463話 未来を創る者達と創られた神の戦い
闇色の剣を天に掲げたエルフはニヤリと笑う。
それが恐らくあのドラゴンに化けた精霊の武器なのだろう。
『後悔すると良い……』
そう言うと剣からは黒い雲が溢れ出た。
やがてそれは形を取り……ドラゴンの姿へと変わっていく……。
『闇夜の精霊オプス……それがこの者の名前だ』
現れた精霊は感情など持たないかのような瞳で、顎を開きメル達を威嚇する。
それに対し、メル達はそれぞれの武器を構えた。
「皆、好都合だよ、ここでエルフに勝てばきっとエスイルを助けられる!!」
メルがそう言うとそれは仲間達の士気にも繋がったのだろう。
彼らはメルを守る様に前へと立った。
「え? ええ?」
戸惑うメルだが、それに対しリアスが振り向き答えた。
「相手は精霊だ……エルフの力が必要かもしれない。メルはなるべく観察をしてくれ、冷静に……な?」
彼は笑みを浮かべてそう言った。
対しメルは彼の言葉で昔の事を思い出していた。
そう、それは旅の始まりの時の事だ。
メルは旅をした事が無いただの町娘だった。
それは確かに裕福な家に生まれたと言って良いだろう。
だが、冒険者に憧れる普通の子供だったのだ。
しかし、彼女は判断を見誤り、人を殺すことになってしまった。
殺めたことに苦悩する彼女だったが、リアスと一緒に旅立ち、そこでも判断を見誤っていた。
原因は焦ってしまった事や冷静ではなかっただけだ。
「…………うん!」
だが、今は違う。
彼女はこの旅を通して冒険者となった。
今はただの見習いだ。
しかし、実力だけではなく経験も兼ねそろえたのだ。
「シュレム! お願いね?」
「……おうっ!!」
この頃、反応がおかしいシュレム……。
彼女はメルの姉でメルを溺愛していた。
そんな彼女はリアスとの対立で行方知れずになってしまった。
敵に掴まり、窮地に陥った彼女を救ったのはメルとエスイル……そしてライノだ。
彼女は反省し幾分マシな判断をするようにはなった。
そして今、彼女もまた自分の意思でエルフへと立ち向かっていた。
「ライノの旦那、援護は頼んだぞ……っ!」
「ええ、任せて頂戴?」
この中で唯一精霊の武具を身に着けていない天族の青年はメガネを直し、その瞳を鋭く光らせる。
彼は口調こそは女であり、一見変に見えるのだが、そうではない。
一行の唯一の大人として助言などをし、メル達を支えてくれたのだ。
それだけではなく彼の持つ薬師としての腕は何度となくメル達を助けてくれた。
本来ならば彼は戦いには向いていない。
だが、逃げるという選択は彼の中にはない様だ。
「さぁ、リアスちゃん?」
「ああ、メル!! 頼んだぞ!!」
旅の始まりの少年はメルへともう一度声をかけた。
初めて出会った時、彼はメルに泥棒と間違われてしまい大事な首飾りを奪われた。
当然彼女を恨み怒っていたのだが……。
しかし、彼はそれでも騙されていた彼女の事を心配し駆けつけたのだ。
その所為で自身が死にかける事になるとは思わなかったようだが……。
代わりに彼はかけがえのないものを手に入れた。
「……お願い皆、危なくなったら下がって、魔法で治すから!!」
メルがそう言った直後だ。
エルフがニヤリと笑ったのは……その笑みに絶対的な自信があるのだと悟ったメル達は思わず武器を構え直した。
しかし、エルフは不敵な笑みを浮かべたまま闇色のドラゴンへと手を添えた。
一体なにをしようとしているのか?
『さぁ……時は来た、選ばれた子達よ……お前達はここに居ればいい』
彼女がそう言うとドラゴンは消え……メル達は消えたドラゴンを探し始める。
だが、何処にもいない。
あのドラゴンは精霊だ。
リアス達が見れなくなるのは分かるがメルにさえ見ることが出来なくなってしまったのだ。
「ドラゴンは? メル!!」
だが、それを知らないリアスはメルへと問う。
しかし、メルは首を振り……。
「どこにもいない! この部屋の中にはどこにも!!」
と答える。
そう、見当たらないのだ……どんなに探しても見当たらない。
陰に潜むことはあるだろう。
だが、ドラゴンとなった精霊が影そのものになる事は無い。
そんな事は不可能なのだ。
『何故精霊はドラゴンになるか分かるか?』
「え?」
メルは彼女の言葉に耳を貸す……。
すると彼女は目を細めて笑う。
『人々は得体のしれない物に怯え恐れる。そして最も恐れる姿を現したのがドラゴンだ……奴らは人間を滅ぼすためにその力を使う』
「……え?」
メルにはなにを言っているか分からなかった。
『最初の龍……光の精霊を元に他の精霊は作られた……それを見た人間はその力に畏怖を抱いた。だから、姿形は違う精霊たちは身を守るために本来の力を取り戻すと人が恐れる形になる……何時しか魔物共の中にはドラゴンを模した偽物も生まれたが……ね』
最初の龍についてはメルも知っていた。
デゼルトの事だ。
その龍はエルフに作られた存在で太陽の龍とも呼ばれている。
母達の話を聞いていた彼女はその太陽の龍が最初に生まれたというのは知っていた。
しかし、デゼルトは普段からドラゴンの姿をしており、魔物のそれとはどう違うのかは知らなかった。
「ドラゴンは人の恐れる形?」
メルは……彼女の言葉を繰り返し思い浮かべた。
そして、気が付いたのだ。
後悔すると良いと言いつつここに居るメル達には一切危害を加えようとしていないエルフ。
そして、かつて自分を守ってくれたシレーヌが姿を変えたドラゴン。
本来水の精霊であるシレーヌが確かに普通の精霊を圧倒するドラゴンと言ってもいい力を持ち、また人々に恐怖を与えた。
「まさか……見えないんじゃなくて……ここに居ない?」
メルは呆然としつつも呟く。
そして、仲間達がそれを聞きけげんな表情を浮かべると……エルフはまるでその答えを肯定するかのように表情を歪めた。




