381話 集落へ
メルは門番に言われた通り真っ直ぐ進む。
しかし、メルは極度の方向音痴であり、迷う可能性は十分にある。
そんな彼女を道案内するのは精霊シレーヌだ。
「あの……村長さんに会ってどうするんですか?」
村長の家へと向かう中、イヴからそんな質問があった。
メルは足を止め彼女に答える。
「この村でイヴさんのお世話が出来ないか聞いてみるんだよ」
するとイヴは驚き……。
「あ、あの……連れってってくれるんじゃ?」
不安そうに言う彼女に対し、メルは首を横に振った。
確かに連れて行けば彼女からしたら安心だろう。
短いとはいえ、共にいるのは一緒に行動をしてきたメルだからだ。
だが……メルにとってはそれは困るのだ。
「私が向かうのは遠くだから、イヴさん武器とか魔法とか使える?」
メルが問うと彼女は黙り込んでしまった。
それは答えと言っても良いだろう。
そして、もし使えると言ったとしてもメルは彼女は戦いには向かないと考えていた。
華奢な身体に歩きなれていないからだろう、今彼女の表情を見ると疲れ切っているのが分かった。
だからこそ、メルは彼女を連れて行けないと判断をしたのだ。
「ここの方が安全だよ」
ここは村だ。
確かに不安かもしれない、だがそれでも……。
「策はあるし、門番は居る。だけど、私と一緒に行くなら守り切れるかなんて分からないよ?」
正直に言ってしまえばここに居ても絶対に安全とは限らない。
だが、旅をするよりは遥かに安全だ。
「分りました……」
イヴもそれは理解したのだろう、ゆっくりと首を縦に振る。
メルはそれを確認してからシレーヌへと目を向けた。
『こっちですよ、メル』
シレーヌはそう言いながら真っ直ぐと案内をしてくれて、メル達は大きな家へと辿り着く。
屋敷……とは言えないが村の中で間違いなく一番大きい物だろう。
だが、そこに兵士などは居ない。
メルは戸を叩き中へと呼びかけた。
「すみません」
すると暫くして中から姿を現したのは人のよさそうな老人だ。
「君は誰かな?」
老人はメル達にそう尋ね、メルは頭を下げると名を名乗った。
「私はメアルリースです、実はお願いしたい事がありまして……こちらへと来たのですが……」
メルがそう言うと老人は「ふむ……」と一言口にした後、扉の中へと手を向けた。
「では、立ち話をするのもなんだ、中に入りなさい」
「ありがとうございます」
老人に促されるまま、メル達は家の中へと入るのだった。
家の中も質素ではあったが綺麗で掃除もしっかりしてあるようだ。
椅子は無く床に座ったメル達。
そんな彼女達の前へと座るのは先程の老人だ。
彼がこの村の村長だろう……。
「それで、お願いとは? こんな小さな村にどんな願いがあるんだ?」
「実は……」
メルは村長へと説明をする。
自分がリラーグへと向かっている事、その途中でイヴと出会った事。
そして、イヴを連れて旅をするのは危険だという事……。
「ふむ……」
「それで、イヴさんをこの村で一時的にでも預かっていただけないかと……」
もし、生活が厳しい様ならメルはすぐにリラーグの王シルトへと掛け合うつもりだった。
彼に言えばきっとリラーグで暮らすことが出来るだろう。
仕事自体は自分で探してもらうほかないが、それでも自分が連れて行くよりは後からちゃんと迎えに行ってもらった方が安全だ。
だが、その前に此処で預かってもらえれば一番いいのだ。
「困っているのは分かった……だが、お嬢さん君は何が出来る?」
老人はイヴへと問う。
メルもこの言葉は薄々予想していた。
小さな村だ……となれば助け合いは必須、彼女もまた何かしらの事で村に貢献しなくてはならないだろう。
「で、出来る事? 急に言われましても……」
「家事か? 裁縫か? その華奢な身体で狩りは無理だろう?」
老人はそう尋ねると彼女をじっと見つめ……。
「手が綺麗だな」
「ふぇ!?」
そう言われ何を勘違いしたのかイヴは慌てて手を後ろへと隠した。
老人は悪魔でも冷静にゆっくりと言葉を紡ぐ。
「恐らく土もいじった事が無いだろう? お嬢さんは何か出来る事があるのか?」
「えと、あの……」
その言葉に返すことが出来ないイヴ、そう……彼女は何も出来なかった。
そして、出会って間もないこの状況で老人は彼女には何も出来ないという事を悟ったのだ。
これでは預かってはもらえないそう思ったメルは……。
「謝礼はします、私はエルフの使者の娘です……だから、必ず」
そう告げた。
すると老人は再び考えるそぶりを見せた。
だが、どうにかして預かってもらわなければこのまま連れて行くしかない。
そうなればリラーグにつくのにも時間が掛かってしまう。
メルもまたイヴを放って置く事は出来ずとも困っていたのだ。
「そうか、分かった、一時的になら預かろう……だが、その間仕事は覚えてもらう、良いな?」
と村長は渋々頭を縦に振ったのだった。




