431話 朝
翌朝、メルは目を覚ますと辺りを見回す。
どうやらいつのまにか寝てしまった様だ。
「…………」
誰かが薪をくべていてくれたのだろうか?
消えた火の跡からは暖かさを感じた。
「一体誰が?」
リアスの方へと目を向けているが、珍しく彼は寝ている。
ならばライノか? そう思ったが動けるような傷ではなく、今もシュレムと共に寝ていた。
「……フラニス?」
そう呟くが、それはありえない事だ。
精霊が自分で炎を発生させるなんて事はありえない。
何かしらのきっかけが無ければ意味が無いのだ。
そもそも薪を運ぶことが出来ないのだから……。
「…………」
メルは疑問を感じ首を傾げる。
すると――。
『もう、時間はあまりありません』
女性の声が聞こえた。
メルは慌ててそちらへと振り向くと其処には長い耳を持つ女性が居た。
彼女を知るメルは慌てて近づいた。
「エルフ? もしかして私達を――」
『貴女達は希望です……ですが、もうあの少年に時間があまりありません』
「エスイル……」
時間があまりない。
その言葉を聞きメルは妙な事だが安心した。
いや、その理由ははっきりとわかっていた。
何故なら時間があまりないという事は逆にまだ時間があるという事だ。
つまり、エスイルを助けることが出来る。
そう判断したメルは――。
「分かった……それで、何処に行けばいいの?」
『残る精霊を目覚めさせるのです……』
メルは頷く……。
残る精霊はフラニスだけだろう。
だが、それはメルが望んだ答えではない。
彼女の答えを待つとエルフはゆっくりと口を開く……。
『ルーフに……新しい王国、ヒューエンスがあります。あの子はまずそこを滅ぼすつもりでしょう』
「ヒューエンス……」
エルフの言葉通りそこは新しい国なのだろう、メルは聞いた事も無い名前だった。
だが、それに対し頷いた彼女は――。
「そこに行けばいいんだね……!」
決意を秘めた瞳でそう口にした。
恐らくはあの騎士達が居る場所だろう。
自分達の実力ではまだ叶わないかもしれない。
そう思って彼女は震えた。
それを見逃さなかったエルフは微笑み……。
『残る精霊、それを目覚めさせなさい、選ばれた者はきっとその加護を得られるでしょう』
そう口にすると消えていくのだった。
「精霊を目覚めさせる……でも、本当に私に……」
自分の力では足りていないのではないか?
メルはそう思ってしまった。
事実、今回も倒れてしまったのだ。
それさえなければライノがここまで傷つく事は無かっただろう。
そう考える彼女は……。
「ううん! 駄目だよ、弱気になっちゃ!!」
思わず自分ではない誰かに任せた方が良いのでは? と考えたがすぐにその考えを改めた。
その理由はエルフに選ばれたからではない。
世界を救いたいからではない。
彼女は――。
「エスイルが待ってる……それに、やっぱり精霊達が苦しむかもしれないのに放って置くなんて出来ないよ」
彼女が彼女自身でその答えを出した。
そして――。
「メル……今の話」
どうやらリアスは起きていた様だ。
彼はメルの傍に来てエルフのいた場所を見つめる。
「うん……エルフが居たよ」
彼女がそう言うとリアスは溜息をつく……そして――。
「今、その目覚めて居る精霊って?」
「……シレーヌにアリア、ドリアード、フアル……だから」
残る精霊はフラニスだけだ。
メルはそう考えリアスの武器であるナウラメギルへと目を向ける。
「それをやらないといけないのか? また倒れたりなんか……」
したら大変だ。
彼の言葉を予想し、遮ったメルは――。
「でも、私にしか出来ない……このままじゃエスイルがエルフに殺されちゃう……」
その肉体を奪われた少年は死を望んでいる。
それほどに苦しく辛いのだろう。
メルはそう思うと胸が締め付けられる思いだった。
だからこそ、彼女は――。
「エスイルを助けたい、最初の目的である精霊を生み出す儀式はエスイルにしか出来ない。だから――」
「……俺の目的にも通じてるって事か……分かった、だけど安全な場所で、だ」
メルは彼の言葉に頷く。
元より一人でやるつもりはなかった。
いや、むしろできないと言った方が良いだろう。
「皆が起きたらやろう、フラニスを目覚めさせて、ルーフのヒューエンスとかいう国に行かないとっ!!」
メルは先程聞いた国の名前を口にし――エルフのいた場所へと目を向けた。
嘗て母達を助けてくれたエルフ。
そんな彼女達が今、敵と味方に分かれている。
メルは複雑な気持ちになったが、それでも前を見据える。
暫くするとライノとシュレムが目を覚ました。
しかし……。
「って!? シュシュシュシュシュレムちゃん!? なんで裸なの!?」
「へ? だって人肌で温めると良いと聞いたぞ! それにちゃんと下着は履いてる」
「それは助かったけど……とにかく、貴方女の子なのよ!?」
「オレは漢だ! 全く助けてやったのにその態度は無いと思うぞ! ライノの旦那!!」
シュレムがほぼ裸でいる事に気が付いていなかった様子のライノは慌てた様に彼女に布をかぶせた。
そして、恐る恐るとメル達に目を向ける。
「えと……ごめんなさい、シュレムを止められなくて……」
メルはその事を誤るとライノは大きく溜息をついた。
「良かった知ってたのね、でも気を付けて頂戴? もし、他の人に見られたら勘違いされることだってあるのだから……」
「勘違いって何をだ?」
「貴方は早く服を着なさい!? 風邪ひいても知らないわよ!? 風邪には薬なんてないんだからね!」
息を切らしながら、声を荒げる彼を見てメルとリアスは互いに目を合わせる。
そして、微笑み合うと――。
「大丈夫そうだな」
「うん、これだけ元気なら安心だよ」
と頷き合うのだった。




