447話 食糧問題
航海は続く……。
兵士を乗せていたのはたったの数日。
だが、彼らを餓死させる訳にはいかない。
食事はさせていた……。
つまり、この問題に行きつくのは時間の問題だった……。
「食料がねぇ」
船長は船の乗組員とメル達を集めそう口にした。
「正しくはルーフには着ける。だが、このままじゃ何かあった時に足りねぇ」
「そんな、俺は嫌だぜ? 量を減らすなんざ!」
「馬鹿言えこちとら力仕事だ! 減らした分仕事が出来なくなる!!」
彼らは口々にそう言い、メルはおずおずと手を上げる。
「それなら、私達の分を……」
減らしても良い。
そう口にしようとした時すごい勢いで彼女の方へと乗組員たちは顔を向け。
「ひゃい!?」
メルは変な声をあげてしまった。
「とんでもねぇ! お嬢ちゃんは命の恩人だ!」
「その仲間も食事の制限なんてする必要ねぇ!!」
「いや、そう言ってもらえるのは嬉しいが……他に減らす所があるのか?」
どうやら、メル達が食事の量を減らすのは納得がいかないらしい彼らに対しリアスは呆れたように口にする。
すると、船長は豪快に笑い。
「なに! 保存がきく食いもんはある。つまり二、三日分の食いもんを繋げればいいってだけだ」
「はぁ? だから、その分を減らすってメルが言ってるんだろ?」
シュレムは船に乗った当初とは違い少し柔らかい雰囲気になっていた。
その事にほっとしつつもメルは船長の方へと向き直りこくこくと頷く。
すると……。
「だから皆を集めたんだ」
「って事は船長やるのか?」
「おっ! いつものあれだな!!」
船乗りたちは一様にはしゃぎはじめ、メル達は揃って首を傾げた。
船の中は異様な雰囲気にのまれていたのだ。
すると船長はニヤリと笑い……。
「おう! 釣りだ……これからの三日間それぞれ一番釣った奴には港に着いた時に酒をおごってやる! 一杯なんてけち臭いもんじゃねぇ! 酔いつぶれるまでだ!!」
「「「オオオオオオオオオオオオ!!!」」」
雄たけびが船に響き、メルは思わず身を縮こませた。
だが、彼らが食料が足りないこの状況を悲観せず楽しんでいるのは伝わり、メルは困惑する。
確かに魚が連れれば食事の事は解決する。
だが、それには餌が居る訳で……例えば芋などの長期保存の効くものを使う可能性だってある。
下手すれば今よりももっと状況が悪くなる可能性だってあるのだ。
なのにどうして? そう思っていると……。
「じゃぁ、お嬢ちゃん達には飯をおごるって事で良いか? 天族の旦那さんは酒でも良いだろうけどよ」
「勿論だ! と言う訳で頼んだぞ?」
そう言ってメルに箱のような物を渡してくる船長。
メルは首を傾げながら中身を確認すると――。
「『――っ!? ひ!? きゃぁぁぁああああ!?』」
シレーヌと共に悲鳴を上げる。
そう、その中に居たのは虫だかつて、リアス達を救うため向かった洞窟に居た大ムカデの小さい物に似ているが、ぶよぶよとしていた。
だが、問題はそこではない。
無数の足を持った長い虫は何匹もその中に居たのだ……。
「む、むむむむ!?」
『うぞぞぞぞぞです! もう嫌です! メル、見ないでください!!』
「なんだい、嬢ちゃんは虫が苦手か?」
けらけらと笑う船乗り。
それを見てリアスは溜息をつくと箱をメルの手から取り上げる。
「なら、俺がやる……こう言うのは慣れてるしな」
「リ、リリリリアス? 虫だよ!? 虫を食べた魚を食べるんだよ!?」
当然のことをメルは確認するように言うが、リアスは何を言っているんだ? とでも言いたげな顔をした……。
「虫そのものを食べる訳じゃないぞ?」
「食べる場合もあるわね、それに薬にだってできるし……その虫は魚が好む味みたいよ?」
リアスの話にライノがそう割り込みメルは立て付けの悪い扉の様に首を動かす。
「わ、私ご飯我慢する……」
虫を食べる魚を食べることに抵抗が出来たのか、メルはそんな事を口にするが……。
「いや、食べろって魚は、な?」
リアスに釘を刺され、迷いつつも首を縦に振る。
「ぅぅ……」
「釣りは俺がやるから、メルは……休んでてくれ」
そう言うリアスを見て、再び首を縦に振りかけるが……今度は横に振り……。
「一緒に居る」
と言うのだった。
釣りを始めてすぐの事だ。
メルはリアスが慣れた手つきで虫を掴むと表情を変えた。
「うわぁ……」
『メル!? だから見ないでください!? うぞぞぞぞぞはもう嫌なんです!』
「いや、じっと見なくて良いんだぞ?」
リアスは困ったように笑いながらそう言うと針に虫を付け、メルは思わず目を逸らした。
なんか、かわいそうに見えてきた……。
メルはそう思いつつも、チラチラと見ては見なければ良かったと後悔する。
当然、それは精霊達も見る事になり……。
『メ、メル、メル!! 見ないで、見ないでください!!』
と嫌がるシレーヌと……。
『へぇ……うわぁ! すごい……』
と何かに感心している様子のアリア。
二人はそれぞれ違った反応を見せていた。
「そ、それで釣れるの?」
メルは2人の様子には気が付いており、興味津々なアリアには悪いと思ってはいたが、明後日の方へと目を向けるとそうリアスに尋ねた。
「ああ、少し切ってるからな……この匂いで近づいてくる」
「ぅぅ……」
虫を切っていたのはメルも知っていた。
いや、切るというより千切ったという方が良いだろう。
思い出すと気持ち悪くなったメルは口元を押さえるのだった。




