62話 倒れたメル
リリアという少女に襲われ、倒れたメルを見てシュレムとエスイルはただ呆然とするだけだった。
そんな中、リアスとライノは少女と戦い――リアスは少女によりその命を刈り取られる――瞬間、メルは起き上がり、魔法で彼を守るのだった。
メルが生きている事を知ったシュレムは立ち直り、リアス達は彼女と協力をし、リリアと言う少女との戦いに決着をつけるのだった。
「あ、当たったぞぉぉぉぉぉおお!!」
確かな感触を感じたシュレムは雨の中、咆哮を上げる――
「ああ、助かったよ、だけど喜ぶのは縛り上げてからにしよう……ライノはメルを頼む」
リアスはそう言うと縄を取り出しリリアを拘束していきつつ、彼女を見つめ小さな呟きを発する。
「さっきの、何に気を取られたんだ?」
その呟きに答える者は無く、リリアの拘束を終えたリアスはゆっくりと立ち上がる。
「こいつ何だったんだ?」
「さぁ……」
「さぁってお前知り合いなんだろ!?」
返ってきた言葉にシュレムは眉を歪め返す。
「……妹だよ」
「なる……妹!?」
静かに返された言葉に納得しかけた彼女だったが、すぐに驚いた表情へと変えるとリリアと言う少女の顔を覗き見る。
「ああ、正真正銘血の繋がった妹だ……同じ師匠……叔母さんの元で修業をしていた。ある時からこいつは殺しに興味を持ってな、そのまま修業を中断されたんだ」
「ど、どういう事だよ、それまでは興味が無かったって事だろ?」
「……分からない、急になんだ……だから、修行はさせてもらえなかった……だけど家に居るはずのコイツが何でここに……」
彼は縄で縛った自身の妹を見下ろし……それにっと呟く……
「どうしたんだ?」
小さく呟かれたその言葉が聞こえたのだろうか? シュレムはリアスへと尋ねるが――
「シュレムちゃん! リアスちゃん! メルちゃんを馬車まで運んでくれる?」
「っ!! ライノの旦那! メルは無事か!?」
すぐに身を翻し、メルの方へと向かう。
「無事かって貴女……」
「いや、旦那の力は信じてる! だけどいざ名前を聞くと心配なもんは心配なんだよ!!」
大声でライノにそう告げながら走るシュレムの背を眺め、リアスはどこか寂しそうな顔をしていた。
そして、その瞳を妹へと向け――
「……前はなんとも思ってなかったけど、前は俺が怪我した時には一応を心配してくれてたのにな……」
少女へと呟くと、リアスはその場から離れメル達の元へと走る。
彼がメルの元へと辿り着くと笑みを浮かべたライノは――
「さ、二人で運んで頂戴」
っと言い、それに続くようにエスイルは――
「メルお姉ちゃん怪我してるから慎重にね!」
と二人へと伝えた。
「ああ、分かってるオレに任せて置け! それは良いけど、首の所がひりひりするけどあの薬って――」
「問題ないわ、あれはただの調味料……普通のより高いのだけど、怪我が無かったのなら儲けものだわ……あら?」
ライノは突然顔を険しくし、メルを支えるリアスの肩を叩く――
「どうした……?」
「あの子……どうなってるの?」
「あの子? ってリリアか……縛って――」
リアスがそう告げ、ふと少女の方へと顔を向けようとした時――
「うぁぁぁあああああ!?」
青年の叫び声が聞こえ――
「カルロスちゃん!! すぐにそいつから離れなさい!!」
ライノの声が飛び――リアスは慌てて瞳を向けると……
「なっ!?」
そこには縛られたまま立ち上がったリリアの姿があり――
「ぁああぁああああぁああああああ!!」
その縄を引きちぎろうとしているのか、身体へと力を籠める少女。
「リリア!! もう辞めろ!!」
リアスはそう叫ぶが――少女には声が届いていないのだろうか?
