41話 洞窟の奥にある物は
メルとウンディーネは嘗て毒草のあった洞窟の中を進む。
すると、そこには大きな虫の魔物が住み込んでいた。
メルは巨虫の魔物を切り伏せると追ってきた半身を焼き、急ぎ道具つの奥を目指すのだった……
メルは珍しくもウンディーネに文句を言われつつ洞窟中を進む。
『この世界にあんなのが居るなんて聞いてません! ぅぅ思い出しただけで何かぞぞぞぞぞって感じがします……』
「そ、それは分かる気がする……」
『………………』
「そ、そんな目で見られても」
メルはウンディーネに睨まれ、申し訳ない気持ちになりつつもそう告げる……視界を切れるなら切ってあげたいものだが、メルが精霊達の目を借りるのとは違い、貸す方はメルが何もしなくても出来る事だ。
つまり、視界共有の切り方が一切分からないのだ。
唯一分かってる事は彼女の近くに居れば、視界を共有できるって事だけであり勿論、精霊達もそれを知っている。
それでも文句を言わざる得ない位の衝撃があの魔物にあったのだろう……
『はぁ……まさかまた居るなんて事は――』
「だ、大丈夫だよ……あんなに大きいのは見た事無いし……それに聞いた事も無かったんだよ? 早々居るものでもないと思う」
『思う……ですか、メル信じますからね?』
「う、うん……期待はしないでね?」
メルがそう口にした時、彼女の瞳には不機嫌そうになったウンディーネの姿が映り、その初めて見る表情に彼女は申し訳なく感じたが……
メル自身、先ほどの虫の魔物は初めて見た物であり、決して居ないとは言い切れず……そうでなくても帰りにはあの道を通るのだと考えると彼女は気が重くなった。
「……ん?」
メルはそう思いつつも歩き続け、ため息をつきつつ地面へと目を向ける。
そこにはランタンの灯に照らされている何かがあり……
「草? だよね……」
それは地面……いや、ずっと奥の方の壁にまで広がっていた。
「我が往く道を照らせ、ルクス」
メルは一応の確認の為に魔法を唱え、その光を強めていく……もしもイラニウムという毒草だったら、光に弱いからだ。
暫く光に照らし、徐々にそれを押さえると……
『メルっ!』
と言う声が聞こえ、彼女が声の方へと視線を向けると緑色のドレスを着た精霊ドリアードが嬉しそうに彼女の元へと近寄ってきていた。
「ドリアード!」
メルが其処を見渡すとドリアードはその草の近くに沢山住んでいる様で、その様子から毒草では無い事を彼女は知りほっと息をつく。
「ねぇドリアード、ここの草って怪我や病気に効くかな?」
メルが精霊にそう尋ねると、ドリアードは表情を更に明るくし――
『うん! 人間達の言う薬草だよ』
「良かった! 少し、ここの薬草を摘ませてね?」
メルは彼女の言葉に心底ほっとしつつ、此処の住人であるドリアード達にそう告げる。
すると――
『うん、良いよ……何かあったら役に立ててね?』
「ありがとう、帰ったらすぐに役に立てるね」
メルは周りを嬉しそうに漂うドリアードの様子に微笑みつつ、感謝をした。
メルと対話する精霊は比較的好奇心が多い方だが、からかうために嘘をついたりはしない事から彼女は安堵した。
「確か……五枚だったよね」
メルはライノに言われた通りの枚数を摘むと……その様子を見ていたドリアードは首を傾げ――
『メル、もうちょっと持って行った方が良いよ?』
「でも、五枚だって言われたけど……」
『ドリアードも言っていることですし、多めに持って行った方が安心かと思います。薬を作る以上、失敗もありますから』
ウンディーネの言う事はもっともだとメルは感じつつも迷った。
そこにはドリアードが住んでいるからだ……住処を壊すほどに摘むわけではないが、それでも住少しは失われていくのは間違いの無い事であり、それは避けたかったのだが……
『ここにはいっぱいあるから大丈夫!』
ドリアードは無邪気な様子でそう答え、メルは思わずクスリと笑う。
そして彼女はクロネコに此処の事はうっかり漏らさない様にしようと誓いつつ……
「ありがとう、じゃもうちょっと貰って行くね」
……と、ドリアード達にお礼を告げる。
「よしっ!」
薬草を摘み終えたメルは其処に居るドリアード達に目を向け――
「ありがとう、皆! またどこかでね」
再びお礼を言うと、来た道を戻り始めたのだが……
『メルっそれ何に使うの?』
「薬を作ってもらうんだよ?」
どうやら一人ついて来てしまったみたいで、そんな彼女をチラチラと見ながらウンディーネは遠慮がちに話し始めた。
『あ、あの……ドリアードが居るなら私は――』
『なんで? ウンディーネも行こう?』
『いえ、その……』
ウンディーネが普段と違う様子なのは先程からなのだが、あの場所へと近づくにつれメルだけではなくドリアードにまで不審がられるほど挙動不審になっていた。
