430話 夜
人肌で温めるシュレムを見つつメルはその顔を真っ赤に染め、日に薪をくべる。
「…………これもエスイルのお蔭なのか」
そんな中リアスはメルの方へと目をむけ、そんな事を呟いた。
「……え?」
メルは何の事を言っているのだろうと小首を傾げ、彼を見る。
すると彼は――。
「ライノだよ、生きてるなんて奇跡だ」
「そうだね……」
正確には死ぬ一歩手前だったと言って良いだろう。
だが、それでも彼は一命を取り留めた。
それは果たしてエスイルのお蔭なのだろうか?
メルはそうだと口にはできなかった。
回復の手段なんてない。
それこそ私達の魔法以外には……。
だから、ライノさんが助かったのは本当に運が良かっただけ……。
でもエスイルと会ったって言うのは本当だと思う。
一体、何処に居るの?
不安になり彼女は膝を抱えると其処に額を押し付ける。
耳は垂れ下がり、尻尾で一回地面を叩いた。
だが、それで不安が消える訳が無い。
メルは今はいない弟の事を思い更に不安を募らせた。
「メル……」
そんな彼女の心情を察したのだろう、リアスが傍に来たのを感じたメルはゆっくりと顔を上げる。
「大丈夫だ、きっと助けられる」
「でも、殺してって……」
メルにはその言葉が気がかりなのだ。
もうすでに弟の意識は限界なのでは? と……彼女は思ってしまった。
だが、優しい少年は首を横に振る。
「あのエスイルだぞ? 意外と頼りになる」
何の根拠があるのだろうか?
しかし、その言葉はメルにとっては妙に納得できた。
「うん……」
だが、不安が消えた訳じゃない。
メルはリアスにすがり付くように身を寄せる。
「メ、メル!?」
思わず裏返った声は聞こえたが、それでも彼女はリアスの傍から離れようとしない。
怖いのだ……。
エスイルは奪われ、ライノも死ぬところだった。
もしかしたら、リアスやシュレムもそうなるかもしれない。
そう思うだけで怖く、彼の心臓の音が聞きたかった。
とくんとくんと鳴るその音を聞くと妙に落ち着いた気がした彼女は更に身を寄せる。
完全に固まってしまったリアスに疑問は感じたがすぐにそんな事は考えなくなった。
ゆっくりと顔をあげた彼女はリアスの顔を見つめ……。
「「…………」」
見つめ合う結果になった二人の間には沈黙が流れる。
二人は顔を真っ赤にしつつ、お互いの顔を近づけ……口づけを交わした。
「大丈夫だ……きっと、なんとかなる」
それは母が良く使う言葉でもあった。
「なんとか……なる?」
母はそう言うと必ずなんとかしてくれた。
だからこそ、メルはその言葉を聞くとほっとするのだ。
しかし、それは母だからこそだ。
今その言葉を使ったのは母ではない、リアスだ。
だというのに……。
「ああ、なんとか、なるさ」
「…………」
胸の鼓動は速くなり、彼女は彼へと身を寄せる。
寄り添った彼女はリアスの心臓の音を聞きながら、自分が安堵を得ている事を感じた。
「……うん、そうだね。そう、だよね……私達がなんとかしてあげないと」
エスイルを助ける為だ。
ここで諦めたらいけない。
彼女の揺らぎかけていた思いは彼によって固められた。
一方、シュレムはその会話を聞きながらライノを温める。
「…………オレじゃ駄目、か」
小さくつぶやかれた言葉には寂しさが込められている。
彼女は震える青年を見つつ更にボソッと呟く……。
「オレは、何が出来るんだ? オレは……」
彼女は自分が何も出来ていないのではないか? と不安に思った。
何故なら戦いにおいてメルには強力な魔法がある。
自慢の盾もリアスの回避があれば問題ないだろう。
メル達に問えばきっとそんな事無い! と言われるとは分かっていた。
しかし、彼女は不安になってしまったのだ。
最初の街で自分の所為で危機に陥った。
その為、その汚名を返上する為に頑張って来た。
事実、彼女が居たからこそできた事もあるが、そんな事は彼女の頭にはなかった……。
「オレ、足手まとい……なのか?」
彼女がそう言うと――。
「……馬鹿ね、そんなこと、無いわ」
と聞きなれた声が聞こえ、彼女は顔を上げる。
すると、目こそは開けてないもののライノは声を絞る。
「……ありが……と、う……」
たった一言だった。
だが、彼女の不安を取り払うには十分すぎる物だった……。
シュレムは口を暫く開けていたが、すぐに微笑むと……。
「おう! 寝てろ」
メル達に気が疲れないような小声でライノにそう告げたのだった。
しかし、メルは狼の森族の血を引く者だ。
当然それは聞こえており、ライノが意識を取り戻したと知るとほっと胸をなでおろす。
同時に――。
あれ? もしかして……今の全部シュレムに……。
知られているのではないか? 彼女はそう不安に思い顔を赤らめるのだった。




