392話 なつかしい人達
その日の夜。
メルはシアの部屋へと訪れた。
だが、ノックをしても彼女はすぐに出てこなかったのだ。
どうしたんだろう? とメルは疑問に思う。
すると中からバタバタと言う音が聞こえ、続いて……。
「ま、まままま待ってください」
というシアらしくない慌てた声が聞こえる。
何かあったのでは? と心配だったメルだが、彼女の声は何処か艶っぽいが変な事は起きてい無さそうだ。
「シア? 入るよ?」
そうなると久しぶりに血の繋がらない母に会いたいという欲が収まらなかったのだろう、メルは扉へと手をかけた。
「メル様!? だ、駄目――」
慌てた様子のシアの声が聞こえたが、メルは特に気にする事も無く扉を開く。
するとそこには……。
「…………え?」
半裸のシア、そして彼女の夫のドゥルガが居た。
汗をかいている彼女達を見てメルはその場で固まったが、すぐにはっとし慌てて扉を閉めた。
メルも子供ではない。
何をしていたかぐらいは分かるのだが……その場でずるずると座り込むと……。
「ぁ……ぁぅぁぁぁ?」
扉に手を付き座り込んだまま言葉にならない言葉を発していた。
「お前何やってるんだ?」
「ひゃぁ!?」
突然聞こえた声にメルはびくりと身体を震わせ、尻尾と耳の毛を逆立たせる。
恐る恐ると振り向いてみると其処には……。
「バ、バルドさん」
「あ? あ~……」
彼は母ユーリ達の仲間の一人バルドだ。
彼はメルが座り込んでいる部屋が誰の部屋か察したのだろう。
「……確認もせずに扉を開けるのだけは辞めた方が良い」
「……はい」
そして、彼に言われた事に対し頷くと彼女はがっくりと項垂れた。
「まぁ、なんだ……あいつらも今は気まずいはずだ。フォルやシュカの奴も喜ぶ、行くと来ないなら来るか?」
「フォルも?」
メルは顔を上げバルドを見上げる。
バルドの妻であるシュカが喜ぶというのは理解出来たのだ。
だが、フォルは生意気な少年だ。
喜ぶなんて本当だろうか? とメルは首を傾げた。
するとバルドは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
メルはその表情を見ると何故かリアスを思い出す。
彼は優しい笑みを浮かべるはずなのにだ。
「……メル、どうした?」
「え? あ……なんでもないよ」
メルはバルドにそう言うと彼の後をついて行く。
このままここに居る訳にはいかないと思ったからだ。
だが……メルの脳裏には先ほどのシアたちの姿がしっかりと刻まれており。
何故かリアスが思い浮かぶと顔が熱くなるのを感じた。
そして恥ずかしくなった彼女は顔を覆うのだった。
バルド達の部屋へと向かったメル。
部屋の主であるバルドが扉を開けると中から少年の声が聞こえた。
「おかえり……パパ」
「パ、パパ!?」
メルは素っ頓狂な声を出し驚いたのだが、それも仕方がないだろう。
何故ならフォルはメルの前では決してパパと呼ばないからだ。
せいぜい父親、父さんぐらいだったはずだ。
「な!? なななななななな!?」
そして、メルの声を聞いたフォルは顔を真っ赤にし彼女を見る。
「メル……いらっしゃい、バルド、おかえり」
固まる二人の間に割り込んだ女性はフォルの母シュカだ。
黒い髪を短くそろえた女性のお腹は大きく膨らんでいた。
フォルには年が離れた家族が出来る様だ。
「……挨拶なんて別に良いだろ? わざわざ顔を見せる必要なんてねぇ……」
「また! お前母さんを何だと思ってるんだよ!!」
フォルは早い反抗期と言うものなのだろう、先ほどはパパと呼んだバルドの言葉に突っかかる。
「うるせぇなぁ……黙ってろフォル」
バルドはぶっきらぼうにそう言うが、メルにはその言葉の意味が分かっていた。
単にシュカが心配なのだ。
身重である彼女に余計な負担はかけたくない、だからこそ顔を見せに来なくてもこっちから出向くと言いたいのだろう。
「バルドさん……その言葉じゃ殆どの人が勘違いするよ」
メルが注意をすると彼女の考えがあっていたのだろう。
バルドはそっぽを向き……。
「こっちもうるせぇなぁ……」
「素直じゃない……」
尻尾を立て腰に手を当てたメルは彼へとそう告げた。
すると彼は溜息をつき……。
「何でお前ら家族はいつも……ったく! シュカ、寝てろ! いつも言ってるだろ……」
面倒くさそうな態度を取りつつも怒鳴らないのは彼女の事を思ってだろう。
シュカは当然バルドと言う人間を良く知る人物だ。
安心しきっている様な笑みを浮かべると、こくんと首を縦に振る。
「お前いい加減に!!」
だが、息子であるフォルはバルドに憤り、声を荒げる。
メルは此処で怒鳴り声を聞かせたくないとフォルの口を塞ぎ。
「バルドさんは口が悪いだけだよ、フォルだって知ってるでしょ? ね? パパって呼んだんだから本当は好きな癖に」
と尋ねる。
口をふさがれ暴れるフォルだったが、冒険者見習いであるメルとただの少年であるフォルでは力が違う。
諦めた彼はメルの腕の中で顔を真っ赤にするのだった。
「ありがとう、メル」
シュカはそう言うとバルドに連れられて奥へと向かっていく、恐らくはベッドに寝かされるのだろう。
「……随分大きくなったね、お腹」
メルは彼女が去った後、そう口にし拘束を解く。
「うん、でもさ……体調は良くないよ、カノンドが見つかったけど意味はなかった」
「…………そうなんだ」
その話を聞くとメルは何て言ったら良いのか分からなかった。
シュカは身重になってから体調を崩しやすくなっていたのだ。
医者に言っても意味はなく薬師であるシンティアの薬でも効果は無かったのは知っていた。
勿論、メルの母であるユーリも魔法を使ったものの意味は無かったのだ。
だからこそ、夫であるバルドは彼女の為に様々な所へと飛び回り薬を集めている事もだ。
「医者は色んな病気に掛かってるって言ってる、なのにアイツは母さんを放って置いて!!」
だが、そんな父の事を良く思っていなかったのだろうフォルの口からは憎しみが紡がれていた。




