466話 救えた者と救えなかった者
「…………」
それは人を切った時の感触とは全く違うものだった。
まるで腐った果実にナイフを入れたような物だ。
心臓からは土色の液体が流れ出て……。
エルフの顔は硬直しその場に崩れる。
まだ油断はできない。
誰もがそう思っているとエルフの身体は光となって消えていく……。
そして、彼女が消えるのと同時に彫像は塵となって崩れて行った。
「おわった……の?」
メルはアクアリムを振り払い鞘へと納めながらそう口にした。
辺りを見回してもエルフの姿は何処にもない。
「……この奥にエスイルが居るんだよね?」
そして、扉へと向かい歩き始めた。
「メル……」
リアスに呼び止められ、メルはまた道を間違ったのか? と困った様な笑みを浮かべた。
しかし――。
「良く道が分かったな」
「本当だ珍しい、明日は槍が降るかもな」
リアスとシュレムが驚いており、メルはもまた驚いていた。
筋金入りの方向音痴だったはずだ。
だが、今は何故かそっちが正解だと分かる。
そっか……ここはエルフの祠……。
私はエルフと同化したから道が分かるんだ……。
不思議な感覚だった。
自分である事は分かる。
しかし、今までと違い道の違いが分かるようになったのだ。
「とにかく急ごう?」
だが、恥ずかしい事には変わりがなく、メルは顔を真っ赤にすると仲間達を促した。
「あらあら、可愛いわね」
「ライノさん!!」
茶化すライノの名を叫びぷっくりと頬を膨らませたメルは溜息をつくと扉へと手をかけた。
「早く、エスイルを助けてドラゴン退治しないといけないんだからね?」
「ええ、そうだったわね」
そう言ったメルは扉を開け、中の様子をうかがう。
そこには空を見上げる少年の姿があった。
「エスイル!!」
彼はメルの声に反応すらせず手を高く上げていた。
その手には一本の剣……真っ白で刃も丸い、何かを傷つける事すらできなさそうなそれはアーティファクトなのだろうか?
恐らくはその場所に安置されていたのだろう白い剣を天高く掲げた彼は――。
「…………」
ゆっくりとメル達へと振り返ると以前と変わらない笑みを浮かべる。
「もう大丈夫だよ、メルお姉ちゃん」
そして、そういうと……。
「今、光の精霊に頼んでオプスを倒しに行ってもらってる……だから、もう大丈夫」
どうやら彼の持つそれは光の武器らしい。
だが、メルは光の精霊なんて聞いた事が無かった……。
するとエスイルは微笑み……。
「デゼルトが行ってくれたんだ!」
「デゼルト?」
それはメルの故郷であるリラーグに居る太陽の龍の名だ。
「そっか……でも、何で分かったの?」
メルはエスイルへと質問をする。
すると……。
「メルお姉ちゃんと一緒だよ、僕はあの子と同調してた……だから、何が起きたかは分かってる」
エスイルはそう言うと悲しそうな表情を浮かべ……。
「僕、やらないと……精霊を助けないと……その後は僕ここに残るよ」
「何を言ってるの? 助けるのは当然だけど、残る必要は……」
「そうだぜ、エスイル、クルムさんも待ってる!」
メルとシュレムは彼の言っていることが分からなかった。
だからこそ一緒に帰るべきだ。
そう考えたのだが……。
「駄目だよ、僕はもう人を殺したんだ……」
「でも、それはフォーグ地方の人を助ける為だろ? 奴らは戦争じゃなく略奪をしてきたんだ……エスイルが気を病む事じゃない」
リアスの言う通り、エスイルの所為ではない。
だが、少年にとっては人を殺してしまったことが心を痛めているのだろう。
「僕は此処に残る、お母さんには会えなくなっちゃうけど……僕は……」
「それで良いの? 良い訳ないでしょう? 人を殺める事は良くない事よ? でもね……」
メルはライノの言葉を遮るよに手を出しエスイルの元へと歩み寄る。
彼の気持ちが分かったからだ。
「私はそれでもママ達と一緒に居たい、だけどエスイルは違うなんて言わないよね? 本当にそれでいいの?」
だからこそメルは確認をし、エスイルはそれに答えるように首を縦に振った。
「分かった……村まで護衛するよ」
メルはがっくりと項垂れつつ、彼の願いを聞き入れるのだった。
「うん、ありがとう、メルおね……メアルリースさん」
その言葉はメルの胸を突き刺すような痛みがあった。
彼は母達だけではない。
メル達とも関係を断とうとしているのだ。
「…………」
仲間達は何か言いたげだった。
だが、それ以上は何も言えず……ただただエスイルを連れ、村へと戻るのだった。
村へと戻ったメルはエスイルへと首飾りを手渡す。
彼はそれを受け取って小さな声で「さようなら……」と口にした。
メルは何も言えず唇を噛み涙を流す。
結局助けられなかった……それだけが彼女の心残りだった。
「…………」
メル達から離れて行くエスイルを見てメルは声をかけようにもかけれず。
仲間達はメルを気遣うように傍に居てくれた。
「こんなの無いって……オレ何のためにメルを怒って……」
「ああ、納得できないよな……」
「そうよね……だれも望んでなんかいないのに」
メルと同じ想いを持つ仲間達はエスイルの答えに苛立ちを持っていた。
しかし、それを向けても意味が無い事も知っていた。
もう随分と少年の背が遠くなった時、少年の近くには人が集まって来ていた。
恐らく御子だと気が付かれたのだろう……。
少年は振り返り……メル達へと目を向ける。
「ありがとう! メルお姉ちゃん!」
それは涙声で告げられた物だった。
その声に耐える事が出来ず、メルはその場に膝をつきついには泣き始めてしまったのだった。




