427話 グアンナ
「く、来るぞ!?」
シュレムが叫び、メルは焦った。
相手はグアンナだ。
あの涎に触れようものならたちまち腐っていく……。
生き物だろうが、物だろうが関係ない。
「クソッタレェェェェエエエエ!!」
シュレムは答えを出せないメルを待つより、行動をした方が早いと思ったのだろう。
盾を地面へと突き立て魔力を籠めた。
当然グアンナはそれに反応をし、首を振りシュレムの方へと向かってくる。
「だ、駄目!!」
メルは思わず叫ぶがシュレムとグアンナの間には土の壁が現れた。
それを見て、シュレムはニヤリと笑い。
「これでぶち当たるだろ!!」
と言うのだが……。
「っ!? シュレム!! 下がれ!! いや、横に飛べ!!」
「は?」
リアスはすぐに気が付き彼女に告げた。
そう、土の壁にはひびが入り、今にも崩れそうなのだ。
シュレムはそれを知らずにゆっくりと振り向き、ようやく事の重大さを理解した。
そして、慌てて飛ぼうとするがもう遅い。
轟音と共に砕け散った壁、そして迫るグアンナの巨大なカラダ。
それは涎が無くとも恐ろしいものだ。
逃げ場のない彼女は盾で防ごうとしたが、それも無意味に終わるだろう。
「――っ!! 我が意に従い意思を持て!! マテリアルショット!!」
メルは咄嗟に魔法を唱える。
するとシュレムの身体は勝手に動き、同時にグアンナはメルへと狙いを定めた。
「ぁ……」
迫る巨大な牛にメルは呆けた声を出す。
魔法は使ったら駄目だ。
それは知っていたはずだった。
だが、放って置けばシュレムは死んでいただろう。
だからこそ無意識で魔法を使ってしまったのだ。
「メル!!」
リアスは叫び、自身も精霊の道具へと魔力を通わせた。
するとグアンナはすぐにリアスへと狙いを定める。
今度はリアスが!!
メルは此処の中で悲鳴を上げる。
しかし、すぐにそれを止めた……ふと疑問が浮かんだからだ。
新しい魔法の方へと向かってる?
一体なんで……?
それはグアンナの習性ではあったのだが、メル達は知らなかったのだ。
だが、それを見てメルは――。
でも、利用できるかもしれない。
そう考えた。
実際に魔法を使えるのはメルだけだ。
だが、グアンナは精霊の道具の魔法にも反応した。
つまり、それはリアスやシュレムの攻撃も魔法と判断しているという事だ。
そして――。
『ママ、なんで凍らせると腐りにくいの?』
『冷やすと菌の繁殖を減らせるんだ』
幼い頃に疑問に感じたそれは母の作った冷蔵庫と言うものに対しての質問だった。
『なんで箱に入れるの?』
『この方が冷気がこもるからだよ、これで生のものもある程度、菌の活動をより低下させられる……絶対に悪くならない訳じゃないんだけどね』
微笑みながら教えてくれた母の言葉をメルはしっかりと覚えていた。
グアンナは物を腐らせる魔物。
だから腐りにくい性質を持つ青銅の武器が苦手……。
魔法は強力でグアンナの厚い皮膚を傷つけるから苦手……だからこそ、グアンナは身を守るために魔法に反応する。
だけど……魔法に反応しても全部を見る事は出来ない。
つまり……。
「っ!! シュレム!! お願い、私の魔法の後に盾の魔法を使って!!」
メルはそう叫ぶ。
リアスでも良いと考えたのだが、今は相性が悪いのだ。
だからこそ、メルはシュレムに頼んだ。
「分かった!!」
「リアスはシュレムが危ないって思ったらナウラメギルを!!」
「ああ……!!」
リアスにもそう言うとメルはシュレムの方へと向き直る。
急がなければリアスが危ない。
大きく息を吸った彼女は――意を決して魔法を唱えた。
「氷精よ! 汝の裁きの矛を我に与えん!! ――アイスランス!!」
魔法を唱えるとメルの周りには無数の氷の槍が浮かぶ。
優しい母が考えた魔法の中では合成魔法を除けば最も攻撃的だと言えるだろう。
しかし、魔法は魔法、当然グアンナは反応し――。
「シュレム! 今っぁ!!」
メルは叫び、シュレムは盾を大地へと突き立てる。
「おおおおお!! ナトゥーリッターぁぁあああああ!!」
何故か叫びながら魔法を使う彼女に疑問は感じたが、目論見通りグアンナはメルの目の前でその身体をシュレムの方へと向けて行った。
滑稽ではあったが、ギリギリだ。
メルの近くに飛んできた涎は大地を腐らせていた。
もし、シュレムの魔法が遅れていたらと思ったらゾッとする彼女だったが……。
まだほっとは出来ない。
「お願い――――当たってぇぇぇぇぇえええ!!」
叫び氷の槍を飛ばすメル。
すると――。
「へ!? お、おい!?」
メルの狙いはシュレムだ。
当然、シュレムは驚き声を上げ、リアスも思わず駆けていく……。
だが、グアンナはメルの目論見通り魔法の射線へと入って来た。
――――当たる!!
そう彼女が確信した時。
巨牛の身体に一本の氷の槍が刺さり、その痛みで魔物は悶え――。
「お、おお……」
シュレムの声が聞こえた。
彼女を囮する形になってしまい申し訳なくは思ったが、安全だけは確保してた。
距離で言えばまだ涎が届かない位置だろう。
「メル……今のは無茶だぞ?」
「そ、そうだけど……」
リアスに怒られたメルはしゅんと身体を小さくする。
そして、魔物の方へと目を向けると足へと氷の槍と受けた魔物はそのまま倒れ――。
「まずは、止めを刺さないと……」
メルはそう口にすると右手を真っ直ぐ伸ばし……。
「氷精よ、汝の裁きの矛を我に与えん、アイスランス」
先程とは違い落ち着いた声で魔法を唱えると魔物の喉元に氷の槍を落とすのだった。




