380話 冒険者として
歩き始めてどの位の時間が経っただろうか?
魔物からイヴを守りつつ進むのはメルも神経をすり減らすことになった。
しかし、だからと言って焦ったりしてはいけないとメルは考える。
当然だ、守る者が焦っては意味が無いのだ。
だからこそメルは神経をすり減らすことになっても彼女を守るため冷静さを忘れないようにと自身に言い聞かせた。
「ふぅ……」
耳をピンと立て、尻尾を揺らしながら辺りの音へと耳を澄ませるメル。
魔物らしき音を聞いてはそれから遠ざかる様に進む。
時間はかかるが、イヴが戦えるとは限らない。
寧ろ、彼女の格好から予想して彼女が戦うなど不可能だろう。
「だ、大丈夫ですか?」
息を吐き出したメルに対し、心配そうに尋ねるイヴ。
勿論疲れていない訳が無いメルだったが、笑みを浮かべ……。
「大丈夫だよ?」
と口にすると、彼女もほっとした様子だ。
「さてと……シレーヌ!」
彼女のそんな姿を見たメルは水の精霊であるシレーヌへと声かけた。
魔物から逃げる為にどうしても道を外れなければならない。
そうなるとメルに村に着くことなど不可能になってしまうだろう。
だからこそシレーヌの助けが必要なのだ。
『右に向いてそこから真っ直ぐですよ』
シレーヌの言う通りにメルが道を変えるとイヴは首を傾げた。
「えと……さっきからくるくる回ってますけど……」
「うん、精霊に道を尋ねてるの、そうすればちゃんと村に着けるよ!」
メルにとっては当然の事だ。
しかし、多くの人にとって精霊に道を尋ねるなど愚策だとしか思えない。
何故なら、精霊はそこが安全かどうかを知る事は出来ても周辺の景色を見ることが出来ない。
「あ、あの……」
当然、イヴは不安そうな表情を浮かべた。
景色が見えない精霊にどうやって道を尋ねるのか? 誰もがそう思うだろう。
「あ、え、えっと私はあの……」
特別なの……という言葉は避けておきたかったメル。
「方位の精霊って言うのが居て、その子に聞いてるの」
しどろもどろになりながらメルは自身の瞳の事は隠す。
イヴを助けなければ、とは思うが安易に人に話す内容ではないからだ。
魔力を見極める瞳、相手の思考を読み取る瞳など色々とあるがメルの瞳は珍しいもの。
精霊と視覚を共有させる瞳……。
それのお蔭で今、道に迷わずに進めるのだが……。
『私は方位の精霊では、ないですよ?』
「わ、分かってるよ、ただ、目の事は隠しておきたいの」
小さな声でシレーヌと内緒話をするメル。
イヴには聞こえてないのだろう瞼をぱちぱちとさせていた。
だが、すぐに言いたくない理由があるのだろうと察してくれたのだろう。
彼女は微笑むと……。
「方位の精霊って言うのが居たんですか、知らなかったです」
と答えてくれるのだった。
その言葉は誰から見ても気を使ってくれていると分かる物だ。
だが、メルは何も言わず、ただそれ以上何も聞いて来ない彼女に感謝した。
疑う訳じゃないけど……相手も転移魔法が使える以上何処に居るか分からない……分からない?
メルはそこまで考え首を傾げた。
果たして何故わからないと感じたのか?
同じ転移魔法であれば出てくる場所を予測することは可能だ。
「あの、イヴさん……ちょっと聞きたい事が」
「なんでしょうか?」
メルは転移魔法で飛ばされたであろう彼女にそれを尋ねる事にした。
「あの、出てきた場所に魔法陣がありませんでしたか?」
「魔法陣?」
考え込むイヴは腕を組む。
すると眉をひそめて暫くそうしていたが……。
「無かった、確かなかったです」
「無い?」
メルにとってその言葉は信じられない物だった。
転移の魔法を使う以上、出口は必要だ。
少なくともナタリアの魔法ではそうなのだ。
じゃぁ、出口は選べないって事? そんな訳……。
そんな危険な魔法でどうするのか? メルは考えたが、すぐに答えに行きついた。
そう、彼女が犯罪者だというのなら出口は何処でもいいのでは? と……。
「あの……」
「え? ああ、何でもないよ?」
メルは不安そうにする彼女を見て慌ててそう告げる。
そして、目の前へと迫って来た集落へと目を向けた。
小さい村だ。
壁も咲くぐらいしかない。
だが、しっかりと門兵は配備されており、メルはそこへと近づくと頭を下げた。
「いらっしゃい」
笑みを浮かべている彼はそうメルに告げる。
「あの、この村の村長さんって何処にいるんでしょうか?」
早速メルはイヴの事で相談しようと思い村長の家を訪ねる。
すると彼は――。
「ああ、村長ならこのまま真っ直ぐ言った所にある大きな家だよ」
メルが取り出したお金を受け取りつつ答えてくれた。
「ありがとうございます! イヴさん、行こう?」
後ろに居る女性へと声をかけたメル。
彼女はすこしおろおろとしながらメルの後をついて来た。
村長に彼女を預け、早く行かなくては……メルはそう思いつつ、足を進めるのだった。




