423話 危機と救い
王の元へと行くと彼は忙しそうに仕事をしていた。
当然だ、これから魔物を退治し、新たな壁を作る……。
それだけではない、民が住める家も徐々に作っていく手配をしなければならないだろう。
だからこそ、王に休まる時は無い。
「ん? ああ、君達か」
だが、彼はメル達を見つけると微笑み、その手を止めた。
隣にはあの王宮魔術師も居り、メルがいる事に気が付くと明らかに嫌な態度を取ったが何も言う気は無さそうだ。
「あ、あの……忙しそうなので、後で……」
メルは気を使いそう口にした。
そもそも、街を出るのに彼の許可はいらないからだ。
「いや、構わない」
だが、彼のそんな言葉にメルはほっとしつつ頷くと……。
「ライノさんを探しに行こうと思います。その、助けていただきありがとうございました」
頭を下げ礼を告げた。
すると王は目を丸くし驚いているようだ。
一体どうしたというのだろうか?
メルが疑問を感じていると彼はすぐに笑みを浮かべた。
「いや、助けてもらったのはこっちの方だ」
「で、でも……」
メルは王宮魔術師の方へと目を向ける。
彼は納得いかないように眉を顰めていたが、何も反論はしてこなかった。
「その、一つ頼みたい事があるんだが」
そんなメルの前に立った少年……リアスは王へと何か言う事があるようだ。
彼の方へと目を向けた王は言葉を待つ。
「ライノがここに戻ってきたら、待つように言ってくれ」
「そんな事か、分かった……」
「ありがとうございます!」
メルは王に改めて礼を告げ、新たなレライを去るのだった……。
時は少し遡り、白い羽根を赤く染めた男性はよろよろとふらつきながら前へと進む。
その羽には無数の矢が刺さっていた。
「……参ったわね」
そう呟く顔は最早生気が抜けた様でもある。
「っぅ」
呻き声をあげながら彼は倒れ……その衝撃で更なる痛みを身体は訴える。
「居たぞ!!」
「――っ!!」
彼は誰かの声を聞きびくりと身体を震わせるともう、逃げ切れないと感じたのだろう……。
その場で動かずじっとするのだった。
メルちゃん達は……無事、かしら? 無事で……居て……。
彼はそんな時だというのに思うのは仲間達の事だった。
彼はゆっくりと目を開ける。
どうやら彼はまだ無事の様だ。
だが、何故無事だったのだろうか? 顔をあげてみると其処に一人の少年が立っていた。
彼にはその少年の見覚えがあった……。
「エスイルちゃん?」
少年の名を呼ぶと彼は振り返り……微笑む。
その姿は血塗れで……瞳の色が左右で違っていた。
彼は何も言わずその場から去ろうとし、ライノは慌てて止めようとした。
だが、間に合わない。
伸ばした手は空を切り……少年はいつの間にか彼の背後に居たのだ。
『メルお姉ちゃん……早く、僕を……』
「ええ、分かってるわメルちゃんがきっと……」
助けてくれる。
そう続けようとした彼の言葉は詰まってしまう。
何故なら――。
『――――殺して』
少年の望みは助けてではなく、殺してほしいだった。
彼はそう言うとまるでもうライノの事が見えていないかのようにその場から去って行く……。
取り残された彼は何が起きたのかを確認しようと周りを見た。
するとそこにあった光景は……。
「これを、本当に……あの子が?」
レライの跡地で見たより酷い光景だった。
殺されたルーフの騎士達は体の一部が無くなっており、遠く離れた場所に転がっている。
それならまだいい。
何処にも見当たらないどころか、頭だけ失っている者も居た。
殺してほしいと望む少年はただ純粋にライノを助けようとしてくれたのかもしれない。
だが……それはあまりにも無残で残酷な殺し方だった。
「メルちゃんの所に急がなきゃ……」
逸れてから随分と時間が経っている。
孤児院へと向かおうとした彼だったが、起きた物のまだ体力などは回復した訳ではない。
傷も痛みを訴えているので飛ぶことは難しいだろう。
よろよろと歩きながら彼は孤児院へと急ぐ……。
「急がないと、魔物が寄って来ちゃうわ……」
彼はそう言うと自分の体に鞭を打ち歩くのだった。
一方メル達はレライの野営地へと向かっていた。
ライノの事だ真っ直ぐにそっちに行ったはずだからだ。
「大丈夫かな?」
メルは思わずつぶやいた。
彼は戦いが苦手だからだ……。
早く無事を確かめたい! そう思いながらもメルは前を進めないでいた。
その理由は……。
「良いかメル、先走るなよ? 迷子になる」
リアスにそう言われたからであり、彼女が極度の方向音痴だからだ。
精霊が道を覚えていれば分る物の残念ながら覚えていないとの事だったのだ。
「わ、分かってる……」
だからメルは消え入りそうな声でそう答えるのだった。




