49話 薬草集め
ライノの薬を売って路銀を得る事にしたメル達は早速イアーナの外へと向かう事にした。
だが、門兵に止められ戻って来るのかと質問攻めにあう。
不思議に思いつつもなんとか外へと出た彼女達は改めて薬草を取りに行くのだった。
薬草集めは順調に進んでいた。
勿論、魔物には襲われる事はあったのだが、幸い強い魔物と出くわすことは無く……メル達はライノの手伝いとして薬草集めをし始めたのだった。
メルとエスイルは精霊に聞く事も出来た事もあり、それも順調に進み……
「かなり集まったわね」
持ってきた袋いっぱいに集まった材料をみて満足そうに頷くのは勿論ライノだ。
メルは袋を見てこれだけあれば自分達の分もありそうだと考えた。
「よっし、後は作って売るだけだな、こんだけあれば安値でも相当」
「それは無理ね」
「何でだよ!? 相当あるぞ?」
確かにシュレムの言う通り材料は沢山あり、例えいくつかは失敗したとしても売るにしても自分達の分にしても十分すぎるぐらいだ。
そう思うメルも疑問に持ち首を傾げた所、ライノは答えた。
「沢山集めてもらったけど、作る時には半分残ってれば良い方よ?」
「そんなに減っちゃうんですか?」
メルは勿論、摘み取ったすべてが使えるとは思っていなかったものの思っていたより少ない事に驚いた。
「ええ、虫食いはそこまで害は無いわ、けど収穫の時期を過ぎてたり、全体が痛んでたりすると駄目、毒にはならないけど効果が少なくなってしまうのよ?」
「だから、薬師は普通一人では取りに行かないんだよ、こだわって取れれば作れる量は増えるが魔物に襲われる可能性が高い」
その言葉にメルはなるほどっと呟いた。
「そうするとこの薬草から出来るのって凄く少ないんですね……」
「そうね、調合すると二十個出来ればいい方よ? アタシ達の分を考えると……半分ぐらいは売れるわね」
それでももう少し多く作れると思っていたのだろうメルは項垂れた所ではっと気付く――
「カノンドは大丈夫だったんですか? もし遅れたのを取っていってたら……」
「それは無いわ、カノンドは見つかりにくい反面、長持ちするのよ枯れてさえなければ問題ない夢の様な薬草なの。そうじゃなきゃ無理にでもついて行ってるわ」
「そうだったんですか……」
「とにかく、いったん戻らないか? 出来た薬が売れるかも確かめたい」
「そうだね、まだ日はあるんだし売れる様なら足りなくなったら取りに来よう」
もし、売れなかった時の事はと一瞬不安に思ったメルだったが、それは今考えても仕方が無い事だろう。
そう思う事にした彼女は仲間達と共にイアーナへと戻るのだった。
酒場に戻ったメル達は再びライノの手伝いで薬草の選別をする。
薬一個でかける手間は相当な物でこれではメルは銅貨六枚じゃ割に合わないなと思い始めた頃、ふと疑問を浮かべた。
これだけ割に合わない物でライノはどうやって旅をしてきたのだろう? と……
メルは視線を動かすと身なりを見てもとても貧乏とは言えない位、上等な服に身を包んでいて……肌や髪、そう言った部分にも手入れは行き届いている男性の姿が映る。
「あら、どうしたの?」
「え、その……これって銅貨六枚……なんですよね?」
「ええ、そうよ」
はっきりと告げられた言葉にメルはますます不思議に思った。
彼は旅をしている……そうはっきりと告げたのだから。
「もしかして、アタシがどうやって旅をしていたか? とかかしら」
「は、はい!」
「それは俺も気になってた」
メルとリアスが答えるとエスイルまでもが首を縦に振る。
ただ一人――
「なんでだ?」
シュレムを除いて。
「シュレムお姉ちゃん……」
「ん? どうしたエスイル腹でも減ったか?」
二人のやり取りを見つつメルはライノへと質問をする。
「それで、どうやってカロン……リラーグまで来たんですか??」
「フランゼントの薬あったでしょ?」
「あの火傷を負わせる薬……ですよね?」
メルがそう訊き返すとライノはクスリと笑い、ゆっくりと首を縦に振った。
