408話 新たなる場所へ
メルの提案は普通では考えられないものだ。
レライの住民は彼女を見て固まってしまった。
だが、リアス達は違う……。
実際、リアス達の持つ武器は魔法の武器ではなく精霊の加護を持つ武器だ。
その武器の力はすさまじく……彼らはメルの言う事を信じられたのだ。
「でもどうするんだ? 木々の壁じゃ燃えちまうんじゃないか?」
それは確かに心配だ。
だが、メルにはそれもちゃんと考えている。
「大丈夫、だからドリアードの力を借りるの」
「ん? なんでだ? 今のは確かにリアスの方が……」
シュレムは珍しく、リアスに同意をする。
するとそれに対して答えるメル。
「大丈夫、普通の木の壁よりは燃えにくいよ」
燃えないという訳ではない。
だが、枯れ木よりは燃えにくいのもまた事実だ。
それに対してもちゃんと対策を考えていた。
「それに、勿論最初に作る木々の壁の内側にちゃんとした石壁を作って欲しいんです」
「なに? それでは手間ではないか?」
側近らしき男は眉を顰める。
だがメルはゆっくりと首を振った。
「私達が作れるのは木々の壁です。ドリアードの力を借りれば出来たとしてもこの地の精霊力が減れば枯れてしまいます。そうなれば魔物の脅威にさらされてしまう」
メルは考えられる可能性を告げる。
そう、現状を何とかする事は出来ても絶対に安全になるとは言い切れないのだ。
「なんだと? つまり、君はあれか? 解決は出来ないと?」
「そうじゃないです……でも、その場しのぎに過ぎません……だから内側に壁を作るんです」
メルがそう言うと王は「ふむ」と口にし顎に手を当てる。
そして……。
「分かった、ならば頼もう」
「シュターク様!? この者の言っている事を信じるのですか!? たかが精霊の力を!!」
その発言にメルは眉を歪めるが黙っている。
仲間を馬鹿にされて苛立たない訳ではないが、それはすぐに証明されるのだ。
だからこそ彼女は口を閉ざした。
すると王は彼へと目を向け……。
「無礼だぞ? メルは我々に手を貸してくれると言っているのだ……なのにその言葉、彼女に対し失礼だ」
「そ、それは……」
彼は王にそう言われるとメルを睨み、ふんと鼻を鳴らす。
正直いい気分ではなかったが、彼の気持ちも分からなくはない。
メルはこれ以上何も言って来ない彼に対し、頭を下げ……。
「なら、此処より適した場所を探したいの……そう言えばあの孤児院はどうなったの?」
レライの惨状を目にし、メルはすっかりと頭から抜けていた孤児院の事を思い出す。
するとシュタークは首を横に振り。
メルは目を見開き固まった。
「まて、そうではない、連絡が取れんだけだ……だが、無事ではあるはずだ……なにせルーフの騎士はレライの外には行けなかったからな」
「そ、そうなんですか……だったらあの周辺はどうでしょう? あそこならまだ多少精霊力があるはずです」
メルはほっとしつつ彼へとそう告げるのだった。
するとシュタークは頷き、すぐにアベル達へと目を向ける。
「アベル、リユ……二人には彼女達について行き、街がどの程度の広さが必要かを示してほしい」
「「はっ!!」」
二人は揃って声を出し、メル達の元へと近づいて来た。
それを目にした後、王は先程の男性へと目を向け――。
「移住の準備に取り掛かれ、剣を持てる者は剣を持ち、移動を開始する」
「は、はい! 畏まりました、王よ」
最後にメル達へと目を向けた彼はすがる様な、申し訳なさそうな表情を浮かべ――。
「頼んだぞ」
「はい!」
メルは彼にはっきりと答えた。
正直本当に精霊の力を望んで解放するなんて事が出来るかは不安だった。
その上、本当に街を覆う壁が作れるのだろうか?
先程側近の男性が言っていた事はメルも思う所だ。
だが、出来なければレライの住民は此処で怯えて暮らすしかない。
新たな土地に壁を築き、住み込むには時間が掛かる。
かと言ってその間の警備を手薄にする訳にはいかない。
そうなるとさらに時間が掛かってしまうのだ。
それなら、メルは出来る事はしたいと考えた。
だからこそ、彼女は精霊の力を借りようと考えたのだ。
彼女達は旅の支度を終えると孤児院のあった場所へと向かう。
レライから遠いとは言えないその場所は果たして無事だろうか? 王は兵を派遣してくれると言っていたが……。
彼らが間に合っているのかは分からない。
「じゃぁ、行こう!」
谷を抜けたメル達はまっすぐに歩き出す。
目的地はレライの方角……エスイルのお蔭か魔物はいない。
快適な旅と言っても良いだろう……。
だが、油断をすることはできない。
もしかしたら、もう魔物が近くまで来ているかもしれないからだ。
そう思うと、あの孤児院が無事か不安になってくる。
あそこには当然小さな子供もいる。
「大丈夫かな?」
メルが思わず呟くとアベルは笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、俺の部下が行っている」
彼はそう言うが、その部下と言う人が付く間に何かあったら? とメルは考えた。
しかし、それに対してはリアスが彼女の不安を感じ取ったのだろう。
「もし何かあれば、アベルさんに連絡があるはずだ」
「う、うん」
その言葉を聞き、安堵した彼女は前へと目を向けた。
そして呼吸を整えると仲間達と共に再び歩き始めるのだった。




