409話 孤児院
孤児院へと向かう中、メルはふと気が付いた。
ライノの足取りが悪いのだ。
どうしたのだろう? と考えたメルだったがその理由はすぐに思い浮かんだ。
そう、あのシスターだ。
口が悪い彼女が苦手なのだろう、前回初めて会った時も気持ち悪いなどと言われてしまっていた。
だが、彼は大人だ。
文句を言う事は無かった……。
しかし、いやだという気持ちは変わらないのだろう。
だからこそ足取りが遅くなっているのだとメルは察し……。
「ライノさん、大丈夫?」
と尋ねた。
すると彼はにっこりと笑みを浮かべ……。
「ええ、大丈夫よ? どうしたの?」
と口にする。
本人としては気にして欲しくないという事だろうか?
メルは訪ねようか迷ったが……。
ライノはすたすたと歩き始めてしまった。
「あ、ラ、ライノさん! 先に行くと危ないよ!」
魔物の気配や音はない。
安全だとは言っても待ち伏せする魔物はいる。
それはこの前問題になっていたゴブリンもそうだ。
彼らは一匹一匹は弱くとも、群れをなし連携を取る。
更には道具を使いこなす知能を持つ。
そう、ゴブリンは賢いからこそ戦いを避ける。
だが、戦わなければならない理由があればゴブリン達は武器を手に……。
自分達よりも強いであろう人間に挑むことは多々あるのだ。
そして、実際に被害は出ている。
決して侮って良い魔物ではない。
となると、この辺りに潜んでいないとは言い切れないのだ。
「待って、ライノさん!」
メルは彼を呼び止め、彼は自分の行動を恥じたのだろうか?
顔を赤らめながらやや困った表情を浮かべた。
「らしくなかったわね」
と呟き、溜息を一つ付くのだった。
「確かにな、あのシスターは俺も苦手だ」
リアスはそう言うとライノ背を叩き、前を歩く。
同時にシュレムは……。
「美人なんだけどなぁ」
とボソッと呟いた。
事情を知らない二人は首を傾げていたが、それもあの孤児院に着けばわかる事だろう。
メルは敢えて黙っておくことにした。
何故なら、会う前に人の悪口を言う感じがして嫌だったからだ。
「えと、会えばわかります。悪い人ではないはずですよ?」
メルはそう言うとアベルは不安そうな顔を浮かべ……。
「そ、そうか……」
彼は孤児院に部下を送っていると言っていた。
だからこそ、心配になってきたのだろう。
メルは彼から大丈夫だとは聞いたが、少し心配になるのだった。
まさか、あの人の言葉遣いが嫌で逃げるなんて事はないよね?
相手は騎士だ。
流石にそれで見捨てるという事は無いだろう。
メルはそう思う事にした。
暫く進みもうすぐ孤児院のあった場所へと着くという頃。
メルは変な臭いを感じた。
「ん?」
前に嗅いだ匂いとは違う。
野菜や土の臭いに交じるどころか、それをかき消す腐臭がしたのだ。
途端に嫌な予感を感じたメル。
当然だ、あの孤児院に腐る物はない。
確かに食べきれなかった物を畑に投げ入れ腐らして栄養にするなんてことはあるだろう。
だが、それとは違った臭いに感じたのだ。
「何かあったのか? 変な顔してるぞメル」
シュレムは彼女に問い、メルは嫌な予感を感じつつ前へと出る。
「急ごう!」
建物自体は壊れていない。
なら、無事のはずだ。
そう思い、メルは先を急ぐ……。
そこで彼女達が目にしたものは酷い物だった……。
無造作に投げ捨てられた魔物の死体。
腐ってはいるがゴブリンだという事が分かる。
それだけではない……子供ではない人の腕の様な物。
そして、運良く風に攫われなかったのだろう破れた布。
荒された畑……一見無事化に見えた建物には無数の切り傷もあり、メルはそれを見て膝を折った。
「なん、だ……これ?」
アベルは呆然としつつも原因を探るため辺りを見回す。
腕や死体は腐敗が酷く、何時死んだのかも分からない。
「ね、ねぇアベル!」
そんな中、リユは1枚の破れた布を指差した。
布は他にもあったが、リユがそれを指差した理由は恐らく、布の材質だろう。
他に比べしっかりしているのだ。
「これ……兵士のじゃ?」
リユは不安そうにそう口にする。
だが、アベルはそれを手に取り……ゆっくりと首を横に振った。
「恐らくそうだ……、誰のかは分からないがレライの兵の誰かの布だ」
彼はそう言い切った。
「どうして分かるの?」
当然メルは疑問を感じ尋ねるのだが、すると彼は自身の着込んでいる服を摘まむ。
「色こそは違うが同じ材質だ。他のはただの服……これだけ違う、兵士は他の服よりも丈夫な服を支給されているんだ……鎧の下に着る為に……」
彼は辛そうな表情を浮かべそう言うのでした。
一体この孤児院に何が起きたのか? それは誰も分からず。
メル達は死体を避け家の中へと入る事にした。
そうすると中は酷い有様だった。
切り傷が多く、所々に黒い血のシミも見て取られる。
食事の最中だったのだろうか? 腐ったなにかと斬られた木皿もある。
「食事中にゴブリンに襲われたのかしら? それにしては……」
「ゴブリンじゃないよ、多分……これ、人に襲われたんだ」
ライノの疑問にメルは答える。
そう、ゴブリンがやったにしては綺麗すぎるのだ。
メルは……辺りを見回しながらそう判断したのだった。




