよね」
メルの左腕に抱きついたリリアの言葉にメルは頷くと、エスイルは頬を膨らませ――。
「誰かが落とした時の為じゃないの?」
そうぶっきらぼうに言うとエスイルはメルの右手を取った。
されるがままのメルは首を傾げる。
「誰かが落とした時って……ただの悪戯ならそこまで考えるかな?」
「ああ、何か胸騒ぎがする……メル、どうにかして調べられないか?」
リアスの言葉に頷いたメルはすぐにシルフへと視線を向けた。
「シルフ、これ家に伝えてもらえるかな? この手紙は私達に向けた物だろうから多分、今まで言った所のはず……」
『任せて! すぐに伝えに行くよ!!』
シルフは頷き、窓から外へと出ると風に乗り飛び立っていく……。
それをしっかりと目に焼き付けたメルは再びリアス達へと目を向ける。
「これですぐに連絡が来ると思う」
「ああ、助かるよ」
「何も無ければいいのだけど……何か嫌な予感がするわね」
ライノの呟きにメル達は言葉を失った。
悪戯と決めつけていたシュレムも黙り込み――。
「で、でも、ほら……まだ悪戯じゃないなんて決まった訳じゃないし、ね?」
そう言葉にするメル自身、その不安はぬぐえなかった……。
そんな彼女の心情を知ってか、ライノは彼女の肩に手を置き、メルな首を傾げ尻尾をゆっくりと揺らした。
「ライノさん?」
「メルちゃんもう歩くぐらいは良いのよね?」
「え……はい、アリアさんにも激しい運動をしなければ大丈夫だって言われました」
メルがそうライノに告げるとライノはほっとした様に溜息をつく。
「アリア?」
しかし、その名前に聞き覚えがない、リアスは首を傾げその名を繰り返す。
「うん、お医者さんのお婆ちゃんの名前だよ」
「ああ、あの人か……でも、ライノなんで急に?」
彼の疑問はメルにとっても同じだったのだろう、その視線をライノの方へと戻す。
すると意味ありげに微笑んだライノは――。
「ええ、色々あって疲れてるだろうし、リアスちゃんと一緒に街を歩いて来たらどうかしら?」
「はぁ!? だん――むぐっぅ!?」
「え、えっと……今は……」
遊んでる場合じゃないよね? だって他の街が危ないんだし……。
「もし本当だとしたら、手紙に書いてあることを考えるとその街はすでに手遅れと考えておいたほうがいいわ、なら助けてあげるにも準備はしておいた方が良いと思うの、必要な物を書き出すから買ってきてほしいのよ」
「ああ、なるほど……確かにそうだな」
「メルちゃんも良い? ちょっとは身体を動かさないと駄目よ?」
その言葉にメルは頷き――。
「はい……」
「わたしも……いく……」
「僕も!」
リリアがついて行く事を告げるとエスイルも声を上げ、メルはくすりと笑みを浮かべながら頷こうとすると――。
「エスイルちゃん、リリアちゃん二人ともちょっと来なさい?」
「「?」」
「ラ、ライノさん?」
彼は相変わらずの表情で二人を自分の元へと呼ぶとメルの方へと向き直る。
「メルちゃん達は部屋の外にちょっと出ててね?」
「えっと、出る必要が……」
「出ててね? 良い?」
有無を言わさないその威圧感にメル達は首を縦に振り部屋の外へと出る。
そしてそれから本の僅かな時間で扉が開けられ――。
「お留守番してる……」
リリアは出て来るなりすぐにそう告げ――。
「リリアちゃん?」
「…………」
何かを言われたのかと若干心配になったメルだったが、何故か彼女が嬉しそうな表情を浮かべている事に疑問を持ち尻尾を大きく揺らす。
そして、エスイルへと目を向けると其処には頬を膨らました少年の姿があり……。
「エスイルちゃん?」
ライノに名を呼ばれた少年はぷいっとそっぽを向いてしまう。
「あらら……拗ねちゃったかしら……?」
「え、えっと……」
「これは一体どういう事だ? 何を言ったんだ?」
先程はついて行くと言った少女が留守番すると告げ、少年は不機嫌そうに黙っている事にリアスも疑問を感じたのだろうライノへと尋ねる。
すると彼はやはりどこか意味がありげな笑みを浮かべ――。
「内緒よ内緒っ!」
「内緒ってオイラもそれ気になるけどな……まぁ二人が納得したなら良いんじゃないか?」
「でもよ、旦那……二人が納得してもオレは――ひぃ!?」
シュレムは何やら言おうとしたが、ライノへとその顔を向けられると途端に怯えた声を出す。
そして――。
「なんでもないです……だから、その怖い笑顔は止めてくれ旦那……」
「あら失礼ね? とにかく二人にお願いしたいのよ良いかしら?」
メル達はシュレムの怯えようをちらりと見て、待つライノへと答える。
「「は、はい……」」
二人の顔が若干引きつっていた事はその場に居たリリア以外にはしっかりと伝わってしまったのだが……彼女達は声を揃え。
「「か、買い物に行ってきます」」
その言葉は少し震えていた。




