最終話 納得なんてしない
エスイルと別れ、数日。
メル達が力の供給源であるエルフを倒した事……デゼルトが駆けつけてくれたことにより闇の精霊オプスは無事倒された。
リラーグへと帰るためそのデゼルトと合流したのだが……メル達には心残りがあり、野宿をしていたのだ。
「エスイル……エスイル……」
血の繋がらない弟の名を呼びながら泣き続けるメル。
そう、この地から去れないのはエスイルが居ないからだ。
「連れて帰るぞ、何を言っても……」
そう言うリアスだったが、メルは首を縦に振れなかった。
メルと同じ悩みを持ち苦しんだのちに出した答えだと分かっていたからだ。
だが……。
「メルは良いのか?」
「――良くないよ!!」
シュレムの言葉にメルは叫ぶ。
するとシュレムは――。
「なら、やる事決まってるだろ?」
「……え?」
エスイルは自分で残ると言った。
しかし、それでもメル達は納得できない。
いや、メル達だけではない……。
そして、人を殺めたと言ったがそれはエスイル本人の所為ではなく、エルフのしたことだ。
それは言い訳にしかならないだろうが、彼のお蔭で助かった命があるのは変わりがない。
「…………やる事?」
「ああ、あの馬鹿を目覚まさせる! だから……行こう! リラーグに!!」
『ぐるるるる……』
シュレムの言葉に反応した声はメルを心配して傍にいたデゼルトだ。
「どうやら、デゼルトもシュレムの言葉に賛成みたいだな?」
「リラーグに行ってどうするの? エスイルはここに居るんだよ?」
「そうね、此処から連れ出したいんでしょ?」
シュレムとリアスは理解しているみたいだが、メルとライノはどうやら分からないみたいだ。
何故そうなったのか?
それは二人が相談していたからでもあった。
「実はな、シュレムと話してたんだけどさ、メルは家族が好きだろ?」
「……うん」
メルはリアスの言葉に頷く……。
そして、シュレムは続く様に会話へと入る。
「だけどさ、ユーリさんとかフィーナさんってメルには意外と怖いじゃんか! クルムさんはどうなんだろうな? 優しいけどエスイルにはどうなんだろうな?」
「え? クルムさん?」
メルはエスイルの母の事を思い浮かべる。
優しそうな笑顔しか分からないが、それはメルが見ただけの話だ。
「オレのお袋や親父もメルには優しいけど怖いぞー!」
確かにシュレムの両親は優しいが子供には厳しい一面もある。
とはいえ、メルもシアには怒られたことがあったが……それは家族として接してくれているからだろうと理解していた。
そう、親は優しくも怖いのだ……。
「……リラーグに行くってまさか!」
「ああ、連れてくる!」
そう言ってデゼルトへと指を向けたシュレムは……。
「だけど行くのはメルだ、オレ達は此処からエスイルが移動しないか見張って置く!! まぁ、無いとは思うけど一応な」
「…………うん!」
メルは微かに見えた希望に頷き、デゼルトの背へ乗り込んだ。
「絶対クルムさん連れてくるからね!!」
そして仲間達にそう言うとデゼルトの首を撫で――。
「リラーグに急いで!!」
その地から旅立ったのだった。
メルがリラーグへと降り立つと街は大騒ぎになっていた。
それはそうだろう行方不明になっていた街の平和を守る龍が戻って来たかと思ったらその背から現れたのはエルフの使者の子だ。
メルはそんな騒ぎの中、駆け抜けクルムの家へと目指す。
エルフの力があって今は迷わずに済み……外の騒ぎを聞き気になったのだろう家の外へと出てきたクルムの手を掴むと――。
「え? メルちゃん!? え? え?」
息も絶え絶えの少女は彼女の顔を見て――告げる。
「一緒に来てエスイルを叱って!」
「え? エスイルを? どうしたの?」
クルムは突然の事に困惑しながらも息子の話だと分かると耳を傾けた。
「実はエスイルを助ける事は出来たの、でも人を傷つけたから戻ってこないって……エスイル頑張ったんだよ……頑張って抵抗してフォーグの人を助けたのに、人を殺したって……」
「…………そう、人を殺めてしまったんだね?」
クルムは悲しそうな瞳でメルを見る。
だが、メルは首を横にふり……。
「確かにそれは悪い事……だけど、でもそれでも……エスイルはフォーグを守るためにやった事なの! それに帰ってこないって皆を傷つける事だって思うから……」
メルの必死の訴えに彼女は頷き……。
「メルちゃんは裁きを受けたよね?」
クルムの言葉に今度はメルが頷く……すると彼女は微笑み。
「そっか、エスイルは皆に何を言われるのかが怖くて……逃げてるんだね? それじゃ怒らないといけないね?」
