460話 消えた神
メルはそれからしばらく自分を抱きしめるようにしていた。
その理由は勿論、エルフの事が気がかりだったからだ……。
だが、落ち込む彼女を攻める声は一つもなく……。
メルはその事に唯々疑問を浮かべた。
何故自分は責められないのだろう?
メルがそう思い顔を上げるといつの間にか人が集まって来ていた様だ。
「エルフ様の事でしたら気にしないでください」
「……え?」
村人の一人にそんな事を言われメルは思わず驚いてしまった。
それもそうだろう。
気にしないでと言われるとは思わなかったのだ。
寧ろエルフを殺したと責められてもおかしくはない。
そう思っていた。
いくらこの村に居るのが精霊と意志疎通が出来る森族だけだとしても……。
そう言われて当然だと考えていたのだ。
「何度も何度も話をしていただきました」
「もう、エルフ様はお休みになるのだと聞きました……」
彼らは口々にそう言い……。
「我々は精霊を生み出す義を受け継ぐことは約束しました……ですが、もう一つ……」
「エルフ様のご加護無くとも強く生きるようにと約束したのです……」
その顔には不安の色が強く出ていた。
だが、同時に強い意志も感じられ……。
「神子よ、貴女に何かを思わないか? と言われれば思う。だけど、それはエルフ様の最初で最後の願いだ」
彼らはだからこそなのだろう……何も言わずただただじっとメルを見つめた。
「さぁ、我々はどうすればいい?」
「どうすればって……」
メルは迷った。
いきなり言われてこうしてください何て言える訳が無い。
だが、暫く迷った後に何故自分に指示を仰ぐのかが気になった。
「メルの願いを聞き入れろ何て言われたのか?」
リアスは村人へとそう告げると彼らは首を横に振る。
ならなぜ彼女に指示を仰ぐのか?
そこが分からずリアスもまた首を傾げた。
すると、その中の一人……青年は一歩前へと出てきた。
彼はメル達を見回しゆっくりと口を開く……。
「エルフ様の願いはその少女に溶け消える事を許せと言うものだった。だが……ご尊命なら、きっと神子を助ける為に何かをしていただろう……」
「私達はそれを話し合い、代わりに引き受ける事にした……」
「「それが、我々自身が決めた最初のやるべき事だ」」
バラバラに紡がれたその言葉……。
だが、メル達にとってこれほどありがたい事は無かった。
とはいえ……。
「エスイルを探すにはヒューエンスを探らないと……」
奴隷よりもひどい扱いを受けるあの街に村の人を送る訳にはいかない。
メルはそう考え、彼らに告げようとした……。
「エスイルとはもう一人の神子の事か?」
「……え? う、うん」
メルは彼らの言葉に頷く……すると彼らは考え込み。
「ならばエルフ様の祠に居られるのでは?」
「そうだな、それが一番だろう」
と話始めた。
聞いた事も無い名前の祠にメル達は期待を寄せ尋ねた。
「その……エルフの祠って?」
「その昔、もう一人のエルフ様が目覚めた所と言われている」
「ん? もう一人? もう一人ってあのエルフか?」
シュレムはそう言い村人へと近づく。
すると村人は彼女をじっと見つめ頷いた。
「そうだ、エルフ様が止めなければならないと考えているエルフ様だ」
「エルフがエルフを止めるややこしい話だな!」
頭を抱えるシュレムだったが、それに対しメルは告げる。
「もうエルフは一人しかいないよ……」
そう、すでにエルフはメルの体の中に取り込まれてしまった。
そして、メル自身は何の変りも無い。
メルの言う通り、エルフと名乗る者はこの世にもうたった一人しかいないのだ。
「そうだな、そのエルフの祠って何処にあるんだ?」
「行くつもりなのですか? ですが、あいつは闇の精霊を……」
それは以前見たことがある龍の姿をしている精霊だろう。
だが、引く訳にはいかない。
「それでも行くのよ、あの子を助ける為に」
ライノはそう口にし……メルもまたしっかりと立ちあがると。
「どこにあるのか教えてください」
と願いを告げる。
すると村人たちは少し迷うそぶりを見せたが……。
「分かった、なら教えよう、だが……最近人間が討伐体をそろえてると聞く、なるべく急いだ方が良い」
「………………はい」
メルはあの街の人々の事を思い出し頷く。
きっと彼らなら何の容赦もなくエスイルを殺すだろう。
例え子供だとしても森族である以上、人権は無くても良いのだから……。
だからこそ、メルは尚の事急いだ方が良いと考えた。
「エルフ様の祠の場所ですが……」
妙になまった男性はそう言うと古臭い地図を取り出し、メル達へと見せてくれた。
「ここがこの村。そしてこっちがヒューエンス」
そこにはもともと街が無かったのだろう、街は記されておらず真新しい字が書きこまれていた。
やはり最近できたというのは本当なのだろう。
「この山の間……ここに祠がある」
彼はそう言うとメル達を見つめ……。
「本当に今行くのですかい? もう一人のエルフ様はきっと闇の精霊を使って街を襲撃する、手薄になってから攻めて行った方がいいんじゃぁ?」
「そんなの駄目だよ! だから、行ってきます!!」
メルは村人に一言告げると歩き始め……。
「えっと、メル? 出発するなら道は確認したほうが良いよな? オレ達の誰かが」
と不安がるシュレムに目を向け……。
自身の地図を取り出すとリアスへと預ける。
「お願い……」
そして項垂れ尻尾と耳を垂らすのだった。




