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434話 不安からの苛立ち

 トサと名乗っ男性は長い髭を生やしていた。

 彼はそれを撫でるとメル達に笑みを浮かべる。


「さて、立ち話もなんですからどうぞこちらに……」


 トサはそう言うとメル達を案内するように先程の兵士コギルへと顎で指示を送る。

 コギルは納得いかない様子ではあったが、トサの指示を無視する理由も無いのだろう。


「ついて来て良い、ただし……まぁ、君達なら変な事はしないだろう」


 先程の忠告を素直に聞いた事が彼にとっての評価につながったのだろう。

 警戒はされつつも、どうやら信用はしてくれる様だ。


「あの……」


 メル達はただ船に乗りに来ただけだ。

 それを伝えようとメルはコギルへと言おうとしたのだが……。


「何をしているんだ? 早く来なさい」


 何処かロクと同じ雰囲気を纏わせる老人トサについて行く事になった。


「……おい、メル良いのかよ……」


 当然シュレムは彼らを警戒しているみたいだ。

 いくらメルの母達がエルフの使者と呼ばれる人物でこの国の王を救ったとしてもメル個人には何の恩も感じていないだろう。

 だが、彼らのメルに対する態度はリラーグでの物と似ていた。


「悪い人達じゃないよ、ついて行っても問題は無いと思う」

「そうだな、何か俺達を騙そうとしているって言う感じはしない」


 リアスが微笑みながらそう言うとメルも頷く。

 互いに目が合うと顔を赤らめそっぽを向いてしまったのだが……。

 そんな様子を見てシュレムは一人胸に手を置いた。


「寂しいの?」


 ライノが彼女へと話しかけると彼女は首を横に振る。


「何でもない」


 ただただそれだけを口にし、それは当然メルの耳に入っており……。


「どうしたの? シュレム……寂しいとかって……」

「何でもない!!」


 今度は強く言われメルは思わず尻尾を丸めてしまう。

 しかし、いつものシュレムならそこで謝ってくれるはずだった。

 なのに彼女は先を急ぐようにメルの横を通り過ぎてしまう。


「ど、どうしたんだ? メルに声を荒げるなんてそうそうないのに……」

「う、うん……」


 ライノの時は彼女が怒る理由も分かった。

 だが、今はなぜ起こったのか分からなかった二人は首を傾げる。


「ほら、置いて行かれちゃうわよ? シュレムちゃんもメルちゃんの事が嫌いになったとかじゃないから」


 そう言われてメルは寂しそうな表情を浮かべると彼女達の後を追う。

 街の中は港町らしく新鮮な魚介が並んでいたり、釣り道具を取り扱う店が彼女の目に映るが、それよりもメルはシュレムが気になりすぐに彼女の背へと目を向ける。


「メル……」

「シュレムに何か悪い事しちゃったかな……」


 リアスに慰められるように頭を撫でられたメルは耳と尻尾を垂らしながらそう口にした。

 だが、それはリアスにも分からない事だ。

 その事はメルも分かっていた。

 だが、メルは助けを求めるようにリアスを見上げる。


「……きっと、虫の居所が悪かっただけだよ」

「そう、かな……」


 彼の答えにメルは「そう、だよね」と呟きつつやはり彼女の事が気になり、シュレムの背を今度は涙目へと変え見つめるのだった。

 だが、メルはそう言いつつも不安が消えなかった……。

 以前、エスイルが居なくなった時も同じだったからだ。


 あの時も私の所為でエスイルが不機嫌になって……。

 それでエスイルが一人で行動しちゃって、居なくなっちゃった……。


 そう思うとメルは涙が止まらなかった。

 今度はシュレムが居なくなるのではないか? そう思ってしまったからだ。

 

 そんな彼女の様子に気が付く事も無いシュレムはただ、トサの後をついて行き……。

 メルはその後ろをリアスに支えられながら歩く……。


 メルがシュレムに気が付かれたのは町長の屋敷についてからだ。

 だが、シュレムは謝る事は無く、居所が悪そうに視線を逸らすだけだった。

 それも普段はあまりない事でメルの心を傷つける。

 だが、メルもメルで文句は言えなかった。

 自分が悪い、そう思っていたからだ。

 だからこそメルは顔を伏せ村長の屋敷の中へと足を踏み入れた。

 どんな外見だったかは分からない。

 入ってからも内装をあまり見る事は無かった。

 リアスが居るから道には迷う必要はなかったのだ。


「…………」


 途中途中少しだけ顔を上げると心配そうにトサがメルの方へと目を向けたが、特に気にする事も無く彼女はついて行く……。

 通された部屋でメルははじっこの椅子を選びちょこんと座るとシュレムはわざわざ遠い席へと座った。

 周りの大人から見ればただの子供の喧嘩の様に思えただろう。

 事実、声を荒げたと言ってもたった一言だ。

 だが、メル達にとっては違った。


「では、少し準備をしてくる。待ってもらえるか?」


 そう言い残しトサたちが去った部屋でシュレムはメルを睨んで居た。


「なぁ……」


 そして、口を開くと――。

 メルは怯えた目で彼女を見る。

 単純に怖かった……居なくなってしまうのが……。

 だが、それを口にすることも怖くて言えなかったのだ。


「…………なんだよ、何でそんな目で見るんだよ」


 しかし、メルの行動は逆効果でシュレムは苛立ったような態度をとる。


「そんなにオレが怖いのかよ!! エスイルが居なくなって、助けるって言いながらこんな所まで来て!! ライノの旦那も死にかけたんだぞ!!」

「シュレム……止めろ、エスイルは何処にいるか分からない、それにライノも助かった」


 声を荒げるシュレムに対し、それをたしなめるよう優しく言うリアス。

 だが、そんな彼に対してもシュレムは――。


「ああ、そうだなだけど、エスイルが不安だってのにへらへらしてていいのかよ!!」

「へ、へらへらなんて……」


 メルは身に覚えのない事に対し、そう口にするが――シュレムはそれを聞き、顔を赤くする。

 するとライノが立ちあがり……。


「いい加減にしなさい、二人共……どっちも不安に押しつぶされそうなんだから、ここで何を言い合っても何も解決しないわよ」


 とライノは口にするのだった。

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