415話 治癒の魔法
盗賊たちは木々を迂回しリアス達の元へと近づいてくる。
そして、その目でしっかりと見てしまった。
「お、親父!!」
親父と呼ばれ男は脳天へと矢を受け、ゆっくりと倒れると大きな音を立てる。
彼らはリアス達を睨み、怒りを露わにした。
だが……それを見ていたメル達は崖の上から叫ぶ。
「もう、貴方達は負けだよ!」
そう言って敵を睨むメル。
しかし、彼女はもうフラフラだった……。
魔力もあと一回魔法が使えるかどうかと言った所だろう。
だが、それでもメルは立ち叫ぶ。
「子供達も解放して! そうすれば――憲兵に突き出すだけで済ませてあげる」
逃がす訳にはいかない。
メルはそう口にした。
そして、それは正しい事だ……ここで取り逃がせば盗賊達はきっとメル達の障害になる。
何故そう思うか? その理由は簡単だ。
頭を失ってなお、彼らは逃げる事をしなかった。
寧ろその怒りをリアス達に向けたのだから……。
「拘束の道具は作っておくわ」
ライノはそう言いつつルカへと何かの薬を飲ませていた。
恐らくは滋養薬だろう。
「お願いします」
メルはそう言うと今度はリユの方へと目を向けた。
どうやら目を覚ましたようだが、彼女は呆然としている。
しかし、まだ間に合う、メルはそう信じていた。
いや、信じなければどうにかなってしまいそうだった。
目の前で人が死ぬのはどんなに経験しても慣れそうにない。
「シュレム! リアス!! 捕まえて!!」
そして、メルはそう言うと仲間達に盗賊を捕まえる様に叫んだ。
彼らはメルの一言で動き、次々に盗賊を捕まえていく……。
力では敵わないと悟ったのだろう。
そして、だからと言って自分達の頭を見捨てる事も出来ないのだ。
だからこそ、彼らはメル達を睨む。
「殺してやる、こんなガキどもに親父が……」
憎しみを向けられてメルは正直いい気分ではなかった。
だが、それでも黙ってアベルの元へと向かう。
「良いか! 牢から出たら、お前を殺す……そうだな、お前が子供を産んだ時が良い、家族の目の前で辱め、家族を殺してからゆっくりとなぶり殺してやる!!」
「………………そうか、なら……その前にお前を殺しても良いんだぞ?」
一人の盗賊にそう返したのはリアスだ。
彼の目を見て盗賊は小さな悲鳴を上げた。
「メルが酷い目に合うかもしれないのにお前を生かしておく理由はない……そもそも、お前はあいつを殺された事を怒ってるが、お前らは……お前らが今までしてきたことはどうなんだ?」
どうなんだ? とは殺し奪って来たのだろう? と言う意味だろう。
当然だ……相手は盗賊、まっとうな仕事をこなしているはずがない。
「この事はレライ王にも伝える。生きて出られると良いな」
リアスが淡々とそう言うとメルを脅す男は突然くぐもった声を上げる。
「シュレム!?」
そう、シュレムが彼の腹に拳をお見舞いしたのだ。
彼は泡を吹きそのまま倒れた。
「メルに酷い事したらこんなもんじゃ済ませないぞ?」
彼女はそう言うと他の盗賊を拘束しに行く……。
メルは一部始終を見て、少し……胸が痛んだ。
例え盗賊だとしても、殺して良いはずがない……そう思ってしまったからだ。
だが、今はすべきことがある。
彼女はアベルが生きているか確認する為に胸をはだけさせた。
どうやら呼吸はしていないようだ。
次に耳を胸へと当てる。
「――っ」
微かに心臓の音が聞こえた。
その事に安堵の表情を見せるもこのままでは危険だという事は変わらない。
矢が突き刺さった場所を見ると幸い急所は外れているが、その数は多い……。
「抜かないと……!」
傷を治すには矢が邪魔だ。
だが矢を抜けば血が溢れ出る。
メルは大きく息を吸い、一本一本矢を抜いて行く……全部で5本……。
最後の矢を抜く時に彼女はもう一度大きく深呼吸をし――。
「我が友の傷を癒し、活力を与えたまえ……ヒーリング」
治癒の魔法を唱えるのだった。
だが、魔法を唱えたからと言ってすぐに治る訳ではない。
徐々に傷を塞いでいく間にも血は溢れ出ていた。
「……っ」
早く、早く治って!
メルはそう祈りながら彼の傷を癒す為に集中した。
もうすでに限界も近い、後ほんの少し魔法を維持し続ければ彼女の魔力はそこを尽きるだろう。
そうなったら最後、誰も彼を助ける手段はないのだ。
お願い……後、後もう少しだけ……。
メルはじわじわと減っていく自身の魔力に焦りを覚えた。
傷が治る速度よりずっと早いのだ。
メルはそれでも懸命に魔法を使う……。
そして――。
後、後ちょっと…………。
不意に視界がぐらりと揺れる。
「っぅ……」
魔力切れだ、これ以上使ってしまえば気絶するだろう。
だが……。
「間に、あったぁ……」
メルは安堵の声をもらす。
ギリギリではあった……。
しかし、完全には傷は治っていない……それでも傷は小さくなりちゃんと処置をすればこれ以上、血が溢れ出る事は無いだろう。
「な、何をしたの?」
リユは何時の間に降りて来ていたのだろうか? メルの後ろで驚きの声をあげていた。
メルは彼女の声を聞くと振り返り……。
「傷は、治しました……」
と微笑むのだった。




