452話 ヒューエンスへ
「さて、どうする?」
横たわる少女を見てすぐにリアスはメルの方へと目を向けた。
答えなどもう決まっている。
そう言いたそうな瞳を見てメルは頷く……。
「勿論、このままにはできないよ」
置いて行くなんて事は出来ない。
メルはそう思い彼女の近くへと寄ると膝をつく……。
だが、連れて行きたいとは思っても連れて歩くには体力が足りなさそうだ。
「えっと……」
だからこそ、彼女に声をかけづらかった。
すると青年がメルと同じように膝をつき……。
「君は自由だ、行くところは?」
そう優しい声をかける。
すると森族の少女は顔を上げ首を横に振った。
「…………」
何かを訴えようと口を動かす少女だったが、声は聞こえなかった。
なぜ何も言わないのか?
メルは疑問を思い浮かべたが、青年は悲しそうな顔を浮かべると……。
「そうか、ひどい目に遭ったんだね」
そう言って彼はメルの方へと目を向ける。
そして、彼女の仲間であるリアス達へと視線を向けた。
「君達は見た所、旅をしているんだろ? この子の事は俺達に任せてくれるか?」
彼はそういうと少女を抱え立ちあがる。
そして、リアスへと目を向け……。
「君は良い人だな、大金を積まれても仲間を決して売らなかった。当然の事だけど、それが出来る人は多いとは言えない……その思いは忘れないようにな」
そう言うと少女を連れ、男は去って行く……。
「だ、大丈夫……かな?」
「分からないが、俺達の旅に連れて行くのは無理、だよな……」
「そうだよね、何が起きるか分からないからね」
連れて行くのは危険だ。
それは十分に分かっていた事だ。
だからこそ、メル達は街の入口へと向け再び歩き始めた。
「いこう……!」
「ああ、行こうエスイルが待ってる!!」
シュレムはそう言うと先を歩き始め、メル達は慌てて彼女の後を追うのだった。
メル達は街の外へと出ると大きな山を目印にし、歩き出す。
先程船長に言われた通りだ……。
このまま真っ直ぐに北へと向かっていけば目的の街であるヒューエンスに着けるだろう。
「問題は……」
メルはそう言って立ち止まる。
そう、例え辿り着けても問題があるのだ。
メル達は今、港町から出てきた。
船長が言うには他種族にもまだ寛大な街のはずだった。
しかし、それでも他種族の少女は売り物にされており、誰も助けてくれる気配も無かった……。
そう、あの青年を除いては……。
「街の中に入れるかな?」
だからこそ、メルはそう呟いたのだ。
無事、街に辿り着けたとしてヒューエンスと言う街は自分達を受け入れてくれるのか?
いや、それは無理だろう。
ならばどうする?
「ヒューエンスか……なかなか、偏った考えを持つ街……だよな」
リアスもまた考え込み。
シュレムはじっと黙っていた。
そんな中、一人ライノは――。
「私達が二人の奴隷って事で入るのはどうかしら?」
その言葉にリアスは更に考え込む。
「そうだな、それが一番かもしれない。だけど問題がある」
そう、まだ問題はあるのだ。
奴隷、一言でそう言って信じてもらえるなら良い。
「何か証明するものを見せろって言われたら……」
メルはそこまで口にし、がっくりと項垂れた。
他種族に厳しい国だ。
もしかしたら、そう言われる事があるかもしれない。
「そ、そうだぜ旦那……そうなったらオレ達……」
証明する手段が無い。
シュレムはその言葉を飲み込んだ。
するとライノは……。
「首輪よ、首輪……さっきの街では皆していたでしょう? あれを錬金術で作るわ、それを身に着ければ……」
「証明になるかもしれないって事? でも……」
首輪なんて付けたくない。
メルはそう言おうとしたが、すぐにエスイルの顔が浮かびその言葉を詰まらせる。
「エスイルを助ける為……」
そして、そう呟くとライノの方へと目を向けた。
エルフに操られているエスイルは街の中にいようが居まいが関係ないだろう。
どういった理由があり、ヒューエンスへと向かっているのかは分からない……。
そんな事を言うほどメルは無知ではない。
恐らくは人を滅ぼすために向かっているのだ。
だからこそ、内でも外で構わない。
だが、まだ意識は残っているはずだ。
そうであればむやみやたらに人を傷つける事に抵抗するかもしれない。
そして、捕まっていればきっと城かどこかに幽閉されている可能性もある。
そう思ったメルは……。
「分かった……」
そう答える。
するとその言葉に反応したのはシュレムだ。
彼女は複雑そうな表情を浮かべ……メルを見つめる。
「良いのか?」
そんな彼女の代弁とでも言うのだろうか? リアスはメルへと優しい目を向けていた。
「争わずに済むならそれで良いよ、それに情報を集めないといけないし」
「そうか、そうだな……エスイルが居るって言うのもまだ確信できるわけじゃないからな」
リアスは頷き、メルの考えを肯定した。
メル達は街の中へと入る算段を出し……再びヒューエンスへと向かって歩き出すのだった。




