411話 騎士の怒り
畑の中へと入ったリアスは慎重な足取りでなにかを調べている。
すると笑みを浮かべメル達の方へと手を振った。
「ど、どうしたの!?」
メルは彼の元へと近づいたが、畑の中へとは足を踏み入れなかった。
彼が待っててくれと言ったからだ。
きっと畑に何か証拠があるに違いない。
メルはそんな風に考えていると彼は微笑み。
「入って来て大丈夫だ、此処に綺麗な足跡がある」
そう言われメル達は目を合わせると彼の近くへと歩み寄る。
「おっと、そこだ踏まないでくれよ」
注意をされメルはその足跡を見る。
確かにきれいな足跡が残っていた。
「こんなにはっきりと残ってるなんて……」
信じられない。
事実、盗賊等は足跡がばれないように工作をする者が多い。
だが、目の前にある物は綺麗なまま残っているのだ。
「恐らく素人なんだろうな……」
彼はそう言うと、立ち上がり、今度は孤児院の周りを調べ始めた。
そして、立ち上がると真面目な顔を向け――。
「あっちだ」
指をさす。
メルは頷き彼の指す方へと歩き始めるのだが、そんな時メルの横を駆けて行く男性が一人。
「アベル!?」
リユの悲鳴のような声が聞こえ、メルは思わずびくりと肩を震わせた。
そう、アベルはリアスが指を向けた方へと一目散に走って行ったのだ。
一体どうしたというのだろうか?
「まずい、あれ怒ってるよ!?」
「そりゃ怒るだろ?」
何を当然なことを? とシュレムは言うが……リユは首を振る。
その顔は心配しているというよりは不安そうだ。
「駄目なの! アベルは怒ると周りが見えなくなる! そうなったら、捕まってる人たちも危ないよ!?」
「って、そ、そうなの!?」
メルは思わず声を張り上げてしまった。
王に信頼される騎士が、怒りで我を忘れる。
それは信頼に値するのだろうか? いや、そんなはずがない。
「問題児じゃないの!」
「怒るのが珍しいの! でも、彼は仲間や部下を傷つけられるのが嫌い…………。せめて守る部下が居ればいいんだけど、もしあの子に何かあったら、今回は――」
リユは怯えたように声を震わせる。
恐らく彼が暴れれば恐らく、今彼女の言った通り掴まっている人にも危機が及ぶという事だ。
「急がないと!」
メルはそう言うと表情を引き締め走り始めた。
だが、アベルはもうすでに遠くに行ってしまっている。
どう考えても追いつくのは無理だろう。
「アベルさん、速すぎるよ!!」
思わず悪態をついたが、アベルの装備であの速さは反則ではないか? と考える程だった。
「俺が先に行く! ライノさん、それにリユさんは足跡をちゃんと辿って来てくれ!!」
リアスは自分一人で向かった方が追い付けると考えたのだろう、そう言うとメルを追い越し走り去っていく。
「リアス!!」
「大丈夫だ! ちゃんとついて来てくれよ!」
と彼は優しい声で言うのだった。
メル達はリアスとアベルの後を追い、走る。
襲われた人たちは大丈夫なのだろうか? そして、先に走って行ってしまったアベルは?
彼は怒ると周りが見えなくなってしまうとの話だったが、捕らわれた人達に危害を加えてしまうのだろうか?
リユの話ではそうだと言っていたが……。
「……考えてる場合じゃないよね!」
メルはぐるぐると回る思考は今は邪魔だと考え、真っ直ぐと走る。
そして――。
「リアス、無茶だけはしないで……」
先に行ったリアスの事を心配する。
当然だ、彼はたった一人で自分を助けに来てくれた。
まるで物語の英雄の様に……。
だが、彼はそれで死にかけたのだ。
その時の事をメルはずっと、ずっと悔やんでいた。
「ったく! リアスの奴速すぎるんだよ!」
悪態をつくシュレムだったが、その顔には焦りが見えた。
彼女としても仲間が心配なのだろう。
「急がないと、駄目ね……」
息も絶え絶えと言った感じで空を舞うのはライノだ。
彼は走るより飛んだ方が楽で速いと考えたのだろう……そして――。
「はっ……はっ……」
ただ一人何も言うことが出来ず、苦し気に走るのはリユだった。
そんな彼女を見てメルは驚いた。
リユは王宮魔術師だ。
魔法が使えない時の為に剣術か何かを学んでいるはずだと思ってた。
しかし、よくよく考えれば彼女が身に着けているのは護身用のナイフ一本だ。
だが、置いて行く事は出来ないとメルは走る速度を落とす。
「だ、だいじょう……ぶ、だから……」
メルの意図に気が付いた彼女は顔を歪め、そう言ってくれた。
しかし、メルは首を横に振る。
「リアスが、リアスがきっと何とかしてくれるから――」
メルはそう言うと彼らが去って行った方へと目を向ける。
「でも、一人じゃ……アベルは……」
彼が実際に戦っている所を見た事は無い。
実力がどの程度の物かは分からない。
「……一人じゃ……」
ゼェゼェと息を切らすリユ。
これ以上は走る事は無理だとメルは察し……。
「あの人がどの位強いのか分からない、だけど……リアスだって強いよ」
メルは仲間を信じ、彼女の目を真っ直ぐに見つめたのだった。




