371話 リシェス
メルがようやく街に入れた時にはもう日が暮れていた。
彼女は並び疲れた事でがっくりと項垂れながらも目的の場所である酒場を探す。
勿論、リシェスに居る母の友人アイビーの店だ。
そこならば母達が来ているなら寄るのが分かっていたからだ。
「シレーヌ!」
ただ、問題は……。
『す、すみません、メル……分からないです』
そこまでの道をシレーヌが覚えていなかったという事だ。
「そ、そっか……」
いくら精霊と言えど道を見たら絶対に覚える訳ではない。
不安ではあったが、幸いリシェスは人が多い、メルはまた道を尋ねる事にした。
かと言ってこれだけ大きな街なら、悪人も居る。
慎重に声をかけなければとメルは考え……。
「出来ればお店の人とかが良いかな?」
そう考えた彼女は近くにあった道具屋へと入る。
「すみません」
「いらっしゃい」
そこには人のよさそうな老人が座っており、メルは店の中を見渡した後、丁度切れていた油を手に取ると彼に尋ねた。
「あの、アイビーさんの酒場って何処でしょうか?」
「ん? アイビーかい?」
老人はメルから代金を受け取った後に微笑みながら答えてくれた。
「この店を出て右に真っ直ぐ、広場に出るからそこを左、そしてすぐの所を右……そこから三件目だったはずだよ」
「そ、そうですか、分かりました……」
正直聞いただけでは行ける自信はなかった。
だが、どうにかしていくしかないとメルは入口の辺りでゆっくりと老人が言った事を繰り返す。
「店を出たら右に真っ直ぐ、広場は左、そしてすぐを右で……」
『………………』
シレーヌは不安そうにメルを見つめるがそんな事はメルは気にせずに前を向くと「よしっ!」と意気込み店を出る。
そして……。
『メル、まずは右……そちらは左です』
「………………」
すぐにシレーヌに注意をされ、メルは思わず顔を赤くし反対方向へと歩き始めた。
ぅぅぅ……確かめたのに、確かめたのに!!
心の中でそう呟きながら少女は夜の街を進むのだった。
メルの呟きを聞いていたシレーヌの案内の元進むメルは暫くして目的の場所であるアイビーの酒場へと辿り着く。
中へと入ると店主であるアイビーの声が聞こえた。
「いらっしゃい! って……」
メルを見て驚いた顔をした彼女はカウンターから出てくると。
「メルちゃん一人? 他には?」
仲間の事を言っているのだろうとメルは説明をしようとした。
すると周りからは――。
「何だよ知り合いか?」
屈強な身体の男性が近寄って来た。
見た事も無い人だが、恐らくは冒険者だろう。
そう思ったメルは彼へと頭を下げ、挨拶をする。
「初めまして、メアルリースです」
「お、丁寧だなお嬢ちゃん……俺はガルグってんだ」
豪快な笑い声が酒場に響き渡る。
メルは店の中を見渡すが、そこには多くの冒険者らしき人が居た。
「てっきりフィーナ達が来ると思ったんだけどね」
「ママ達が?」
「あれ? 話を聞いてなかった……? でもそう言えばあなた一人って言うのは不自然だね」
アイビーはそう言うと首を傾げる。
メルは改めて説明を彼女にしはじめた。
リラーグへと向かわないといけない事。
そして、誰かがレライで戦争を起こそうとしている事。
メルが光の回廊で襲われた事。
そして、何故かタリムへと出てきた事を……。
「そうだったの? でも転移魔法が失敗ってそれってナタリアさんが作った……」
「はい、そのはずです」
メルはそこまで口にして光の回廊での事を思い出す。
確かあの人はナタリアだけの物じゃないって言ってた気がする。
つまり、それは……他にも同じ魔法を使える人が居るって事だよね?
それに……干渉も出来る。
そんな事が本当に可能なのか? と疑問は残るが事実メルは回廊で襲われた。
その上、本来は一人しか通れない魔法陣だったはずだ。
入口からは言って来たとは考えづらい。
「そうか、じゃぁ……リラーグからの使者って訳じゃないんだね」
残念そうにそう言うアイビーにメルは尋ねる。
「リラーグからって事はやっぱりドラゴン退治に誰か来るんですか?」
メルの質問にアイビーは困った様な表情を浮かべた。
どうしたのだろうか?
「実は手紙が届いているのか分からないの、空と陸路……どっちも使ってはいるんだけど」
依頼を出してはいる。
しかし、それが届いているかは分からない。
だが、メルは不安がる彼女に対し告げた。
「大丈夫ですよ、きっとクロネコさんが情報を手に入れてママ達に話してるはずです、手紙が無くともきっと来てくれますよ」
そう、笑顔で答えたのだった。
するとアイビーは目を丸め、すぐに微笑むと……。
「そうだね、きっとそうに決まってる」
笑い声をもらしはじめる。
すると横に居た男性の冒険者ガルグは……。
「なんだよ、俺達じゃ不安ってか? 大丈夫だあんなデカいだけのトカゲ」
「不安も不安、アンタ達は確かに腕が立つんだろうけど、知らない人だからね」
とアイビーが言うと冒険者は「手厳しいな」と笑うのだった。




