384話 クルムの元へ
重い足取りでも、前へと進めばいずれクルムの元へと辿り着く。
メルはシレーヌ達に連れられて、彼女の家の前に立っていた。
「……ふぅ」
メルは深呼吸をし、扉を叩く。
すると中からは一人の女性が姿を現した。
彼女はメルを見ると笑みを浮かべる。
その笑みが今のメルには辛いものでもあった。
「メルちゃん!」
「…………こんにちは」
メルは重々しい雰囲気であいさつをするとクルムは首を傾げながら辺りを見回す。
だが、そこには誰も居ない。
いや、正しくは姿の変わった精霊二人以外誰も居ないのだ。
「エスイルとあの男の子……それにシュレムちゃんは?」
彼女は当然仲間達の事を訪ねてきた。
メルは――。
「リアスとシュレムはまだレライに居ます」
そう伝えたメル。
だが、エスイルの事はどう伝えた物か? と悩んだ。
連れ去られた……そう言えば終わってしまう話。
ですが、それが一番つらい。
「エスイルは?」
クルムの不安そうな声が聞こえ、メルはびくりと身体を震わせる。
すると勝手に瞳からは大粒の涙が溢れ、メルは何も答えられ無かった。
守ると誓ったのに……約束したのに……。
何も出来なかった悔しさ。
そして、あの騎士達以外にエスイルを狙う者が無く、油断していた愚かさ。
「ごめん、なさい……ごめんなさい」
メルはただ謝る事しか出来ず。
クルムも悲しいはずだというのに……寧ろ彼女の方が悲しいはず。
だというのに彼女は何も言わずただ、メルを抱きしめた。
暫くし、メルが落ち着いた頃。
クルムは瞳に涙を溜めながら訪ねてきた。
「あの子に何があったの?」
「………………実は」
メルはようやく話し始めることが出来た。
「実は……エルフに身体を乗っ取られたんです、そのエルフは私達人間を滅ぼそうとしていて、それで、私かエスイルの身体を狙っていたみたいで……彼女に……」
それは安易には信じられない事だ。
エルフと言えば、会えば豊かになれると言われている豊穣の精霊。
だが、その実際の姿は世界の創世主。
まさに神と言って良い存在だ。
「エルフが? 私達を……? その為にエスイルが?」
クルムが驚くが、メルは構わず話を続けた。
「でも、エスイルの意志は残っていて、まだ……助けられるかもしれないんです」
希望はまだある。
そう告げた所でメルは迷った。
私が助けます……そう口にするかを……。
果たして彼女がそれを許してくれるか?
メルは自分がエスイルをちゃんと守れなかった事を理解している。
そのメルに再び息子の事を任せられるわけがない。
そう言われても仕方がない。
メルはそう思ってしまったのだ。
だが、クルムは優しげな瞳でメルを見つめ――。
「助けてくれるんだよね?」
と尋ねて来た。
メルは迷いつつも首を縦に振る。
だが、その迷いは耳と尻尾、そして表情に現れていた。
だからだろう、クルムはメルの両肩へと手を置き……。
「大丈夫、貴女ならきっと助けてくれるって信じてるから」
何故そんな事が言えるのだろうか?
信じて預けたはずだ、だが……結果は今の通りだった。
クルムは怒っても良いはずだ……いや、寧ろ怒るのが当然だ。
なのに、クルムはそうではない。
「でも、私のせいで……」
あの時、喧嘩をしなければ……もしかしたら、エスイルは攫われなかったかもしれない。
そう思うと後悔しかない。
「エスイルはメルちゃんの目の前でエルフ様に攫われたの?」
クルムの質問にメルは首を振る。
「分からないんです。いつ、エスイルの精神に入り込んだのか、私にも全く……」
そう答えるとクルムは頷きゆっくりとメルへと語り掛けた。
「実はね、神子と呼ばれる森族の中には極稀にエルフ様が宿る事があるの、それは誰にも分からない内に……」
「…………え?」
それは初耳だった。
エルフが宿る、とはどういう事だろうか?
「元々私達は人間との対話の為に生まれた存在……だから、そう言った事が起きるんだと思う」
「そんな、じゃぁ……」
エルフの器として自分達が存在しているのか? メルは困惑した。
当然だ、そんな重要な話何故伝わっていないのか?
エルフが宿るという事はその人の人生も変わってしまうだろう。
「それでも、本当に稀だったの……助言とかしてくださって、それで元の持ち主に身体を返す。私も小さい頃一度だけ見た事があるの」
「…………」
メルはクルムの話へと耳を傾ける。
「だけど、今回みたいに身体を動かして攫って行くなんて初めて、私達を滅ぼそうってメルちゃんは言ってたけど、どういう事なの?」
「……分からないけど、ただ……もう一人のエルフはそう言ってた」
メルはクルムにそう伝え、彼女は深いため息をつく。
自身の息子が攫われ気が気でないだろう。
だというのに、彼女はメルを気遣い。
「分かった、とにかくメルちゃんを信じる、あの子をエスイルをお願い」
「……はい」
メルは力強く頷く……そして、今度こそは守って見せると心の中で誓うのだった。




