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435話 ヒューエンスという国

 黙り込んでしまった二人を見てライノとリアスは溜息をつく。

 メルはその目から大粒の涙を流し、膝の上でこぶしを握る。

 一方シュレムは頬を膨らませ、腕を組むとそっぽを向いてしまった。


「どうしたもんかな……」


 リアスが思わずつぶやいた時、扉が開き、入ってきたのは先程の男性。

 トサだ。

 彼はメル達を見て困惑しつつも席へと座る。

 そして――。


「そ、それで何しにこの街へ?」


 彼は現状は自分ではどうにもできないと判断したのだろう。

 リアスへ向けそう尋ねる。

 リアスはリアスでメルへと目を向けるのだが、今のメルが話せる状況ではないと察すると彼女の代わりに口にした。


「ルーフに向かいたいんだ。船を出してほしい」

「ルーフ!? あのような場所に何故? あそこには帝国名乗る新国ヒューエンスがあるのだ、すでに知っているかもしれんが……」


 彼はそう言うと、メルとライノへと目を向ける。

 そして――。


「お二人は大丈夫でしょう、だが……ユーリ様のご息女とそちらの天族(パラモネ)の方には大変危険な国になっておる」

「つまり、どういう事だ?」


 リアスは首を傾げ、彼に問うと彼は髭を触りゆっくりと語りだした。


「彼らは自分達こそが世界の頂点だと言いはり、魔族(ヒューマン)以外を化け物と呼んでいてな……」


 そこまで聞いてメルはハッとした。


「もしかして、それで人が襲われて……」


 涙声で呟かれた言葉にトサは頷く。


「その通りですな、奴らは他種族を化け物と呼ぶ割りには自身たちが化け物同然の事をしておる……」


 それを聞きメルは妙に納得した。

 普通、国通しの戦いであればそれなりの準備が必要だ。

 ましてや相手の国に攻め入るという事前の連絡も大切なのだ。

 何故か? それは簡単だ。

 攻め入り、奪うのは準備さえ整っていれば連絡などしなくても出来る。

 だが、そこには無力な民が居り、その民は新たな国でも戦い以外で活躍するだろう。

 しかし、連絡がされなければその民さえ守ることが出来ない。

 だからこそ、国王同士、戦争を承諾してから戦いを始める。

 お互いの民の為だ……。

 奪うだけであれば盗賊のそれと何ら変わりはない。


 だが、ルーフの国ヒューエンスには国への通達はされていなかっただろう。

 突然現れ、突然攻めてきたのだ。

 だからこそ、トサは化け物と呼んだのだろう。


 そして、エスイル……。

 いや、エルフがその国を標的にしたのは恐らく……。


「精霊を殺す何かがある? だから、まず最初に選ばれた?」


 これまでのエスイルの行動。

 それは不思議だった。

 エスイルについているエルフは世界を終わらせるのが目的。

 だが、レライの時は王や民をすぐに殺せただろうにそれをしていない。

 彼の意志が残っていてもそれは難しいはずなのにだ。


「…………」


 メルは話をする中、やはり姉の事が気になったのだろう、話を聞き黙っているシュレムの方へと目を向ける。

 だが、シュレムは以前明後日の方へと目を向けていた。


 メルはその事にやはりショックを受けるが、ゆっくりとトサの方へと目を向ける。

 涙を流したままの少女は――。


「とにかく私達はそこに行かなきゃいけないんです」


 と口にした。

 だが、トサは溜息をつくと……。


「そうはいっても船がな」


 そう言われてしまってはメルはがっくりとせざるを得ない。

 船が無い。

 彼はそう言いたいのだろう……。


 実際、そんな危険な街がある国へ誰が行こうと思うのだろうか?

 少なくともフォーグ地方には森族(フォーレ)が多い。

 それなのにルーフへと向かう船があるのなら、それは自殺行為ともいえるだろう。


「どうにかして渡る方法はないのかしら?」


 だが、行かないという選択肢が無い。

 ライノはトサに問うと彼は困ったような表情を浮かべた。


「何故そこまで、ルーフにこだわる? 危険だと言っているだろう?」

「それでもいかなきゃいけない理由が俺達にはあるんだ」


 リアスもまた食いつき、困った様子のトサは尻尾をゆっくりと動かした。


「……分かった、王とロク様が世話になったんだ私の方でなんとかしよう……」

「本当、ですか?」


 メルは彼へと目を向けると、彼は力強く頷いてくれた。

 その事にほっとしつつ、メルは――。


 大丈夫なのかな? だって……危険な事には変わりがないのに。


 と考えたが、他にルーフに向かう手段も無い。

 メルはただ彼の対応に感謝するのだった。


「今までエスイルの事をほったらかしだったのに急に行かなきゃいけないのかよ」


 そんな時だ。

 その言葉が発せられたのは……。


「精霊の道具だが何だかしらないけどさ、こんなもんがエスイルの為になるのかよ?」

「……え?」


 それはメルには予想外の言葉だった。

 メル自身を疑うなら良い。

 だが、エスイルを救う手段だと言われた精霊の武器を疑い始めたのだ。


「精霊達を目覚めさせてその……」


 だが、メルには当然どうやって救うのかは分からない。

 答えに困ってしまった彼女を見て……。


「エルフに言われたから、そうやって信じてきたんだろ? それじゃもう片方のエルフと変わらないんじゃないか?」

「そ、それは……」


 何の疑いも無くエルフを信じた。

 だからこそ、メルは何も言えなかったのだ。

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