420話 木々の壁
連絡をしに行ったライノが居ない。
その事には不安を感じつつも、このまま何もしない訳にはいかないだろう。
彼を探しに行くとしてもレライの民達を見捨てる訳にはいかないからだ。
「まずは壁を作らなきゃ」
メルはそう言うとシュレムの持つ盾へと目を向けた。
そして、一人覚悟を決める様に頷くと――。
「草花の精霊よ、我願うは命育む草花の恵……我らを邪なるものから守る力を与えん、我が願いを聞く精霊よ、今ここに草花の王の力を示せ」
先程、ドリアードから教わった魔法を唱える。
すると、メルの目の前には姿の変わったドリアードが現れ……彼女を中心に木々は育ち始めた。
だが……。
「っ!?」
やはり、魔力は急激に失われていく……。
魔力が足りなかった。
メルはそう思いつつも懸命に魔法を維持した。
ここで自分が倒れては何人……いや、何百以上と言う命が失われるのだ。
視界が揺れ、眠気を訴える。
魔力が減っている証拠だ……だが、それに抗うようにメルは壁を作る。
すると今度は寒気がし、吐き気が彼女を襲った。
「――っぅぅ」
屑れるように大地に膝をつく。
メルが見上げるとまだ背が低い木が遠くに見えた。
足りない――。
彼女はそう思い、更に魔力を籠めようとした。
もう、限界なんてとっくに越している。
これ以上は命が持たない。
そんな事さえ頭に思い浮かばなかったのだ。
彼女の中にあったのはただただ誰かを助ける為に壁を作らなきゃいけないという意志。
『メ、メル!? もう休んだ方が……』
そして、ドリアードはそんな彼女を気遣う様に近づくが……。
『っ!? もう、駄目だって!』
最早彼女の言葉も聞こえてはいなかった。
メルはただただ魔力を籠めるだけ……。
魔力は魔族や魔物が生きる上で必要な物。
本当に枯渇をすれば死んでしまう。
だが、魔紋や魔法陣による魔法は限界を超えそうになると術者を眠らせる事でそれを防いでいた。
しかし、精霊の大精霊化……そして、その使役は違うのだ。
確かに眠気はあった。
だが、限界に近付いているからだろうか、起きていられた……だからこそ、メルは魔力を籠めることが出来たのだ。
「お、おい……メル? メル!?」
様子がおかしいメルを支えるように抱くリアス。
彼が心配するのは当然だろう。
レライの民の中にも彼女を見て、もう止めさせろと言う声も上がった。
何故なら顔は血の気が引き青くなっており……。
それだけではなく、彼女はがたがたと震え、目の焦点は合っていない。
どこか、虚空を見つめている様なのだ。
「――――」
廃人、そう言われてもおかしくない。
それでもメルは魔力を籠めていく……。
「メ、メル?」
見た事も無い光景にシュレムが困惑をする。
そんな彼女に対し、リアスとドリアードはほぼ同時に叫んだ。
「『メルから離れろ! 盾が遠くなれば魔法が切れるはず!』」
術者と媒体が離れればという、安易な発想をしたリアスだが、それは精霊であるドリアードが効果がある知っていたのだ。
精霊の声は聞こえない物の実体化した彼女の姿は見えてはいる。
その様子からシュレムははっとし、慌てた様にメルから離れていく。
だが、遅い……これでは足りないと感じたのだろう、
「この、やろぉおおおお!!」
盾を思いっきり投げる。
勿論、力自慢の彼女が投げたのだ、それなりの距離は飛び……。
シュレムは無くしてはいけないという事はちゃんと考えていたのだろう、それを追いかけて行った。
「――っ!!」
離れていく媒体の武器……するとようやくメルの魔力が放出するのが止まった。
するとドリアードはその姿をゆっくりと消していき……。
残ったのは青白い顔で倒れるメル。
そして、彼女の魔力……体力を犠牲に作られた壁だ。
「な、何が起きたんだ!?」
宮廷魔術師は現状を理解できないのだろう。
呆然とし、リアス達もまた同じように惚けてしまう。
だが、起きた事は起きた事だ。
「メル!!」
リアスははっとすると彼女へと近づき体を揺する。
だが、メルは目を覚まさない。
当然だ彼女は魔力を使い過ぎた。
しかし、普通の魔力不足の症状ではないのだ。
だが、何故そんな事が起きたのか分かる者は居ないだろう。
メルにさえ、分からない事なのだから……。
「メル!! おい、メル!!」
リアスは必死に彼女を呼び、肩をゆする。
その光景を見て、レライの民は凍り付いた。
まさか、死んだのでは? そして、その理由が自分達を守る為に壁を生み出したからだと……。
「お、おい……なんか怖くないかここに住むの」
誰かがそう言った。
それに賛同する者も居た。
「なんてことを言うのよ! あの子が助けてくれようとして頑張ったのに!」
メルを敬う者も居た。
そして……。
「何故魔術師様はあんな子供に? 酷過ぎやしないか……」
そういう声も上がるのだ。
当然だろう……彼がメルと会話をし、壁が無いと訴えたのだから。
「くっ!!」
メルを睨む宮廷魔術師。
だが、それ以上、彼が何かをする事は無かった。




