370話 出発
「我らに天かける翼を、エアリアルムーブ」
外に出るとメルは辺りを確認し魔法を唱える。
空を進んだ方が早いからだ。
とはいえ、一日で着ける距離ではない。
途中で休む必要があるだろう。
「まずはリシェスに行かないと!! シレーヌお願い」
メルは空に浮かんだ後、傍にいる精霊へと頼み込んだ。
地上と空では見える景色は勿論違う。
しかし、太陽の位置などで方向が分かれば問題ないのだが、メルには残念ながら分からない。
だからこそ、メルは飛ぶ前にも辺りを確認したのだ。
『向こうの方ですね』
シレーヌはメルの目の前へと出て真っ直ぐに腕を伸ばす。
そちらには山があり、リシェスはそちらの方にあったはずだとメルもぼんやりと覚えていた。
「行こう!」
メルはシレーヌにそう言うと水の精霊は頷き、メルの懐へと入り込む。
それを確認した後、メルは前へと進み始めた。
『メル、そちらではありません、もうちょっと左です』
進みながら道を外れるとシレーヌはそう言って正しい道を示してくれる。
彼女に感謝しつつもメルはこれで何とかリシェスへと辿り着く事が出来ると確信した。
だが……。
「な、何アレ?」
山の方へと近づくとなにやら雰囲気がおかしい事に気が付いた。
鳥達は騒ぎ、地上を見下ろすと動物や魔物が慌てているのが見て取れた。
何かあったのだろうか?
メルは不安になっていると……。
『メル!! 前です前!!』
焦ったような声が聞こえ、メルは目の前へと目を向ける。
そこにはメルよりはるかに大きなものが居り、それはメルをじっと見つめている様でもあった。
「う……嘘……」
何故こんな所にそんな魔物が?
メルは呆然としつつも動かなくてはと考える。
しかし、身体は凍り付いたかのように動かないのだ。
それもそのはず、目の前に居るのはドラゴン……。
そう、ドラゴンがそこに居るのだ。
いや、正しくは下の山から飛んできたと言った方が良いだろう。
どうすればいい? メルは考えるも答えなど浮かばない。
どうにか攻撃をかいくぐり、逆鱗を剥げば勝利することは出来る。
だが、普通の人よりは空を飛ぶのが得意なメルでも、そんな器用な真似は出来ないだろう。
「逃げないとっ!!」
メルは思わずそう口にし、来た道を戻ろうとする。
しかし、ドラゴンはメルをあざ笑うかのように大きく一度羽ばたいた。
「キャア!?」
それだけでメルはバランスを崩す。
何とか立て直すが……その度にまるで玩具で遊ぶかのように羽ばたく。
一体、なんなの!?
メルはドラゴンに対し不信感を抱くが、ドラゴンはゆっくりと上へと昇っていく……そして……。
「――っ!」
身構えたメルへと目を向けた後、どこかへと去って行ってしまった。
「え、あれ?」
ドラゴンは確かにメルに気が付いていたはずだ。
そうなれば戦いは避けられない。
メルはそう思っていた。
だが、ドラゴンは何事もなく去って行ったのだ。
「さっきの羽ばたきもただ飛ぶため?」
メルは呟いたがそれに応えてくれるものは居ない。
ただ分かることは助かったという事実と――。
「あ……」
メルが舌を覗き込むと其処には大量の血の跡があった。
つまり、ドラゴンは食事を済ませた後だったという訳だ。
「もしかして、此処は縄張りじゃなくてお腹が空いたから寄っただけで、だから私には興味が無かったのかな?」
首を傾げながらそう呟いた彼女ははっとする。
助かったのならここでボーっとしている暇はない。
「急がないと!!」
彼女は自分へとそう言うとリシェスへと向かい飛び始めた。
暫くし、メルはリシェスへと辿り着く……空を舞う魔物は不自然な程見かけなかった。
だが、先程ドラゴンを見た事から、それが理由だろうと彼女は考える。
地上へと降り立った彼女はすぐにリシェスの中に入ろうとしていた。
しかし――。
「何この列?」
リシェスはそれなりに大きな街だ。
街に入るための手続きで並ぶことはあるだろう。
だが、以前来た時よりもずっと長い列がそこにあったのだ。
しかも、並んでいる人には偏りがある。
商人が少なく冒険者が多い様に見えた。
だからこそメルは首を傾げ……。
「あの……」
目の前にいる冒険者へと声をかける。
「なんだ?」
彼は振り返ると怖い顔で言葉を返して来た。
だが、冒険者には怒っても居ないのに怖い顔の者は少なくない。
メルは気にすることなく会話を続ける。
「何かあったんですか?」
「ああ……」
彼はメルの質問にその口をゆっくりと開いた。
「実はこの近くにドラゴンが出てね、その討伐の為に腕の立つ冒険者が集められているんだ」
「ドラゴン……」
メルは先程のドラゴンを思い出す。
恐らくはそのドラゴンで間違いないだろう。
そして、腕の立つ冒険者と言う言葉を聞き――。
もしかしたら、ママ達がここに来てるかもしれない。
メルはそんな期待を抱くのだった。




