437話 船の確保
「……体調が思わしくないようだ。ちゃんと休んだらどうだい?」
トサの傍に仕えていた男はメル達にそう提案した。
しかし、メルは首を振る。
「駄目です、あの子は待ってるから休むなら船の上でちゃんと休みます」
赤い目を逸らすことなくメルはそう言うとシュレムの方へと目を向けた。
彼女はメルと目を合わせようとしないが、先程の異変は気になっているようだ。
「お、おい、メル……無茶は……」
リアスも彼女を心配するのだが、メルはゆっくりと首を横に振る。
「無茶はしないよ、だけど……」
エスイルが心配だから……そう言いたかった彼女だが、その言葉は飲み込んだ。
その理由はシュレムの事もある。
安易に心配だと言っても信じてもらえないだろう。
そう思ったからこそ、行動に起こすべきだと彼女は考え直したのだ。
「お願い、シュレム……力が必要なの、だから、手を貸して」
「………………」
メルの言葉にシュレムは何も答えない。
不安になった彼女がもう一度口を開こうとした時。
彼女は――。
「……オレは弟を助けるだけだ。行き先が同じ、それだけだからな!!」
「……うん」
なぜ急に彼女が怒りだしたのかはまだ分からなかった。
だが、これだけは分かっていた。
シュレムはエスイルを見捨てるような人ではない。
そして、同時にメルの事を怒っても見捨てはしないだろう。
なのに、私はさっきあんなことを考えた……。
あの声が関係あるの? それともあれが私の本心?
メルは複雑な気持ちになりつつも、ゆっくりと顔を上げる。
そして……再び町長トサの方へと目を向けると……。
「船は出ませんか? お願いできないんですか?」
「…………どうしても行くのか?」
彼の言葉にメルは力強く頷く。
他の選択などする必要はない。
そう言うかのように彼女は真っ直ぐに見つめた。
「…………分かった」
「トサ様!?」
彼の言葉に驚いたのは男性だ。
彼はメルとトサを交互に見て――。
「き、危険です!! 噂に聞くユーリ様達ならともかく、この子達は子供ですよ!?」
「あら、アタシは大人よ?」
「一人だけでしょう!?」
彼の言葉に空かさず突込みを入れたライノだったが、それは火に油を注ぐ様な物だったらしい。
「しかも天族冒険者の天族なんて聞いた事がありません!! いくら大人と言えどひ弱な種族では危険です!!」
「仲間を弱いと決めつけないでくれ」
それに対してはリアスが文句を言う。
彼は男を睨み――。
「これまでも彼のお蔭で助かったことが何度もあった。それにひ弱と言うなら普通の森族だってそうじゃないのか?」
「な、なんだと!! 貴様……我々を侮辱しているのか!!」
リアスの発言に怒った彼に対しリアスは溜息をつく。
するとメルが大慌てで謝ろうと立ち上がるのだが……。
「辞めないか……お前は彼を侮辱した……これでおあいこと言う事だろう」
トサはそう言うとメルへと目を向けた。
「船は用意する……人もだ。だが、安全は約束できない」
「はい、分かってます」
メルはそう言うと頭を下げ……。
「ありがとうございます」
と礼を告げた。
「話は聞いていたな? 手配を頼む」
「は、はい!」
トサは男にそう言うと命を受けた彼が部屋から去るまで見つめた。
そして、メル達にその視線を移す。
「本当に行くんだな?」
「はい……」
何度確認されようがメルの意志が変わる事は無く……彼もそれを悟ったのだろう、深く溜息をついた後に口を開いた。
「それでは、何度も呼び止めては申し訳ない。そろそろ話は切り上げよう」
彼はそう言って立ちあがる。
メル達もまたつられるように立ち上がり、シュレム以外頭を下げた。
「失礼します」
メルがそう言って部屋から出ると……。
すでにシュレムは先に出ていたらしく歩き始めていく……。
「待ってっ!」
メルが思わず口にすると……彼女はぴたりと止まるがすぐにまた歩き始めた。
「あ……」
待ってくれない。
その事実だけがメルを悲しませた。
だが、リアスはそんな彼女に対し……。
「話を聞かないって訳じゃなさそうだ。ただ……どう接したら良いのか分かってないだけだ。その内元に戻る」
安心させようとしてくれているのだろう。
そう言ってくれた。
「うん……」
だが、メルは気が気ではない。
少し前、それでエスイルを攫われてしまったからだ。
だからこそ、彼女は……。
今度こそ、そんな事にならないようにしないと……絶対にこれ以上、皆を失わないために……。
そう誓いを立てるのだった。
「チッ!!」
少年は髙い屋根の上で地上を見下ろすかのようにし、舌打ちをした。
「……まぁ、良い……御子は既に一人手に入っている」
彼はそう言うとその場から立ち去ろうとするが、立ち止まった。
「なんの用だ?」
「もう、止めにしませんか?」
女性に問われ、少年は考えるそぶりも無く答えた。
「これがお前の望んだ事だろう?」
「…………っ」
その言葉に彼女は声を出せず。
ただただ、少年が去るのを見ている事しか出来なかった。
「もう、時間はありません……早く」
そして、祈るように呟くのだった。