縄は食い込み、赤い鮮血を染み込ませる……
「な、なんだよ……お前の妹……」
「わ、分かる訳ないだろ! 第一あれは俺の知ってるリリアじゃ……」
無い、そう言おうとし――彼は目を疑った彼女の耳の辺りから大きなミミズの様な黒い虫が飛び出し……
それは外に出るとボロボロに崩れて行き、姿を失ったのだ。
それと同時に少女の身体からは力が抜け、その場へと倒れこみ……辺りには雨の音だけが響いた。
「……リリア?」
リアスはメルを支えたまま少女の名を呼び……
「何か変だわ……縄は千切れないみたいだし、み、見て来るわね?」
ライノは少女の元へと走る……
それを呆然と見つめるリアスだったが――
「おい! さっさとメルを馬車に運ぶぞ!! じゃないと、お前の妹を運べって言われても無理だからな!!」
「あ、ああ……エスイルは俺達についてくるんだ」
「う、うん!」
エスイルを連れリアスとシュレムはメルを馬車の中へと連れて行く……
そして、横たわらせると――
「ちょっとリアスちゃん!!」
馬車の外からライノの声が聞こえ、リアスは飛び出る。
「どうした!」
そこには彼の妹であるリリアの傍へと座るライノの姿があり……
「この子を診てみたの……耳に傷が無いわ……」
「は?」
リアスが思わず出した声にライノは困った様に表情を変え――
「さっきの見たわよね?」
「ああ、だが……あれで傷が無い、のか?」
「……ええ」
リアスの言葉に頷くライノは嘘を言っている様ではなく……
彼は妹の傍へと歩み寄る。
其処には縛られてはいるものの横たわる少女の姿があり、先程大きなミミズがその身より出てきたというのに出血が一切ない。
確かに引きちぎろうとした時に出来たらしい傷はあるのだが……
疑問に思ったリアスは耳の辺りを見てみるが――
「どう、いう……ことだ?」
「ね? 無いのよ傷が……あれだけ大きいなら耳の中にだけ入っているのは無理だわ、血が出ておかしくない、なのに……」
少女にはどこにも外傷はない。
その事実だけは確かで――
「……ぅ……ぅぅ……」
「っ!! ライノ!!」
うなされる少女に気付いたリアスは仲間である天族の薬師へと声を掛けた――
そのすぐ後だろうか?
「……お、兄ちゃ……? ぅぅ……ごめ……」
少女からは先程とは明らかに違う声で苦しそうに紡がれた……
「……リリア」
少女はすぐに気を失い……
リアスは少女を見下ろした。
「リアスちゃん……襲って来たって事はあるけど何かが変だし、心配よこの子?」
「……ああ……皆に話そう……」
彼はそう言うと馬車の方へと目を向ける。
すると、丁度シュレムが馬車から降りてきており、リアス達の方へと近づいて来た。
「んで、連れて行くんだろ?」
「へ?」
「へ? じゃねぇよ……いくら馬鹿でも、あれが普通じゃなかったってのは分かった。なら連れてって様子見た方が良いだろうが……なぁ! カルロス!!」
シュレムは馬車の持ち主へと声を掛けると、青年の商人はあからさまに怯えた表情を浮かべ――
「つ、連れて行くのか?」
「大丈夫だって、暴れても抑える」
シュレムはそう言うと少女を抱え――
「何だこいつすっげぇ軽いな……」
「シュレム!?」
「んだよ? さっさとリシェスに行くぞ?」
彼女の名を叫ぶリアスに対しそう告げると馬車へと向かって行く。
「ふふ、彼女の言葉に甘えておきなさいリアスちゃん」
「……そう、だな……」
強引に妹を馬車へと乗せたシュレムに対し、リアスは少し感謝をし、ライノと共に馬車へと乗り込もうとすると――
「だ、だ……大丈夫なのか?」
「ああ、安全だって分かるまでは縛って置く、すまないが頼むよカルロス」
「お、おう……」
怯えたままのカルロスは火切った笑顔を浮かべ答えると御者の席へと座り……
「じゃ、じゃぁ! リ、リシェスに向かうぞ!!」
手綱を握り馬車を走らせた。