「あれ、毒も解毒剤も最初は安値で売ってたの、その話を聞きつけてきた貴族様がね買って行ったんだけど……どうやらそのお陰で娘さんが助かったみたいでね? 報奨金をたんまりもらったのよ」
「へぇ~……所でメル貴族ってなんだ?」
「シュレム……えっと王様に名誉や特権を与えられた人達だよ、爵位とか言うのがあってそれによって偉いとかが決まるんだって」
「つまり……メルも貴族か!」
シュレムにそう言われたメルはどうなんだろう? と考え込む。
確かに母達には名誉や特権があり、メル自身もその子供だという事もあり目を瞑られていた事も多い。
だがリラーグでは貴族制度という物は無く……
「違う、と……思うけど、もし私が貴族ならシュレムもそうだよ?」
「……そうなのか?」
ユーリの騎士と名乗るドゥルガがシュレムの父だ。
彼もタリムの王討伐に向かった人であり、勿論名誉があり、特権もあるだから当然そうなると考えたメルだったがシュレムの言葉にやはり自分達は貴族ではないなと結論を出した。
「それで、ライノさんはどうして旅をしてたんですか? 貴族の人に気に入られたなら……」
実力は元からあり、貴族の娘を助けたという信用、信頼も勝ち取った。
それならば貴族付きの薬屋としての道もあったはずなのだから。
「勿論、屋敷のお付きには誘われたわ、でもまだまだ知らない薬とかがあるからね、勉強をしたいと言ったら支援金を渡されたのよ」
「へぇ~凄いなライノの旦那は」
「たまたま運が良かっただけよ? さぁ、薬早く作っちゃいましょう?」
「はい!」
選別の作業に戻ったメル達は再び薬草を分けていく……勿論商品の為だ、その作業ではライノも少々厳しかったが、そのお陰もありメルはドリアードに聞かずとも大体見分けが付くようになった。
これなら集める時にちょっと時間をかければ見比べる事が出来そうだ、そんな事を考えつつも作業が終わると、選別の後はライノが調合を始めた。
本来ならば手伝いたい所だが天族が作る物には他種族であるメル達はこれ以上、手を出せない。
その理由が精霊力と魔力だ……天族にはその両方とも無く、どうやらそれが混ざると出来に差が出てしまうらしい。
事実、昔は天族が作っているというだけ高く売れた事もあるとメルは以前シンティアより聞いていた。
ともかく、薬はこれで出来るだろう、後は売るだけだとメルは尻尾を左右に振りながら薬が出来るのを待つ――
日も沈んだころ、食事にしようと思ったメル達は立ち上がり部屋を出ようとした所メルの目に一人作業を進めていたライノの姿が留まる。
「メルどうした?」
彼女が立ち止まった事に気が付いたのだろうシュレムがそう尋ねてきたので彼女は――
「先に行って席だけ取っておいてくれるかな?」
とだけ伝えて部屋の中に留まり、ライノの方へと歩み寄った。
「あの、ライノさ――」
「出来たわよ」
彼女が声を掛けると、白い羽を持つ男性は満面の笑みで振り返り、出来たばかりであろう小瓶をメルへと見せると、すぐに机の上に置く……
そして彼は伸びをしたところ……
「痛っ!?」
「ライノさん!?」
急に痛みを訴え、メルが慌てて近寄ると片手を背中の方へと回している。
その様子に顔を青くしたメルは――
「せ、背中の傷開いたんじゃ!?」
「気をつけてはいたんだけどね、伸びをした時にちょっとやっちゃったみたい、大丈夫酷い様なら後で医者に診てもらうわ」
ライノは後でと告げるものの、メルは窓の外に広がる暗闇を見てもう店仕舞いをしているのでは? と思うとすぐに彼の背中へとまわる。
するとそこには赤い液体が服にじわりと染み出てきているのが分かり……急いだ方が良いと気づいた彼女は置いてあった自身の鞄の中から小瓶を取り出した。
「ライノさん、上脱いでください!」
「あら、積極的ね?」
「へ? い、いやそうじゃなくて! 違、違くてですね!?」
一瞬固まったメルだったが、ライノがふざけて言った言葉に対しそんな場合じゃないと少し怒ったのだろう尻尾をぴんと立たせた。
しかし、相手は怪我人だと自身に言い聞かせると――
「えと、その……と、とにかく傷の手当てをしないと!!」