と口にし……。
「分かった、行こうか?」
メルの手を強く握り返すのだった。
メルとクルムは街の中を駆け抜け、デゼルトの元へと向かう。
すると門兵がメル達を止めようとするもデゼルトによって威嚇をされ、すくんでしまった。
いくら街を守る龍とは言えどデゼルトは脅威でもある。
「ごめんなさい!」
そんなドラゴンに威嚇をされた門番へと謝るとメルはデゼルトの背に乗りクルムも乗せた。
「い、意外と高いね?」
彼女は起き上がったデゼルトの高さに驚くとメルへとしっかりと抱きつく。
子供と大人。
その所為で抱きかかえているようにも見えるが、そんな事は関係ない。
重要なのはただ、クルムを連れてルーフに行く事だ。
「デゼルト! 皆が待ってるところまで飛んで!!」
メルの掛け声で空へと舞った龍は咆哮を上げ、ルーフの地を目指す……。
そして……仲間達のいる場所へと辿り着いた頃には真っ暗になっていた……。
空を自在に舞うデゼルトですら時間がかかってしまったようだ。
「お待たせ……!」
メルはデゼルトの背から降りると仲間達へとそう告げる。
仲間たちは笑みを浮かべ――。
「連れてきたんだな……」
クルムの方へと目を向け、その場にいる全員で頷くと……メルはゆっくりと口にした。
「村に行こう!」
メル達はクルムを連れ、再び村へと訪れる。
「これは……皆様何の御用で? おや、クルムじゃないか……手紙はここには届かないからな連絡も取れず心配したが……無事でなによりだ」
「お久しぶりです……その、息子がここに居ると聞いて」
事情を知っている男性はメル達を見て、何故来たのかを理解したのだろう。
「そう言う事か、クルムはあの子の親なのか……なら親子で話すと良い……正直私達では心の傷は埋めてやれない」
彼は微笑み、メル達をエスイルの元へと案内する。
そして、小さな小屋の前まで来るとクルムへ中に入るように促しメル達はその場で待つことにしたのだった。
それから数年後。
メルは実家である龍に抱かれる太陽に居た。
あの時クルムとエスイルの間で何を話されたのかは分からない。
だが、今の彼女にとって重要なのはそれではなく……。
「それで、今回の依頼は? 急ぎなんだよね?」
「そうだね、丁度良い時に戻って来てくれて助かるよ……その依頼がこれだよ」
メルが手渡された羊皮紙に書かれた依頼は土砂崩れで大怪我を負った人がいるとの事だ。
一応手当はしているが、状況が良くないとのことでそれを治す医者を連れて来てほしいという事だが、事故が起きてからすでに数日たっている。
……どう考えても普通の医療では助からないだろう。
「ユーリママ向けだと思うけど……丁度依頼で居ないね?」
傷を治すのは母の専売特許だ。
と言っていたのは数年前の事だ……。
「ああ、だから帰って来てそうそう悪いけど、君達に行ってきてほしいんだ」
「分かったすぐに行くよ!」
メルは頷き、仲間達の元へと駆け寄る。
そこに居るのは嘗て一緒に旅をした仲間だ。
「ライノさん、薬を用意して、私だとママ程早くは回復できないから」
「それなら今回使わなかったもので大丈夫よ?」
微笑むライノに感謝をしつつメルは頷きシュレムの方へと向く……。
「シュレムは一応ナトゥーリッターを持って行って……土砂崩れだからまた起きるかもしれないし、根を張れば防げると思うの」
「ああ! 分かった! 良く分からないけど」
他人が聞けば不安な言葉であるそれもメル達にとっては頼りがいのある言葉だ。
「リアス、ここ迄何日かかるかな?」
「険しい道なら一日半って所か……安全な道なら三日以上だな、デゼルトは今他の冒険者を運んでるからどうしても歩きだ」
うーんと唸りながら地図を見るリアスは最早メルにとって居てはならない存在だった。
そしてもう一人……。
「でも早く行った方が良いんだよね? 魔物は避けれるように精霊達に頼んでおくよ……それにしても僕が家に帰ってる間にもう依頼受けてたんだね? 置いて行く気だったの? 酷いな、メルお姉ちゃんは……」
少年は微笑み、メル達の傍に寄ると冗談を口にした。
「もう! またそんな冗談を言うんだから……置いて行く訳ないよ」
メルはあれから少し生意気になったエスイルへと目を向け笑うと……揃った仲間へと目を向けた。
「じゃぁ、行ってきます!!」
嘗て、冒険者を目指していた少女は本当冒険者になって良いのかを旅の途中で考えた。
そして、自分がなりたいものを理解し……今その場所に立っている。
今も昔も変わらず同じ仲間と一緒に……。




