429話 消えかけの灯
「……あ?」
メルが彼に目を向けると其処には力尽きた様子の天族が居た。
先ほどは焦るあまり、よく見ていなかったが、改めて見てみると彼が普通ではないことにメルは気が付いた。
「あ? じゃなくて、早く治してくれ!!」
シュレムが叫び、メルの肩を掴む。
だが、メルは彼を見つめるだけで行動が出来なかった。
何故なら……。
「メル!!」
「無理だよ!!」
シュレムに彼女は怒鳴る。
するとシュレムは驚いた顔を浮かべた。
だが、メルはそれに気が付く事は無い。
何故なら彼女の方を向けなかったからだ。
「…………」
リアスは目を瞑り首を横に振る。
「なんで? なんで……無理なんだよ? だって回復魔法」
「魔法は何でもできる訳じゃないよ……死んだ人や死にゆく人は助けられない」
涙声でメルはそう言うと、地面へと目を向ける。
なんでこうなった? 何故ライノがこんな目に合っているのか……。
彼女は疑問だった。
だが、分かったことは一つある。
確かに血を流していた。
傷も見た目よりは深かっただろう。
だが、死に至るほどの傷ではない、彼がここまで弱っているのには別の原因が別にあったのだ。
変色した傷口から分かる、その理由は……。
なんで、なんで毒なんか……。
そう、ライノの羽に刺さった矢。
そこは赤く染まるだけでなく変色をしていた。
紫がかったそれは恐らく毒を使われたのだろう。
「見送ってから……弔ってやろう」
「…………」
リアスの言葉にメルは頷けない。
ただただ、悔しさで涙を流す。
もし、もう少し早く来ていてば……。
そう思っても彼女には何も出来ないのだ。
ただ……分かることがあった。
「なんでこんな事をするの?」
もし本当にルーフの騎士の仕業であれば……の話だが……。
彼らは殺す事を何とも思っていないだろう……。
そして、目的の為なら毒も使う。
騎士とは名ばかりの卑劣な者。
それが彼らの正体だと……メルは確信した。
他の者がライノを襲ったのかもしれない。
だが、それでも証拠がある以上ルーフの騎士がと言うのが有力だろう。
「許せない……」
メルはそう呟く……。
だが、一人、そんな事よりもとライノを調べる少女の姿があった。
「メル! 旦那はまだ生きてるんだ!! 早く!!」
諦めきれないのだろう、彼女は叫ぶ。
メルは首を横に振るのだが、彼女は――。
「毒が気になってるなら旦那の薬をあされば良いだろ!! まだ息はあるんだ! 助かるだろ!?」
彼女はそう言うとライノの鞄を開け……小瓶をいくつか取り出した。
「駄目だよ! もしかしたら危険な薬かも……」
「だからってあきらめられるかよ!!」
彼女はそう言いながら一冊の手記をメルへと投げつけた。
そんな姉の態度に驚きつつもメルはその手記へと目を落とす。
「…………あ」
それを見て彼女は咄嗟に本を掴み上げた。
「これ! 薬の事が書いてある!!」
そう、そこには希望があった。
たった一つのだが……もしかしたらライノを助ける為の希望。
メルはそれを見て――シュレムが取り出した小瓶一つ一つを確認していく……。
「これは火薬……、それの解毒……これじゃない、これでもない!」
メルは焦る気持ちを押さえながら、目的の小瓶を探す。
「違う、違う! これも違う!!」
「な、なぁコレはどうだ?」
メルが探している中、シュレムはライノの鞄を探り、メルが取り出さなかったそれを見せる。
「……あ」
小瓶に書いてある記号を手記で読み解くと……。
メルはその表情を明るくした。
「それ! それだよ!!」
「解毒薬があったのか! それをどうするんだ? 飲ませるのか?」
メルは急いでそれの説明を読み始めた。
「塗るみたい、だけど……毒を受けてからどのぐらい時間が経ってるのか分からないし……助かるかまでは……。
「そんなこと知るかよ! とにかく矢を抜くぞ!!」
シュレムはそう言うとライノの羽に刺さった矢を抜きこ瓶の蓋を開ける。
「待って!」
しかし、メルはそんな彼女を止めた。
するとシュレムは当然起こった様な表情を浮かべる。
「素手で塗ったりしたら危険だよ!? 私がやる」
メルはそう言うとシュレムから小瓶を受け取り、布へと染み込ませていく……。
手記にそう書いてあったのだ。
これで、安全に塗ることが出来るだろう。
後は……この薬が効いてくれれば……。
そう願いながら彼女はライノの傷を見つめ、治療を行った。
傷口を塞ぎその上からも薬を塗り込むとメル達はその場で野営の準備をし始めた。
彼をこのまま連れて行くのは得策ではないと考えたからだ。
毒を受けた身体を下手に動かせば毒が回るかもしれない。
そう思ってメル達はその場で休むことにした。
だが――。
「旦那震えてるぞ?」
「分ってるよ、だけどこれ以上火に近づけられないし、布もないよ」
メルはそう言うと困った様に耳を垂らせる。
しかし、他にどうする事も出来ない。
そう思っていると……シュレムは徐に立ち上がり、鎧を外していく……。
「どうしたの?」
彼女に尋ねると彼女は何も言わないまま服へと手をかけた。
「って、お前何してるんだ!?」
「師匠から聞いた! 人肌は暖かいってな! メルも脱げ!」
「は、はい!? ちょ、ちょっとまってそれは流石に――恥ずかしい……」
シュレムのしようとしている事が分かりメルは顔を真っ赤に染める。
すると彼女の姉は溜息をつきながらライノの服を脱がせ、布団に潜り込むのだった。