慌てつつも、その事を伝えたのだが……
「ふふふ……」
当の本人は楽しそうに笑っている。
「な、何を笑ってるんですか!? って、もしかしてから――」
「ええ、ごめんね……お願いするわ」
やはりからかわれていたんだと言う事に確信を得たメルは尻尾を立てたまま無言で男性の後ろに立っていたが……
「メルちゃん?」
「え、あ……はい!」
名を呼ばれはっとするとメルは包帯を解いて、傷口へと目を向ける。
一応はカロンで手当てしてもらったんだろう、彼女が初めて見た時ほどではなくても、やはり酷い傷だ。
小瓶から薬を取り出し、傷口へ塗り込んで行く中、一つ思いついた事があった。
どうせこのイアーナに数日は泊まる事になるならば、多少の魔力は使っても問題は無いだろうと言う事だ。
「我が友の傷を癒せ……」
「……メルちゃん、何をして……」
突然聞こえた詠唱に驚いたのだろう、ライノは戸惑った声を上げるが――
「ヒーリング」
メルがそのまま魔法の名を唱えると右手の魔紋は淡い光を放ち続け、手のひらにも灯った光を傷へと当てる。
「……なにか暖かいわね、これって昼間に言ってた?」
「はい、とは言ってもちょっとしか治せないので明日ちゃんと診てもらってくださいね?」
治療……いや、応急手当てをしながらメルはライノにそう伝えると……
「ええ、そうするわ」
「約束ですよ」
ライノが激しく動いていたと言う事はないが戦闘をしているのは間違いない。ここまで傷が開かなかったのは奇跡だった。
だが、傷が治らない限りまた何時何処で開くか、分からない。
メルは出来る限りこの治療をした方が良いだろうと考えつつ魔法が切れない様注意する。
そんな時だ。
「メル! それにライノの旦那! 遅い――」
勢いよく扉が開けられたので、思わずびっくりしつつもメルはそちらの方へと向くと――
そこには姉の姿があり……
「シュレム?」
「メ、メ…………」
彼女はメルを指差しているが、その指は震えていた。
なぜ指を指されているか分からないメルは首を傾げるも……
「メルが汚されたぁぁあああ!!」
「はい!? 変な事言わないでよ!!」
シュレムの口から紡がれた叫びは勘違いであり、当然メルは声を上げた。
「テメェ、はなっからメルを!!」
「あのね……私はメルちゃんに治療してもらってただけよ? それに変な事はしないわよ」
「へ……? 治療? メルが襲われてるんじゃなくて?」
シュレムの変な言葉にメルは何処をどう見たら、これを襲われてるように見えるんだろう? と呆れ果てつつも、リラーグでの誘拐事件の犯人を思い出してしまい、気分が悪くなりつつも治療をし続ける。
「傷が開いちゃったみたいだから、応急手当! それに襲われてるって……なんでそんな発想に」
「何だってっきり、オレのメルがリアスに続く悪漢の手に堕ちたかと」
「違うし、リアスも悪漢なんかじゃないよ! 十分優しいと思うけど?」
何故か嫌な気分になったメルはぶっきらぼうにそう口にし……それを聞いた姉はその表情を崩す。
「メ、メル……そんな……」
「…………」
悲しそうにする姉に対し、メルは尻尾を立てぷいっとそっぽを向くと手をかざす先から「ふふ」っと言う笑い声が洩れる。
ライノさんもライノさんだ。何で悪漢呼ばわりされて笑ってるのかな? っと彼女が疑問を浮かべていると――
「全く遅いと思ったら、お前は何してるんだシュレム……」
「声、店の方まで聞こえてたよ?」
リアスとエスイルも部屋に戻ってきたようだった。
「だってメルが――!!」
「私の所為になっちゃうの!?」
メルがそう口にすると、ふと視界にはの男性は背を丸めている姿が見え……嫌な予感がした彼女は慌てて声を掛ける。
「ライノさん!? 大丈夫ですか!!」
だが……
「いえ、騒がしい一行ねって思ってね? 旅の中、退屈はしなさそうね」
メルの不安を余所に体を起こしたライノは笑いつつそう口にする。
そんな彼の姿を見てメルはほっと胸を撫で下ろし……傷を確認する。
「傷も少し塞がったみたいですし、今日は終わりです」
そう彼に告げ、包帯を巻き始めた。




