432話 炎の精霊
メルはその場で精霊フラニスを目覚めさせる準備を始めた。
準備と言ってもナウラメギルに居る彼女達に頼むだけだ。
「……それで、詠唱は?」
事情を一通り話し終えたメルはフラニスに問う。
『分かった! 詠唱は炎の精霊よ、我願うは大いなる大地の炎の力……我らを邪なるものから守る力を与えん、我が願いを聞く精霊よ、今ここに炎の王の力を示せ、だぞ!』
フラニスの言葉に頷いたメルはリアスと目を合わせると頷く。
彼は精霊の言葉が聞こえないがそれでメルの準備が終わったことを悟ったのだろう。
ナウラメギルを手にメルへと近づいた。
「行くよ……炎の精霊よ、我願うは大いなる大地の炎の力……我らを邪なるものから守る力を与えん、我が願いを聞く精霊よ、今ここに炎の王の力を示せ!!」
そして、メルは詠唱を唱え、目の前に炎の柱を生み出す。
それは今までの彼女の魔法とは比較にならない物だ。
「うわわ!?」
メルは慌てて魔法を解くとすぐに精霊フラニスの方へと目を向ける。
するとそこには幼くなった精霊が居り……。
やっぱり、精霊の道具を使うと小さくなるんだ。
そう確信した彼女は草花の精霊の方へと目を向ける。
そこにはまだ小さい草花の精霊が炎に怯えている様子が見て取れた。
「あ!? ご、ごめんね、ティエラ怖かったよね」
メルは慌てて彼女の方へと駆け寄り、謝罪をする。
すると草花の精霊はティエラというのは自分の名前だと理解したのだろう。
一瞬固まったがすぐに涙目で頬を膨らませるのだった。
「なぁ、メル身体は大丈夫なのか?」
そう問うのはシュレムだ。
見ればリアスやライノも心配そうな顔を浮かべていた。
メルは自身の身体に残る魔力を探り、答える。
「うん、大分魔力は減ってるけど動けない程じゃないよ」
そう言うと仲間達はほっとした様子だったが……。
今はライノさんの方が心配だと思うけど……。
メルは心の中でそう呟くのだった。
それから暫くし、メル達は旅立ちの準備を始める。
レライの港町を使いルーフへと向かうつもりだ。
「それじゃ、行こうっ!」
メルはそう言うと前を歩くのだが、途中不安になって仲間達の方へと振り返る。
すると案の定呆れた様子の仲間達がそこには居り……。
「あははは……こっちだったね?」
「そっちじゃない、こっちだ……」
リアスに注意をされた彼女は尻尾を丸めトボトボと彼らの後をついて行った。
ぅぅ……この迷子になる癖どうにかならないのかな?
そう心の中で呟いた所で曾祖母から受け継がれたそれはそう簡単に治る事は無いだろうと考えた彼女は更に耳を垂らすのだった。
レライの港町。
メルは初めて行く場所だが、どんな場所であるかは知っていた。
その街の名はデゼルト。
そう、リラーグに居るメルの母の龍と同じ名だ。
「そう言えば、偶然……なのか? その、港町の名前」
咆哮を確認する為に地図を見ていたリアスはメルへとそれを見せ尋ねる。
メルはそれには首を振り答えた。
「偶然じゃないよ、そこはロク爺が名前を付けた場所だから」
「レライにデゼルトが最初に現れた場所なんだよな!」
するとシュレムが胸を張りそう口にし、メルは頷く。
そう、その街は元は名すらない集落だった。
だが、その集落にユーリ達がデゼルトを連れ現れた。
それから、そのユーリ達に命を救われたレライ王は彼らに近しい物だったロクが居たその村を発展させたのだ。
「そうなのか……」
だが、メルはその街に行くのが楽しみであったが、同時に不安でもあった。
何故ならレライにはルーフの騎士達が居る。
港町も襲撃されていないか不安だったのだ。
そうじゃなくても、レライが落ちた事は知ってるはず。
そうなれば当然、悪い人も出て来るよね?
王が不在と言う訳ではないが、今は彼がどうこう出来る訳ではない。
メルはそう思い、不安を募らせると……知らず知らずの内に尻尾を丸めてしまう。
するとリアスが彼女の頭を撫で……。
「リ、リアス?」
「大丈夫だ、な?」
彼の言葉はやけに安心出来る物だった。
街が大丈夫と言う保証はない。
だが、それでもなんとかなるのではないか? そんな安心感があった。
そう、だよね……。
これまでも皆で色々乗り越えてきたんだから……。
メルはそう思いつつ彼に頭を撫でられ目を細める。
彼女は気が付いていなかったが、尻尾は左右に振られており……。
「あら、ずいぶんと嬉しそうね?」
「へ!?」
ライノの指摘にメルはようやく自分が尻尾を振っていた事に気が付いた。
彼女は慌てて止めようとするが、何故か自分の尻尾であるのに止まってくれず困惑をしてしまう。
その様子を見てくすくすと笑うライノと顔を赤らめるリアス。
メルは訴えるような瞳でリアスを見つめると彼は頬を描きながらそっぽを向いてしまった。
その態度に頬を膨らませる彼女だったが、どこか楽しそうだ。
そんな二人の様子を見て呆然とする少女が一人。
「メ、メルが……メルが……傷物にされた」
「へ、変な事言わないでよ!?」
彼女、シュレムの言葉に今度は顔を真っ赤にし尻尾を立てるのだった。




