372話 迷うメル
メルは話ながらも辺りを見てこれは泊まるのは無理だろうか? と考える。
酒場の中には人がいっぱいいるのだ。
流石にメルが寝泊まりする場所はないだろう。
「あの、アイビーさん」
「どうしたの?」
メルはアイビーに尋ねてみようと思ったが、すぐに口ごもらせる。
理由は……。
ドラゴンが相手なんだよね……だとしたら他の宿も人がいっぱいかもしれない。
そう、母ユーリはソティルとたった二人でデゼルトを手懐けたという話だが、普通は無理なのだ。
あくまで彼女の運が良かった。
それは間違いないだろう。
だが、今回はその母だけに依頼されたものではない。
それは目の前の状況を見れば分かる事だ。
そうなれば他の酒場にも冒険者は溢れかえっているのではないか? とメルは考えたのだ。
見ればこの酒場に居る冒険者も見るだけで分かるほど質の良い武具を身に着けている。
それに刻まれた傷や使い古されているのが分かる物。
腕に確かなものがある人々だろう。
「えっと……」
そんな危機的状況にある町で自分が泊まる場所はあるのだろうか?
メルはどう言ったら良いのか分からずにおろおろとしはじめるとアイビーはクスリと笑い。
「大丈夫、メルちゃんは私の部屋に寝泊まりしな」
「え?」
それは嬉しい言葉だった。
しかし――。
「で、でも迷惑じゃないんですか?」
「何言ってるの、迷惑だなんて……とにかく泊まる場所探しても今は難しいからね、それで良いならそうした方が良いよ」
「そうだな、女の子一人じゃ危険な目にあうかもしれないからな」
うんうんと頷くガルグ。
彼はメルを心配しているようだが……。
「まぁこの子も腕が立つんだ、うっかり手を出すと火傷じゃすまないかもね」
とアイビーが笑みを浮かべる。
その言葉にメルは思わず両手を振り。
「い、いえ……わ、私なんてまだまだで……」
実力不足だ。
そう実感をしていたメルはその場で否定をするが、アイビーの言葉を信じたのだろうガルグは感心多様な顔を浮かべる。
「ほう……ならドラゴン退治に参加してもらえばいいじゃないか」
確かにリシェスがドラゴンの脅威にさらされているのは気になった。
だが……。
「あの、私は……」
友好国であるレライもまた戦争の危機にさらさている。
どちらも人命にかかわる事だ。
メルは迷ってしまった。
「分ってる、こっちはリラーグに依頼を出してるんだし、幸い人が襲われたって話は少ないんだ。まだ時間はあるはず」
アイビーはそう言ってくれたが、人が襲われているのは変わりない。
かと言ってここで足止めを受けてしまえばレライがどうなるか分からない。
「……ぅぅ」
「冒険者でしょう!? 先に受けた依頼もこなせない人にこの街を任せるなんて事は出来ないよ!」
アイビーは怒っているのだろう、眉を吊り上げてメルへと告げる。
彼女の言い分はその通りとしか言いようが無かった。
「…………」
メルは見習いとはいえ冒険者。
そして、立派な冒険者になろうと以前誓ったばかりだ。
その為には依頼はちゃんとこなさなければならない。
ましてや、途中で投げ出すなどもってのほかだ。
「でも、ドラゴンが……」
しかし、心配な物は心配だ。
ドラゴンと言えばメルはデゼルトしか知らなかった。
幼い頃から彼女に懐いている空の龍だ。
しかし、今度出会ったドラゴンはまだ被害が少ないとはいえ、人と敵対している。
どれ位の死者が出るか予想は出来ない。
それに街一つ壊す程度なら簡単にできるだろう。
それを誰かがドラゴンを倒し、手懐けるか殺すしかないのだ。
勿論それがメルに出来るとは限らない。
いや、寧ろ普通に考えれば無理だろう。
母ユーリが運が良かっただけなのだ。
相手が水の龍で更には当時彼女だけが使える氷の魔法があった。
その魔法があったためデゼルトは彼女に従うようになったのだから……。
それは母フィーナから何度も聞かされた話しを聞いたから覚えていた話だ。
「ドラゴンが何? だから貴女は自分の依頼を投げ出すの? それならここには泊められない」
「お、おいアイビー、いくらなんでも」
それは言い過ぎではないのだろうか? とガルグは思ったのだろう。
しかし、アイビーは首を振る。
「これは信頼にかかわる問題! 私達酒場は依頼をこなす冒険者を派遣するのが仕事、それなのに、易々と依頼を投げ出す人を泊める事は出来ない!」
「…………アイビーさん」
メルは彼女の名前を呼び、黙り込んだ。
しかし、メルは――。
リアス達も待っててくれてる。
なのに、私がここで足止めを食らったら……もし、戦争が起きちゃったら……。
ドラゴンの脅威だけじゃない、この街も戦争に……。
リシェスは勿論メルン地方にある街だ。
リラーグを王都としているのは知っていた。
だからこそ、メルは――ようやく、顔を上げ。
「アイビーさん、私は明日発ちます、だから一日で良いので……」
そう言うとアイビーは笑みを見せた。
「分かった、そういう事なら泊まっていって」
「ありがとうございます!」
メルは礼を告げ、頭を下げたのだった。




