375話 先へ
パチパチと音を立てて燃える炎。
そこには炎の精霊であるフラニスが寄ってきている。
彼女達は炎の周りを嬉しそうに舞い、メルへと目を向けた。
「…………」
メルは微笑みながら彼女達を見つめふと考えた。
そういえば、フラニス達がシレーヌみたいになったらどうなるのかな?
精霊の道具があったって事はこの子達も、それに、ドリアードも変化するって事だよね?
その姿を見てみたい、そう思うメルは……その時は戦いが必ずあると確信し、そんな事は無ければいいとも思っていた。
しかし、どっちにしろ彼女達の力が必要になる。
いずれはその姿を見る事になるだろう……。
だが、メルは今はまだこの小さな平和を感じていたいと願っていた。
もし、彼女が遅れてしまえば戦争は始まってしまう。
急がなければ、そうはやる気持ちを更に焦らせるように雨音も強くなっていく……。
『メル……』
メルの名を呼ぶ水の精霊シレーヌは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
しかし、この雨が彼女の精ではない事はメルも分かっている。
ましてや自然現象は精霊の住処を生む貴重な物だ。
「大丈夫……なんとかなるから」
母達ならきっとそう言うはずだ。
メルはそう思いながら母の口癖でもある「なんとかなる」という言葉を口にした。
すると不思議と自分の中で膨らんでいた焦りが少しなくなっている事に気が付いた。
先程まではどうにかしなければ、と考えていたのにもかかわらずだ。
「なんとか……なる?」
もう一度口にしてみる。
何故か暖かさを感じたその言葉を噛みしめ、メルは再び炎を見つめる。
そうだよ、だって……ママ達はそうやって来たんだもん、だからきっと……。
「…………なんとかなる」
三度目の言葉には確信があった。
大丈夫だよ、母にそう言われている気がしたメルは……焦らずに雨が止むのを待つ事にした。
すると先ほどまで強かった雨音は次第に弱くなっていく……。
大振りから小振りへ……そして、日の光が射して来た。
メルは洞窟から出て空を仰ぐ……。
そこには雲に隠れ小さくなっていたが、青空が確かに見えていた。
流れてくる雲は雨が降りそうな黒い物ではない。
雨は晴れた……メルは口元をほころばせると、洞窟で焚いた火へと目を付ける。
「フラニス、ごめんね」
彼女はそうフラニスへと断ると火を消す。
このまま旅立ち火事になったら大変だからだ。
残念そうな表情を浮かべつつフラニスもその事はちゃんとわかってたのだろう。
『メル! またな!』
文句を言う事無く手を振ってくれた。
メルは頷き、同じように手を振ると……。
「うん、またね」
と答える。
晴れてきた空を舞う少女はシレーヌへと目を向ける。
彼女はメルの表情を見て嬉しそうにすると道を教えるためにその小さな身体で示してくれた。
『メル! あっちです!!』
「ありがとうシレーヌ!!」
メルはそんな彼女に礼を告げ、抱き寄せると、シレーヌは可愛らしい笑みをこぼし服の中へと潜り込んだ。
彼女はそれを確認し、前へと進む。
目指す場所は故郷リラーグだ。
「急ごう!」
メルはそう口にはしたが、心のどこかでは余裕が生まれていた。
急ぐのは当然だ。
だが、焦るのは禁物だと……。
私は絶対にリラーグに辿り着いて、レライの事を伝えるんだ!
それに、早くエスイルを助けないと!!
その為には皆と合流するんだ!
絶対にあきらめない。
メルはそう思いつつ、空を進む。
目の前には鳥が舞い、魔物……ドレイクバードも空を泳いでいた。
魔物は招かざる客が来た事に気が付き、牙をむく……。
「っ!!」
メルは魔物の攻撃をかわすと何とか剣を鞘から滑らせ構える。
だが、空は彼らの場所だ。
メルでは戦い辛いだろう。
かと言って地上に降りる気などない。
メルは刃に魔力を通わせ、それを放つ。
すると魔物はその刃を避け、メルへと向かって来た。
このままではその鋭い嘴の餌食になってしまう、そう思われたが、メルは刃を突き刺すように動かした。
確かに踏み込めない、だが、相手の力を使えば勝てるだろう。
そう考えた結果だった。
急に動かされた刃に対処する事できなかった魔物はそのまま自ら刃に突き刺さる。
メルは魔物を振り落とすと剣を鞘へとしまい再びリラーグへと近づくのだった。
「皆、待ってって!」
そう呟きながらも彼女は確実にリラーグに近づいて行く……。
だが、距離がまだあるそこには今日中にはたどり着けないだろう。
昨日は焦っていた。
だが、今日は大丈夫だ……日が暮れる前に彼女は地上へと降り、野営の準備を始めるのだった。
夜も進めない訳ではない。
進もうと思えば行けるだろう……だが、夜は目も見えづらく危険だ。
自分が倒れてしまえば全てが無駄になる。
メルはそう思ったからこそ休むことを選んだ。
彼女は薪を並べ再び火を起こす。
すると辺りのフラニスは洞窟の時のように集まって火の傍で踊り始めているかのようにはしゃいでいた。
『メル!! また会ったな!』
昼間にあった精霊は嬉しそうだ。
彼女は微笑みながら彼女の達の舞踏会を楽しむのだった。




