451話 森族の少女
予想外の事にメルはその場で固まってしまっていた。
確かにヒューエンスと言う国がある大陸だ。
だが、船長達はその影響が少ない港へと船をつけてくれた。
だというのに、そこにさえ他種族を否定する者達が多く居たのだ。
自分よりも小さな子。
そんな子に否定をされたメルは固まってしまい。
「近寄るな!! 汚い獣!!」
と怒鳴りつけられてしまい、思わずびくりと身体を震わせると尻尾を丸める。
メルはリアスに引っ張られ、乱暴に立ち上がらさせられるとそのまま引っ張られていく……。
「私……私……」
「何も言うな、何も……とにかく、行こう」
がっくりと項垂れたまま、メルは彼の言葉に答える事も出来ずに進む。
彼女はたった今否定をされた。
だが、その否定は初めて受けたものだ。
ましてや、子供に否定されてしまった事でメルは――。
私は……獣?
汚い……獣?
なんで、この街の人は誰も……助けてくれないの?
その心に深い傷を負った。
そんな時だ。
メルは俯いていた所為で誰かにぶつかった。
転びこそしなかったが、彼女は恐る恐ると顔を上げる。
するとそこには首輪をした少女が居た。
「…………」
メルとは違う髪の色。
メルよりも少し年が上であろう少女の瞳は濁っており、身体中に傷の跡があった。
それだけではない。
水浴びさえさせてもらえないのか、身体が汚れており臭っていた。
身にまとう服もボロボロでその姿は奴隷……。
と言えばまだましだったかもしれない。
彼女は何も捕らえていないだろう瞳でメルの方へと目を向け――。
「あー……あぅ」
言葉にならない言葉を発する。
「何してる!! さっさと来い!!」
金属の音が響き、彼女の首に着けられた首輪が引っ張られると少女は当然その場に倒れてしまった。
「っ!?」
見ていられない。
そう思ってしまったメルは思わず目を背け……後悔した。
「ぅぅ!? ふぐっ……ぅぇ……ぇ……」
転んだ時に身体を痛めたのだろう、彼女は泣き始め、その場で動けなくなってしまったのだ。
「あ、ああ?」
「酷いわね……」
メルはそれに気が付き、呆然としライノは唇をかむ。
すると彼女の首輪から繋がれた鎖を持っていた男は少女へと近づくと……。
「何だ骨が折れたのか、ったく! これから大事な……」
彼はそう言うと見下すような瞳で少女を見下ろした。
そして、メルへと目をつけるとすぐにリアスの方へと向き……。
「なぁ、アンタ、それは商品か? だったら言い値で買ってやる。大事な商談があってな、あちらは子供が好きなんだ。それだけ身なりが綺麗ならすぐに使えるからな、どうだ?」
その言葉はよく理解できなかった。
子供が好きな相手……使える。
人である森族をまるで物の様に言う男……。
そんな彼に対し、リアスは当然……。
「メルは商品じゃない、仲間だ……」
そう言うと男を睨む。
すると男は信じられない者を見るような目でリアスを見ていた。
彼はすぐに笑うと……。
「ああ、なるほど、アンタの奴隷って訳か」
勝手な解釈をし始めた。
話しても無駄だ、そう思ったのだろうリアスは何も言わずメルの手を引っ張り歩き始めた。
「お、おい! 嘘じゃない、言い値で払う……! 金持ちの所に売るんだ……金貨300枚でも良いぞ!」
彼はそう言いリアスの肩へと手を乗せた。
「言ってんだろ? メルは売り物じゃないって!!」
すると今度はシュレムがそう言い、彼をリアスから引き剥がす。
今度こそ、信じられないことが起きたとようやく理解した男は……。
「お前さん達、何言ってるんだ? 獣だぞ? 確かに人の形をしてる。だから好き物には売れる。だが、人の形をした玩具に過ぎない」
何故か諭すように言う男の言葉を聞き、メルは愕然とした。
彼女だけではない。
街行く冒険者風の者達の中にはいら立ちを隠す事無く彼を睨む者が居た。
彼らの仲間にも森族や天族が居たのだ。
「良いか? 見てくれば良ければそいつを男に売れる。そうすれば襲われる女性が減る! こんなに良い事があるんだぞ?」
「…………言っている意味が分からねぇな」
そう口にしたのはメル達の誰かではなかった。
近づいてきたのは大柄の男性。
彼はメルの母フィーナの様に大きな剣を携え、男に近づく……。
「そんな理由でそこの嬢ちゃんを傷つけ、そっちの嬢ちゃんも傷つけるのか? 何がヒューエンスだ。完成された国だ……」
彼は明らかに起こった風だったが、彼に何を告げても無駄だという事は十分承知していたのだろう。
「そいつらは仲間を売るような屑じゃねぇ……諦めて目の前から失せな」
「部外者は黙っていろ、私はこの少年に掛け合ってるんだ」
男は引く気などないらしく、その瞳をリアスへと向ける。
だが――。
「答えは一緒だ……メル達を売るつもりはない。何度も言うが仲間だ」
そう言い切った彼にこめかみをひくつかせた男は……。
「そうじゃないだろう? 分かった金貨600枚は出そう……私の儲けは殆ど無くなるが、一生贅沢な暮らしが出来る。どうだ?」
「……いくら積まれても金貨にメル本人以上の価値があるとは思えないな」
そんな事を目の前で言われメルは思わず顔を真っ赤にし顔を俯ける。
さらには垂れた耳を更に垂らし、尻尾はぶんぶんと左右に振られていた。
こんな状況なのに……リアスは一体なにを言ってるの!?
そう思いつつも、この大陸では人扱いされない事に悲しい気持ちも彼女の中にあった。
しかし、商人もその言葉を聞き――。
「そうか! それならもう良い! お前とは取引はしない! ったく、とんだ損だ!!」
そう怒鳴ると、彼は奴隷を睨みつけその場から去って行ってしまった。
「連れて行かないのか?」
商人だというのに商品だという少女を置いて行く彼に対し皮肉を込めた言葉をリアスは使ったのだが……。
彼は答えずその場から去るのだった。