だが、その様子もすでに目に見えた曲がり角を超えた所にあるそれを思えば当然だとメルは理解していて……彼女が覚えている限りでは道は真っ直ぐであり、迷う必要すらないはずだと考えると――
「え、えっと……ドリアード、それにウンディーネもちょっとだけ離れててくれるかな? すぐに呼ぶから」
ウンディーネは勿論、ドリアードにも例え死骸だとしてもあの魔物を見せたくはないとメルは思い、二人の精霊にそう告げた。
それが彼女が考えた精霊達が観ないで済むと言う方法だった――
『きゃぁぁぁああ!?』
『……何アレ?』
――のだが、精霊である二人はメルの見ている景色から何かを見つけたらしく二人共違った声を上げる。
更に言えばウンディーネが悲鳴を上げた事でメルは嫌な予感を感じた。
しかし、そんなはずはないと心の中で叫ぶ――そう思える理由は先焦げた死体がまだ目に見えていないからだ。
いや、正確には彼女はもう半分が動いているという事を否定したかったのかもしれない。
そう思いつつも目を凝らすと、視界の端でなにかが動き入口へと向かって行ったのが見えた。
『も、もう嫌です……』
『メル、あれ何?』
「ごめん、二人共――」
メルはウンディーネは勿論、ドリアードを連れて行く気にはなれず一旦別れを告げようとした所……
『バキィッ、ゴリ、ゴリリ……』
何かが壊れるような音が鳴り響く……その音はだんだんと水気を帯びた音になっていき……
その音は案外近くから聞こえ……彼女は壁沿いに歩き、とちゅうで精霊達に目を向け――
「二人はちょっと離れてて、観えない所で良いから、ね?」
そう告げると、彼女の言葉に泣きそうな顔で頷いたウンディーネは離れて行き、ドリアードは何故か近づいて来てしまった。
「ドリアード……」
『私も観たい』
普段の景色なら喜んで見せる所だったが、来た時とは明らかに違う音に嫌な予感を感じたメルは……
「駄目、きっと後悔するから今は我慢して、後で外を見せてあげる」
申し訳なく感じつつもそうドリアードに言い聞かせる。
『……約束だよ?』
するとドリアードは余程残念だったのだろう、しょんぼりとしながら彼女から離れていく……
その表情と態度にメルは胸を締め付けられるような罪悪感を感じつつも、精霊にとってもアレは苦手な物だと言う事が分かったのだから見せる必要はないと自身に言い聞かせ……そろりそろりと前に進み奥を覗き込む。
「…………っ!?」
そこから見えたのは先ほどの虫よりは少し小さい同じ虫。
それは一心不乱になにかに抱きついている様で……いや、もしかして食べているのだろうか?
良く目を凝らし、メルは思わず口を塞いだ。
悲鳴を上げそうになったからだ……
あの虫が食べているモノ……それは――
『な、ななななななぁあああ!?』
「――ッ!? きゃぁああああ!?」
何とか抑え込んだはずの悲鳴はすぐ近くから聞こえた声に誘発されるようにメルの意志とは無関係に飛び出した。
メルが慌てて口を塞ぎ辺りを見回すと其処には植物であしらったドレスを着こんでいる少女が居て……
「ド、ドリアード!? なんで!?」
彼女が去って行ったのをメルは確認したはずだ、だからこそ覗き込んだというのに……そこにはメルが予想もしていなかった精霊が居て――
『だ、だって……気になったから……』
――メルの瞳に映るドリアードは怖かったのか目に涙を浮かべ両手で自身のスカートをギュッと掴んでいる。
先程嘘をつかないと思っていた精霊はまさか去ったふりをするという嘘をついたのか? とメルは驚いたと同時に自身の考えの甘さを悔やんだ。
精霊達はどんなに自身が望んでも外の世界を見ることが出来ない事をメルは知っていたからだ。
普段は実体化させられるしか外を見ることが出来ない彼女達――
だが、メルは違う、ただ近づくだけで精霊達の意思で景色を見ることが出来る……更に言えば見たい物があればメルに告げるだけで良いのだ。
幼い頃からそうしていたのにその事に気づかずちゃんと告げなかった事を反省した彼女は――
「とにかく、早く離れて? あれは私が何とかする――」
ドリアードにそう告げた所――
『キチキチキチ……』
先ほど聞いたような音が聞こえ、嫌な予感を感じつつ首をゆっくりと動かす……
徐々に動く視線の先には……先ほどの場所から此方に頭を向け、顎を鳴らす虫の姿が映った……
行儀が悪いのか口から先程まで齧っていた物を落とし、それは音を立て地へと落ちる。
『ひっ!?』
今だ近くに居るドリアードが小さな悲鳴を上げた理由――
それは――
「やっぱり、さっきの死体……」
メルが両断し、焼かなかった方の死体は大分齧られていて形を変え――それを食していた魔物は先ほどの巨虫と同じ様に威嚇をする……
「ぅぅ……最悪っ」
メルはそう呟くとこれならまだ、齧られていたのが動いていた方が燃やすだけで良かったのに! と心の中で叫び、アクアリムを鞘から抜き――構えた。




